2008年9月23日火曜日

加齢臭のする映画館

   渋谷シネマヴェーラで『危(ヤバ)いことなら銭になる』62年日活中平康監督、都筑道夫原作。ガラスのジョー(宍戸錠)、計算尺の哲(長門裕之)、ダンプの健(草薙幸二郎)という三人の事件屋柔道二段合気道三段のフランス留学を夢見る女子大生(浅丘ルリ子)が、透かし入りの紙幣用紙を盗み贋札原板掘りの名人夫婦(左ト全武智豊子)を使って贋札作り を企むギャング団を相手に、一儲けしようと、虚々実々な駆け引きをするが・・・。ストーリー、テンポ、ウェルメイドなコメディとは正にこういうものをいうのだろうな。比べるのは酷だが、三谷作品は自己満足のドタバタだ。野呂圭介やら脇役も笑えるが、なによりも活き活きとした浅丘ルリ子が素晴らしい。都筑道夫は思い出深い。中学頃、日本のSFを読み漁って、筒井康隆まで終了した後手を伸ばしたのが、都筑だった。
 その後神保町シアター松竹の女優たち。『からみ合い』『風花』『黒い河』。
  62年製作『からみ合い』小林正樹監督岸恵子主演のファム・ファタルもの。オープニングの銀座を歩く岸恵子、手持ちカメラとジャズ、モノクロのスクリーンに立つ姿は、邦画というよりヌーヴェルバーグ。美しい!ただ、ストーリーの展開は、会社社長の遺産相続を巡る騙しあい。登場人物は大なり小なり全員が悪党だ。異父姉を殺して相続人になりすまそうとするヌードモデル役の芳村真里と、共謀する野心家の若手弁護士役の仲代達矢が存在感あった。とてもよくできた脚本とクールな美術。
  59年製作『風花』は木下恵介監督大船調というのだろうか。実はあまり見ていない。テレビ、ビデオで見ても退屈でしかなかったからだが、やはりちゃんとスクリーンで観るものだな。豪農の息子が出征の日に心中死する。相手の小作人の娘(岸恵子)は生き残ったが子供を身ごもっていた。豪農の主は激怒、息子の骨を川に投げ捨て、小作人は首を吊る。豪農の心優しい使用人(笠智衆)は身寄りのいなくなった娘を、主に掛け合って豪農の家に引き取るが、産まれた子供の名前として主が届けた名前は捨雄というあまりの仕打ちだった。捨雄も成長するが、その名前でいじめられ通しだった。そんな捨雄を優しくしてくれたのはただ一人豪農の箱入り娘さくら(久我美子)だった。19歳になった捨雄(川津祐介)と母(岸)はさくらが嫁に行くまでこの家に尽くそうとするのだった。久我美子の女学校の友達役で有馬稲子、彼女は女学校卒業後、東京の学校に行き、貧乏画家と暮らしているらしい。『からみ合い』の都会的な女性とは真逆な、小作人の娘から捨雄の母親まで岸恵子がモンペ姿で毎日汗水たらして働く健気な女性の18年の人生を熱演。しかし捨雄か・・・。
  『黒い河』は、57年小林正樹監督。厚木の米軍基地の周りの歓楽街バラック アパートアパートに住む貧しいが逞しく生きる変わった住人たち。狂犬のような愚連隊のボス(仲代達矢)の策略で貞操を奪われたウェートレス(有馬稲子)だが、彼女は、アパートに引っ越してきた真面目な大学生(渡辺文雄)への気持ちが揺れ動いていた。アパートのごうつく大家役の山田五十鈴のブスメイクが怪演という以外に表現のしようがないのと、仲代達矢が『あしたのジョー』の力石にそっくりなアブナい雰囲気満点でインパクト大。クサい芝居というか熱演というか、砂ぼこりハエと肥溜めの臭いで暑苦しい、戦後の日本を醸し出している。ただ彼女の白いブラウス白いワンピースは、清潔で気高い美しさの象徴だ。
   西荻で同居人と、Sで魚と酒。かなりベロベロに。魚は、今のところ、西荻では一番美味いと思うので、店名はイニシャル。

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