新文芸坐で、大雷蔵祭。
63年大映京都森一生監督『新忍びの者(2)』
三条河原に引き立てられる石川五右衛門(市川雷蔵)。秀吉の暗殺に失敗した五右衛門は釜煎りの刑に掛けられるのだ。見物の群集の中には、服部半蔵(伊達三郎)の姿がある。燃え盛る炎の中に据えられた大釜。突然小爆発が起こったが、五右衛門は大釜に入れられ、苦しみながら焼け死んだ。
六角の辻に、五右衛門の首が晒されている。見物の町人(志賀明・大杉潤)が噂話をしている「夜中に五右衛門の首が喋ったらしいな」「太閤殿下に祟ると言ったそうな」
洛東南禅寺の山門に半蔵の姿がある。周りを伺い、綱を山門の上に放り投げ、するすると昇る半蔵。薄暗い中を窺っていると声が掛かる「この位の闇で目が見えぬようでは忍者とはいえないな。家康に仕官してからめっきり腕が落ちたのではないか、半蔵」「何とでも言え、五右衛門。ほら飯と酒だ。神仏に何を祈っていたんだ」「腕は鈍っても、口は減らないな。妻子を殺され六角の辻に首を晒された俺が、何を祈ると言うのだ…半蔵!なぜ俺を助ける?お主の主(あるじ)の命か?」「違う!俺の一存だ。伊賀が、才賀が潰され、忍者が無くなるのが、俺は惜しいのだ」「身代わりで死んだ男に申し訳ない」「もともと獄門に上がる奴だったのだ。多すぎる金を貰って、女房はホクホクだったぞ」
六角の辻、五右衛門の首が、見張りの下役人に声を掛ける。驚いて逃げ出す下役人。その隙に、五右衛門は首を盗みだす。身代わりとなった男の首を無縁仏の墓地に埋め、手を合わせる五右衛門。五右衛門の首が盗まれたと京都所司代の前田玄以(藤川準)に報告された「何?五右衛門の首が盗まれたと?所司代の威信にかけても探し出せ!!」
その夜、五右衛門は所司代に忍び込む。女御たちの寝所に、沢山の蛙を放り込むと、直ぐに大騒ぎとなった。その隙に、金蔵から500両を盗み出し、前田玄以の枕に金五百両の借用書を残し、身代わりの首を埋めた墓に金を撒いて、所司代からの見舞金だと書を残したのだった。その話しは、たちまち京都中の話題となり、天狗の仕業ではないかと噂をする町人たちを市で聞いて、ほくそ笑む五右衛門。
淀君(若尾文子)豊臣秀次(成田純一郎)石田三成(北原義郎)名張の犬八(杉田康)赤目の仙吉(中村豊)豊臣秀吉(東野英治郎)北政所(細川ちか子)徳川家康(三島雅夫)木村常陸介(嵐三右衛門)本多忠勝(水原浩一)真田幸村(原聖四郎)本田忠勝(水原浩一)細川忠興(南条新太郎)前田玄以(杉山昌三九)猿楽師の老人(東良之助)とびの八右ヱ門(舟木洋一)加藤清正(玉置一恵)福島正則(千石泰三)和田吉弥(和泉圭馬)世尊寺中納言(大林一夫)検死役人(藤川準)
63年大映京都三隅研次監督『新撰組始末記(3)』
京都三条橋下の河原に晒し首がある。「この者、町人にも関わらず奸賊に追従し、これに依って天誅を加え、死骸を棄てるものである。新撰組」と立て看が添えられている。橋の上の野次馬たちの中に、毛利志満(藤村志保)の姿がある。
志満は想い人の山崎蒸(市川雷蔵)が新撰組に入隊すると言うので、問い掛ける。「わかりません。あなたが新撰組に入ろうと言うお気持ちが…。私は勤皇が正しいのか、徳川を護るのが正しいのかも分かりません。ただ街の人々は、壬生狼!壬生狼!と牙を剥いた野良犬のように呼ぶ人殺し集団です。あなたは、人を殺したいのですか?」「いや違うよ、志麻さん。私の武士を殺さないために、…。」突然、二人の部屋に斬り込む男がいる。「三条河原で、お主に斬られた弟の敵だ」「新撰組山崎葵だ。お相手する」斬り合い男を倒す山崎。山崎に抱き付くが、その手には大量の血がつき、悲鳴を上げる志麻。志麻の頬を打ち、抱きしめる山崎。死人の前で、抱き合う二人。
二人の侍が斬り合っていた。一人は新撰組のようだ。勤皇志士(堀北幸夫)を倒したものの自分も深手を負った隊士の森平八(浜田雄史)に、「見たところ、その深手では助かるまい、一思いに腹を切った方がいいだろう。遺言があれば聞く」と申介錯をし出た山崎を前に、見苦しく、死にたくないと泣き喚いて這いずり周った。武士の情けと介錯する山崎。
島原の遊廓に、新撰組の幹部たちが集まっていた。酔った局長の芹澤鴨(田崎潤)は、深雪太夫(近藤美恵子)を階段から突き落とした。「芹澤先生、許してやって下さい。局長は酔っておられる。私が謝っておくから」「貴様!局長を悪者にして、女に媚びへつらうどん百姓め!女郎の代わりに謝ると言うか、跪け!!」膝を付き頭を下げる副局長の近藤勇(城健三郎→若山富三郎)に忌々しそうに吐き捨てる芹澤「よう忍耐したな、武士なら出来んことよ!」
その陰湿なやりとりを目撃してしまった山崎は、芹澤に隊士の森平八の最期に立ち会い、局長に遺髪を渡してくれと預かったと申し出るが、酔った芹澤は取り合わなかった。
しかし、近藤は、山崎の労を労い、局長の言う通り、自分は武州の百姓の出で、侍になりたいばかりに、天然理心流の道場で、剣術で身を立てようと夢中になったのだと言う。森平八の最期は武士だったかと尋ねる近藤、武士として立派な最期だったと嘘を言う山崎に、近藤は、百姓上がりだからこそ、自分は武士らしくということに拘りすぎるきらいがある、森はそんなに立派な武士ではなかったが、そんな森を庇ってくれてありがとうと言う。山崎は、腑抜けが立派に死ぬこともある、百姓が武士らしく死ぬこともあるようにと答える。近藤は豪快に笑い、これは私のお株を取られた、いつも私は言っているのだ、武士は形ではない、心意気だと。この幕末で武士として生きる意義を苦悩していた山崎は、近藤を好きになった。既に新撰組は、新見錦(須賀不二男)平山五郎(千葉敏郎)ら水戸藩脱藩組の芹澤派と土方歳三(天知茂)沖田総司(松本錦四郎)らの近藤勇のグループが反目していた。
山崎は志満に言う。「武士とは心意気だと、近藤さんは言った。俺は、あのように澄んだ目を初めて見た。このままでは俺は駄目だ。志満さんは女ながら医術という人の命を救う仕事がある。生きる道がある。俺には剣しかないんだ。他人の男女が6年同居したが、私は手を出さなかった。親同士が決めた許嫁だからこそ、痩せ我慢だったのだ。君は私に捨てろと言うのか…」「捨てて欲しゅうございます・・・」泣く志麻。
山崎が居酒屋で飲んでいると、飲み逃げする浪人がいる。居酒屋の親父幸助(石原須磨男)に侍たちが「なぜ、追わぬ?」「追っかけても、斬られでもしたら割があいません」「まあ、あいつの刀は竹光だろう(笑)」食い詰めた浪人たちが、京に集まってきていた。銭を払い外に出ると一人の浪人が声を掛けて来た「おいしい話があるのだ。三条河原の首を見ただろう。土佐の奴に頼まれて、あれをやったのは俺だ。酒は飲み放題だ。お主の腕なら、俺が推薦してやる」突然、その男は斬られ絶命した「他言するなと言ったであろう」「お主は、土佐ものか?」「岡本久蔵だ。そいつのようになりたくなければ、他言するな」言い残して去る岡本久蔵(丹羽又三郎)。そこに通りがかかったのは新選組七番隊組長の谷三十郎(小林勝彦)だ「谷さん!!」それがきっかけで新撰組に入隊する山崎。「親子二代の浪人にけりをつけ、侍としての自分を殺さないために、新撰組が待っている」
新撰組屯所、「一、士道ニ背キ間敷事。一、局ヲ脱スルヲ不許。一、勝手ニ金策致不可。一、勝手ニ訴訟取扱不可。一、私ノ闘争ヲ不許。右条々相背候者切腹申付ベク候也・・・」局中法度を、芹澤、近藤、新見ら幹部の前で読み上げる土方。新撰組の羽織が届いていた。袖を通しながら「鴻池め、軍資金の援助を値切りやがって」新見「あんまり、商家にたかると、近藤や土方がいい顔をしませんが・・」「どうせ、攘夷の連中が押し寄せて集めて行くのよ。?は、千五百両も出したというぞ。俺の新撰組だ」
新規入門希望者はその後もあいついでいた。芹澤「この程度の剣術では使い物にならん。最近は、少し剣が立てば、侍面をする鈍百姓もおおいがな」耐える近藤。大津の百姓の倅の少年。近藤「面を取れ!どこから来た?」「大津です」「歳はいくつだ」「15」「彦兵というたな。そんなに侍になりたいか?」「ここで駄目なら、倒幕派につくぞ!!」笑い入隊を許す近藤。少年は大津彦平(高見国一)と名乗ることになった。
新見が山崎と?に、商家に義捐金を受け取りに行けと命ずる。入れ替わりに屯所には、四条呉服町の菱屋の女将のお梅(勝原礼子)が、掛け取りにやってきた。芹澤は居留守を使うが、お梅は、勝手に中に入って行く。?から金の包みを受け取って戻る山崎と?は釈然としない。屯所に戻り、芹澤の部屋に入ろうとした山崎は、満足げに酒を飲む芹澤と、乱れた姿で啜り泣くお梅の姿を目撃し、何が起こったかを知る。憮然と部屋を出て来ると、近藤に会う。金の包みを近藤に手渡し、「中には獣がいます」と吐き捨てる山崎。近藤は、芹澤に、お梅のことと、新見の商家へのたかりを諌める。芹澤は、新見の私行だと言い逃れをする。
道場に土方が現れ、練習を止めろと言う。物見の席には、芹澤、近藤、新見がいたが、土方は「新見先生は、新撰組を作った時の十三人の仲間であるが、局中法度に背いたので、切腹をして欲しい」と申し渡す。芹澤は「局長のワシに相談もなく!!」と言ったが、沖田や、原田左之助(堂本寛)ら隊士たちの見つめる視線に耐えられず「腹を斬れ」と言わずにおえなかった。庭には、切腹の用意がされている。土方「壬生寺で、芝居があるようだな」沖田「今晩行きましょう」そんな会話に切歯扼腕する芹澤。山崎の介錯で、新見は腹を斬った。
楠小十郎(成田純一郎)山南敬助(伊達三郎)原田左之助(堂本寛)広沢富次郎(香川良介)正木道順(荒木忍)永倉新八(木村玄)大石鍬次郎(薮内武司)佐伯鞆彦(大林一夫)松原忠司(志賀明)内田正次郎(南条新太郎)佐伯亦三郎(矢島陽太郎)池田屋惣兵衛(寺島雄作)会津隊長(嵐三右衛門)浪人(岩田正、沖時男、越川一、小南明)角屋徳衛門(玉置一恵)写真師(山岡鋭二郎)藤堂平助(千石泰三)桔梗屋小栄(毛利郁子)相撲取り(谷口昇)六部(佐山竜一郎)絵草紙屋の娘(高森チズ子)茶屋の女中(三星富美子)柏屋の女中(小柳圭子)婆や(小松みどり)古高俊太郎(島田竜三)北添佶麿(舟木洋一)吉由稔麿(水原浩一)宮部鼎蔵(石黒達也)杉山松助(中村豊)
2011年1月4日火曜日
酔いがさめたら、うちに帰ろう。
シネマート新宿で、東陽一監督『酔いがさめたら、うちに帰ろう(1)』
居酒屋で若者たちが飲み会をしている。近くの席で、塚原安行(浅井忠信)が一人で中ジョッキを傾けている。両手の人差し指と親指を組み合わせ、ファインダーにして、飲み会の娘を見る塚原。娘たち「見てる…見てる…。」「チョー見てる」椅子から滑り落ちる塚原。居酒屋の店員たち「また、あのお客さん」
娘のかおる(森くれあ)「おとしゃん!!おとしゃん」息子の宏(藤岡洋介)「寝ちゃだめだよ。ウチに帰ろう」園田由紀(永作博美)「ほら、帰ろう・・・」これは塚原の夢のようだ。居酒屋の店員たちに抱えられ起こされる。夜の吉祥寺の街を、少しよろよろしながら歩いている安行。下げたコンビニの袋の中には、缶ビール、ウォッカ、いいちこなどが入っている。「塚原」という表札の懸った家に入って行く安行。安行の母弘子(香山美子)が生花をしながら「ちゃんと食べなさいよ、夕飯」あいまいな返事をして、自分の部屋に入る安行。「今日で、酒は終わりです。来週は素面で家族に会うのです」缶ビールの栓を開け、口に運ぼうとして、鏡に映った自分の股間が濡れているのに気がつく、ベッドから立ち上がると失禁をしていることに気がつく、トイレに行き、着替えようとすると突然吐血する。弱った声で母親を呼び、トイレのドアを蹴り続けると母親がやってきて、救急車を呼ぶ。
救急隊員が来て、母親が掛り付けの病院の連絡先などを教えていると、由紀がやってくる。安行に「大丈夫、まだ死なないよ」と声を掛ける。弘子も由紀も慣れている。救急車に付き添いで乗り込む弘子「子供たちのために帰ってあげて・・・」救急車を見送り子供に携帯を掛ける由紀「心配ないよ。おとうさん病院に行った。あと5分?秒で帰るね」
病室で眠っていた安行が目を覚まし、隣の弘子に「何日眠っていた?」「丸3日。よく生きていますねって・・・。吐いたの8回目?」「10回目かな。断酒薬を飲むことにする」「由紀さんたち来るわよ。ああ、もう今日だ」そこに、由紀が、宏とかおるを連れてやってくる。弘子「ちょっと、わたしコンビニに行ってくるからいいかしら」「はいどうぞ」
「俺、病院に入る」「そう」窓にシールを貼って遊ぶかおる。由紀、採尿のパックを見つける。「宏!!おとしゃんのおしっこだ。勝手なおとしゃんの罰に、逆流させてやろう」「やろう!やろう!!」「やめてくれ・・・・」「ほらー」採尿パックで遊ぶ由紀と宏。
うーん、映画としては、正直なところ穴だらけな感じがする。しかし、タイトルと永作博美と子役だけで、何だか許せてしまう。不思議な小品だなあ。
居酒屋で若者たちが飲み会をしている。近くの席で、塚原安行(浅井忠信)が一人で中ジョッキを傾けている。両手の人差し指と親指を組み合わせ、ファインダーにして、飲み会の娘を見る塚原。娘たち「見てる…見てる…。」「チョー見てる」椅子から滑り落ちる塚原。居酒屋の店員たち「また、あのお客さん」
娘のかおる(森くれあ)「おとしゃん!!おとしゃん」息子の宏(藤岡洋介)「寝ちゃだめだよ。ウチに帰ろう」園田由紀(永作博美)「ほら、帰ろう・・・」これは塚原の夢のようだ。居酒屋の店員たちに抱えられ起こされる。夜の吉祥寺の街を、少しよろよろしながら歩いている安行。下げたコンビニの袋の中には、缶ビール、ウォッカ、いいちこなどが入っている。「塚原」という表札の懸った家に入って行く安行。安行の母弘子(香山美子)が生花をしながら「ちゃんと食べなさいよ、夕飯」あいまいな返事をして、自分の部屋に入る安行。「今日で、酒は終わりです。来週は素面で家族に会うのです」缶ビールの栓を開け、口に運ぼうとして、鏡に映った自分の股間が濡れているのに気がつく、ベッドから立ち上がると失禁をしていることに気がつく、トイレに行き、着替えようとすると突然吐血する。弱った声で母親を呼び、トイレのドアを蹴り続けると母親がやってきて、救急車を呼ぶ。
救急隊員が来て、母親が掛り付けの病院の連絡先などを教えていると、由紀がやってくる。安行に「大丈夫、まだ死なないよ」と声を掛ける。弘子も由紀も慣れている。救急車に付き添いで乗り込む弘子「子供たちのために帰ってあげて・・・」救急車を見送り子供に携帯を掛ける由紀「心配ないよ。おとうさん病院に行った。あと5分?秒で帰るね」
病室で眠っていた安行が目を覚まし、隣の弘子に「何日眠っていた?」「丸3日。よく生きていますねって・・・。吐いたの8回目?」「10回目かな。断酒薬を飲むことにする」「由紀さんたち来るわよ。ああ、もう今日だ」そこに、由紀が、宏とかおるを連れてやってくる。弘子「ちょっと、わたしコンビニに行ってくるからいいかしら」「はいどうぞ」
「俺、病院に入る」「そう」窓にシールを貼って遊ぶかおる。由紀、採尿のパックを見つける。「宏!!おとしゃんのおしっこだ。勝手なおとしゃんの罰に、逆流させてやろう」「やろう!やろう!!」「やめてくれ・・・・」「ほらー」採尿パックで遊ぶ由紀と宏。
うーん、映画としては、正直なところ穴だらけな感じがする。しかし、タイトルと永作博美と子役だけで、何だか許せてしまう。不思議な小品だなあ。
2010年12月30日木曜日
2010年もう一度金を払っても見たい映画(順不同)
2010年邦画
『ライブテープ(*)』松江哲明監督
『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』大森立嗣監督
『書道ガールズ!!わたしたちの甲子園』猪股隆一監督
『ハーブ&ドロシー(*)』佐々木芽生監督
『キャタピラー』若松孝二監督
邦画次点
『パーマネント野ばら』吉田大八監督
『カケラ』安藤モモ子監督
『時をかける少女』谷口正晃監督
『川の底からこんにち』石井裕也監督
2010年洋画
『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』サーシャ・ガヴァシ監督
『インビクタス 負けざる者たち』クリント・イーストウッド監督
『NINE』ロブ・マーシャル監督
『息もできない』ヤン・イクチュン監督
『クロッシング』キム・テギュン監督
『クレージー・ハート』スコット・クーパー監督
『オーケストラ!』ラデュ・ミヘイレアニュ監督
『ソウル・パワー(*)』ジェフリー・レヴィ=ヒント監督
『ゾンビランド』ルーベン・フライシャー監督
洋画次点
『彼とわたしの漂流日記』イ・ヘジュン監督
『ぼくのエリ 200歳の少女』トーマス・アルフレッドソン監督
『ジョニー・マッド・ドッグ』ジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督
『エンター・ザ・ボイド』ギャスパー・ノエ監督
『ハート・ロッカー』キャサリン・ビグロー監督
『ジャームス 狂気の秘密』ロジャー・グロスマン監督
『ザ・インフォーマント!』スティーブン・ソダーバーグ監督
『ベンダ・ビリリ! ~もう一つのキンシャサの奇跡(*)』ルノー・バレ&フローランド・ドラテュライ監督
金返せ。
『ACACIA』辻仁成監督
『ナチュラル・ウーマン2010』野村誠一監督
『ソラニン』三木孝浩監督
『ランブリングハート』村松亮太郎監督
『東京島』篠崎誠監督
『人間失格』荒戸源次郎監督
女優
寺島しのぶ(キャタピラ)
菅野美穂(パーマネント野ばら)
ちすん(ヒーローショー)
安藤サクラ(ケンタとジュンとカヨちゃんの国)
成海璃子(書道ガールズ!!わたしたちの甲子園)
桜庭ななみ(書道ガールズ!!わたしたちの甲子園)
近衛はな(獄[ひとや]に咲く花)
中村映里子(カケラ)
黒川芽衣(ボーイズ・オン・ザ・ラン)
『ライブテープ(*)』松江哲明監督
『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』大森立嗣監督
『書道ガールズ!!わたしたちの甲子園』猪股隆一監督
『ハーブ&ドロシー(*)』佐々木芽生監督
『キャタピラー』若松孝二監督
邦画次点
『パーマネント野ばら』吉田大八監督
『カケラ』安藤モモ子監督
『時をかける少女』谷口正晃監督
『川の底からこんにち』石井裕也監督
2010年洋画
『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』サーシャ・ガヴァシ監督
『インビクタス 負けざる者たち』クリント・イーストウッド監督
『NINE』ロブ・マーシャル監督
『息もできない』ヤン・イクチュン監督
『クロッシング』キム・テギュン監督
『クレージー・ハート』スコット・クーパー監督
『オーケストラ!』ラデュ・ミヘイレアニュ監督
『ソウル・パワー(*)』ジェフリー・レヴィ=ヒント監督
『ゾンビランド』ルーベン・フライシャー監督
洋画次点
『彼とわたしの漂流日記』イ・ヘジュン監督
『ぼくのエリ 200歳の少女』トーマス・アルフレッドソン監督
『ジョニー・マッド・ドッグ』ジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督
『エンター・ザ・ボイド』ギャスパー・ノエ監督
『ハート・ロッカー』キャサリン・ビグロー監督
『ジャームス 狂気の秘密』ロジャー・グロスマン監督
『ザ・インフォーマント!』スティーブン・ソダーバーグ監督
『ベンダ・ビリリ! ~もう一つのキンシャサの奇跡(*)』ルノー・バレ&フローランド・ドラテュライ監督
金返せ。
『ACACIA』辻仁成監督
『ナチュラル・ウーマン2010』野村誠一監督
『ソラニン』三木孝浩監督
『ランブリングハート』村松亮太郎監督
『東京島』篠崎誠監督
『人間失格』荒戸源次郎監督
女優
寺島しのぶ(キャタピラ)
菅野美穂(パーマネント野ばら)
ちすん(ヒーローショー)
安藤サクラ(ケンタとジュンとカヨちゃんの国)
成海璃子(書道ガールズ!!わたしたちの甲子園)
桜庭ななみ(書道ガールズ!!わたしたちの甲子園)
近衛はな(獄[ひとや]に咲く花)
中村映里子(カケラ)
黒川芽衣(ボーイズ・オン・ザ・ラン)
2010映画(162本)
1月井上昭『陸軍中野学校 密命』井上昭『陸軍中野学校 開戦前夜』森一生『陸軍中野学校 雲一号指令』田中徳三『陸軍中野学校 竜三号指令』川頭義郎『風の視線』石井輝男『黄色い風土』押井守『アサルトガールズ』犬童一心『ゼロの焦点』スティーブン・ソダーバーグ『ザ・インフォーマント!』ロジャー・グロスマン『ジャームス 狂気の秘密』田中徳三『大殺陣 雄呂血』久松静児『喜劇 駅前飯店』池広一夫『ひとり狼』竹内英樹『のだめカンタービレ最終楽章前編』石田民三『花つみ日記』若松孝二『壁の中の秘事』曽根中生『大人のオモチャダッチワイフレポート』曽根中生『悪魔の部屋』鈴木清順『殺しの烙印』松江哲明『ライブテープ』木下恵介『女の園』山本嘉次郎『春の戯れ』マイケル・ムーア『キャビタリズム マネーは踊る』佐伯幸三 『喜劇駅前女将』久松静児『喜劇駅前温泉』吉村公三郎『その夜は忘れない』大島渚『日本の夜と霧』曽根中生『博多っ子純情』曽根中生『天使のはらわた 赤い教室』村松亮太郎『ランブリングハート』スパイク・ジョーンズ『かいじゅうたちのいるところ』山本薩夫『忍びの者』山本薩夫『続忍びの者』曽根中生『嗚呼!!花の応援団 男涙の親衛隊』曽根中生『新宿乱れ街 いくまで待って』ジェームス・キャメロン『アバター3D』帯盛迪彦『高校生ブルース』小谷承靖『はつ恋』広瀬襄『スプーン一杯の幸せ』
2月木村恵吾『やっちゃ場の女』山根成之『さらば夏の光よ』藤田敏八『帰らざる日々』鈴木清順『暗黒街の美女』豊田四郎『雁』三隅研次『なみだ川』藤田敏八『妹』山根成之『九月の空』国府拓『ヤノマミ~奥アマゾン・原初な森に生きる~』内田吐夢『暴れん坊街道』三浦大輔『ボーイズ・オン・ザ・ラン』田中徳三『手討』山田洋次『おとうと』ジェームス・キャメロン『アバター』島耕二『処女受胎』鈴木英夫『青い芽』丸山誠治『憎いもの』クリント・イーストウッド『インビクタス 負けざる者たち』豊田四郎『波影』岡本喜八『若い娘たち』森一生『博徒ざむらい』サーシャ・ガヴァシ『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』リチャード・カーティス『パイレーツ・ロック』
3月アラン・レネ『去年マリエンバートで』篠田正浩『暗殺』家城巳代治『姉妹』荒戸源次郎『人間失格』ペドロ・アルモドバル『抱擁のかけら』ヴェルナー・ヘルツォーク『バッド・ルーテナント』谷口正晃『時をかける少女』野村芳太郎『春の山脈』マキノ雅弘『やくざ囃子』ロブ・マーシャル『NINE』池広一夫『おんな極悪帖』
4月三木孝浩『ソラニン』増村保造『妻は告白する』谷口千吉『潮騒』今村昌平『果てしなき欲望』岡本喜八『地獄の饗宴{うたげ}』山本薩夫『台風騒動記』安藤モモ子『カケラ』川村泰裕『のだめカンタビーレ 最終楽章』池広一夫『影を斬る』鈴木英夫『その場所に女ありて』算正典・鈴木英夫・成瀬巳喜男『くちづけ』
5月石原興『獄[ひとや]に咲く花』野村誠一『ナチュラル・ウーマン2010』三池崇史『ゼブラーマンⅡ ゼブラシティの逆襲』カイル・ニューマン『ファンボーイズ』キム・テギュン『クロッシング』ジャン=ステファーヌ・ソヴェール『ジョニー・マッド・ドッグ』鈴木英夫『花の慕情』鈴木英夫『殺人容疑者』勅使河原宏『砂の女』キャサリン・ビグロー『ハート・ロッカー』ニール・プロムカンプ『第9地区』石井裕也『川の底からこんにちは』猪股隆一『書道ガールズ!!わたしたちの甲子園』新藤兼人『悪党』ヤン・イクチュン『息もできない』
6月ギャスパー・ノエ『エンター・ザ・ボイド』ジョン・ファブロー『アイアンマン2』大森立嗣『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』辻仁成『ACACIA』井筒和幸『ヒーローショー』中島哲也『告白』吉田大八『パーマネント野ばら』スコット・クーパー『クレージー・ハート』イ・ヘジュン『彼とわたしの漂流日記』大庭秀雄『命美わし』
7月中村登『鏡の中の裸像』塚本晋也『鉄男 THE BULLET MAN』阪本順治『座頭市 THE LAST』トーマス・アルフレッドソン『ぼくのエリ 200歳の少女』中平康『おんなの渦と淵と流れ』米林宏昌『借りぐらしのアリエッティ』本広克行『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』滝沢英輔『しろばんば』スティーブン・ソダーバーグ『ガールフレンド・エクスペリエンス』ジガ・ヴェルトフ『キノプラウダNo.1ー9』
8月ジェフリー・レヴィ=ヒント 『ソウル・パワー』スティーヴン・キジャック『ストーンズ・イン・エグザイル~「メイン・ストリートのならず者」の真実』ラデュ・ミヘイレアニュ『オーケストラ!』伊藤俊也『ロストクライム-閃光-』沖田修一『俺の切腹』福田雄一『ヒューマンドキュメンタリー 遠き少年の日々』大竹まこと『Dark on Dark』きたろう『ドキュメント 中村有志』石井輝男『いれずみ突撃隊』石井輝男『温泉あんま芸者』クリストファー・ノーラン『インセプション』ルーベン・フライシャー『ゾンビランド』村山三男『樺太1945年夏 氷雪の門』ルノー・バレ&フローランド・ドラテュライ『ベンダ・ビリリ! ~もう一つのキンシャサの奇跡』ロジェ・ヴァディム『素直な悪女』篠崎誠『東京島』小栗旬『シュアリー・サムデイ』
9月長谷川安人『集団奉行所破り』グラント・ヘスロヴ監督『ヤギと男と男と壁と』李相日監督『悪人』
11月ロバート・ログバル『神の子どもたちはみな踊る』ルノー・バレ&フローランド・ドラテュライ『ベンダ・ビリリ! ~もう一つのキンシャサの奇跡』石井隆『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』中川翔子『七瀬ふたたび~プロローグ~』小中和哉『七瀬ふたたび』若松孝二『キャタピラー』冨永昌敬『乱暴と待機』カン・ウソク『黒く濁る村』小津安二郎『出来ごころ』小津安二郎『東京の宿』小津安二郎『長屋紳士録』小津安二郎『一人息子』廣木隆一『雷桜』
12月佐々木芽生『ハーブ&ドロシー』山崎貴 『SPACE BATTLESHIP ヤマト』黒澤明『野良犬』黒澤明『用心棒』黒澤明『悪い奴ほどよく眠る』黒澤明『いきものの記録』黒澤明『椿三十郎』黒澤明『どですかでん』黒澤明『まあだだよ』黒澤明『酔いどれ天使』
2月木村恵吾『やっちゃ場の女』山根成之『さらば夏の光よ』藤田敏八『帰らざる日々』鈴木清順『暗黒街の美女』豊田四郎『雁』三隅研次『なみだ川』藤田敏八『妹』山根成之『九月の空』国府拓『ヤノマミ~奥アマゾン・原初な森に生きる~』内田吐夢『暴れん坊街道』三浦大輔『ボーイズ・オン・ザ・ラン』田中徳三『手討』山田洋次『おとうと』ジェームス・キャメロン『アバター』島耕二『処女受胎』鈴木英夫『青い芽』丸山誠治『憎いもの』クリント・イーストウッド『インビクタス 負けざる者たち』豊田四郎『波影』岡本喜八『若い娘たち』森一生『博徒ざむらい』サーシャ・ガヴァシ『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』リチャード・カーティス『パイレーツ・ロック』
3月アラン・レネ『去年マリエンバートで』篠田正浩『暗殺』家城巳代治『姉妹』荒戸源次郎『人間失格』ペドロ・アルモドバル『抱擁のかけら』ヴェルナー・ヘルツォーク『バッド・ルーテナント』谷口正晃『時をかける少女』野村芳太郎『春の山脈』マキノ雅弘『やくざ囃子』ロブ・マーシャル『NINE』池広一夫『おんな極悪帖』
4月三木孝浩『ソラニン』増村保造『妻は告白する』谷口千吉『潮騒』今村昌平『果てしなき欲望』岡本喜八『地獄の饗宴{うたげ}』山本薩夫『台風騒動記』安藤モモ子『カケラ』川村泰裕『のだめカンタビーレ 最終楽章』池広一夫『影を斬る』鈴木英夫『その場所に女ありて』算正典・鈴木英夫・成瀬巳喜男『くちづけ』
5月石原興『獄[ひとや]に咲く花』野村誠一『ナチュラル・ウーマン2010』三池崇史『ゼブラーマンⅡ ゼブラシティの逆襲』カイル・ニューマン『ファンボーイズ』キム・テギュン『クロッシング』ジャン=ステファーヌ・ソヴェール『ジョニー・マッド・ドッグ』鈴木英夫『花の慕情』鈴木英夫『殺人容疑者』勅使河原宏『砂の女』キャサリン・ビグロー『ハート・ロッカー』ニール・プロムカンプ『第9地区』石井裕也『川の底からこんにちは』猪股隆一『書道ガールズ!!わたしたちの甲子園』新藤兼人『悪党』ヤン・イクチュン『息もできない』
6月ギャスパー・ノエ『エンター・ザ・ボイド』ジョン・ファブロー『アイアンマン2』大森立嗣『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』辻仁成『ACACIA』井筒和幸『ヒーローショー』中島哲也『告白』吉田大八『パーマネント野ばら』スコット・クーパー『クレージー・ハート』イ・ヘジュン『彼とわたしの漂流日記』大庭秀雄『命美わし』
7月中村登『鏡の中の裸像』塚本晋也『鉄男 THE BULLET MAN』阪本順治『座頭市 THE LAST』トーマス・アルフレッドソン『ぼくのエリ 200歳の少女』中平康『おんなの渦と淵と流れ』米林宏昌『借りぐらしのアリエッティ』本広克行『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』滝沢英輔『しろばんば』スティーブン・ソダーバーグ『ガールフレンド・エクスペリエンス』ジガ・ヴェルトフ『キノプラウダNo.1ー9』
8月ジェフリー・レヴィ=ヒント 『ソウル・パワー』スティーヴン・キジャック『ストーンズ・イン・エグザイル~「メイン・ストリートのならず者」の真実』ラデュ・ミヘイレアニュ『オーケストラ!』伊藤俊也『ロストクライム-閃光-』沖田修一『俺の切腹』福田雄一『ヒューマンドキュメンタリー 遠き少年の日々』大竹まこと『Dark on Dark』きたろう『ドキュメント 中村有志』石井輝男『いれずみ突撃隊』石井輝男『温泉あんま芸者』クリストファー・ノーラン『インセプション』ルーベン・フライシャー『ゾンビランド』村山三男『樺太1945年夏 氷雪の門』ルノー・バレ&フローランド・ドラテュライ『ベンダ・ビリリ! ~もう一つのキンシャサの奇跡』ロジェ・ヴァディム『素直な悪女』篠崎誠『東京島』小栗旬『シュアリー・サムデイ』
9月長谷川安人『集団奉行所破り』グラント・ヘスロヴ監督『ヤギと男と男と壁と』李相日監督『悪人』
11月ロバート・ログバル『神の子どもたちはみな踊る』ルノー・バレ&フローランド・ドラテュライ『ベンダ・ビリリ! ~もう一つのキンシャサの奇跡』石井隆『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』中川翔子『七瀬ふたたび~プロローグ~』小中和哉『七瀬ふたたび』若松孝二『キャタピラー』冨永昌敬『乱暴と待機』カン・ウソク『黒く濁る村』小津安二郎『出来ごころ』小津安二郎『東京の宿』小津安二郎『長屋紳士録』小津安二郎『一人息子』廣木隆一『雷桜』
12月佐々木芽生『ハーブ&ドロシー』山崎貴 『SPACE BATTLESHIP ヤマト』黒澤明『野良犬』黒澤明『用心棒』黒澤明『悪い奴ほどよく眠る』黒澤明『いきものの記録』黒澤明『椿三十郎』黒澤明『どですかでん』黒澤明『まあだだよ』黒澤明『酔いどれ天使』
2010年12月25日土曜日
朝日新聞とTBS。
ようやく、朝日新聞の購読を止めた。物心がついてから、少なくとも一般紙は、朝日以外取ったことはない。サラリーマン時代の後輩には、新聞を取れ、それもこの仕事なら朝日新聞だと言って、朝日でないと文化程度が疑われると冗談半分、本音は、エンタメ情報は記事も広告も他紙では取りこぼすと教えて来た。
そんな朝日だが、この数年の記事のレベルの低下は酷い。現代のジャーナリズム云々を言うのではなくとも、今まで自分はエンタメ業界にいて、朝日の記者たちの露骨な選民意識に辟易し、嫌悪しながらも、文化面は他紙を圧倒し、朝日に取り上げられることのみがマーケットを動かすことを思い知らされてきたし、広告にしても、3面記事、社会面下の小枠でも、他紙に比べ割高でも、費用対効果は絶対的だった。今だから言うが、事務所対策のためと割り切って他紙に、はるかに安い料金で、大きなサイズの広告も打っていたのも事実だが、売上げに影響はなかった。
しかし、今の朝日新聞の広告は、出版社と、中高年向けの通販ばかりだ。これなら、出版情報であれば、書店に行けば充分だ。中高年向けの健康通販には興味深深だが、今の財布と相談すると、衝動買いすることもできない(苦笑)。他紙を圧倒していた筈の社会面下のコンサート広告も、最近は費用対効果が低く、極端に減っている気がする。不動産の購入を検討したり、パチンコ屋の新台導入に関心のない自分には、折込チラシもいらなくなった。決定的だったのは、文化面の音楽と映画の今年の総括の記事だ。中学生、失礼、小学生の感想文だ。記者はよく署名記事で掲載したと感心する。
とはいえ、新聞不要で、ネットがあれば済むと言う世代ではないのが面倒だ。しかたなしに、近くの図書館で各紙を丹念に読み比べた結果、今52歳の自分は、(少なくともハイハイして新聞紙を舐めたり、くしゃくしゃにしたり、破ったりするのがファーストコンタクトであろうから)半世紀に渡る朝日新聞から東京新聞に宗旨替えすることになったのだ。
昨日帰宅してTVをつけると「小田和正 - クリスマスの約束-2010-」をやっている。横浜赤レンガでやっているライブ自体は悪くない。しかし、見ていて違和感を感じる。参加しているミュージシャンもアレンジも、好き嫌いは別にして悪くはない。むしろ、ここ数年の音楽番組の中では、良質で丁寧に企画されているものだろう。
しかし、決定的なのは、ライブ収録そのものだ。かって、TBSは、「輝く!日本レコード大賞」、「TBS歌のグランプリ」、「ロッテ歌のアルバム」、「サウンド・イン“S”」、「東京音楽祭」、「ザ・ベストテン」・・・。ヤング720、オーケストラがやってきたまで入れると、少なくとも、音楽の中継番組には、録画であろうと生放送であろうと、他局を凌駕するレベルがあったと思う。
しかし、この番組は何だ!?出演者に遠慮しているのか、中途半端なカメラ位置と妙なタイミングでのスイッチング。この番組は、小田和正のイベントを中継させてもらっているのではなく、TBSの音楽番組ではないのか?ディレクター、カメラマン・・・TBSの優秀な職人たちは、どこに行ってしまったのだ。少なくとも、TXを含めた民放各局、NHK・・・他局ではこれは無い気がする。まあ、無料放送だから、こういうレベルでオンエアし、有料チャンネルやペーパービューや有料パッケージ用に幾つかのカメラでの収録映像を取ってあるとでも言うのだろうか(苦笑)。出演者は、プレイバックをチェックしなかったのだろうか。
あとは、レコ大だ。今年こそ、ようやく娑婆っけが抜けた非業界人として、生放送を見て、音楽番組として成立しているのか確かめよう。
そんな朝日だが、この数年の記事のレベルの低下は酷い。現代のジャーナリズム云々を言うのではなくとも、今まで自分はエンタメ業界にいて、朝日の記者たちの露骨な選民意識に辟易し、嫌悪しながらも、文化面は他紙を圧倒し、朝日に取り上げられることのみがマーケットを動かすことを思い知らされてきたし、広告にしても、3面記事、社会面下の小枠でも、他紙に比べ割高でも、費用対効果は絶対的だった。今だから言うが、事務所対策のためと割り切って他紙に、はるかに安い料金で、大きなサイズの広告も打っていたのも事実だが、売上げに影響はなかった。
しかし、今の朝日新聞の広告は、出版社と、中高年向けの通販ばかりだ。これなら、出版情報であれば、書店に行けば充分だ。中高年向けの健康通販には興味深深だが、今の財布と相談すると、衝動買いすることもできない(苦笑)。他紙を圧倒していた筈の社会面下のコンサート広告も、最近は費用対効果が低く、極端に減っている気がする。不動産の購入を検討したり、パチンコ屋の新台導入に関心のない自分には、折込チラシもいらなくなった。決定的だったのは、文化面の音楽と映画の今年の総括の記事だ。中学生、失礼、小学生の感想文だ。記者はよく署名記事で掲載したと感心する。
とはいえ、新聞不要で、ネットがあれば済むと言う世代ではないのが面倒だ。しかたなしに、近くの図書館で各紙を丹念に読み比べた結果、今52歳の自分は、(少なくともハイハイして新聞紙を舐めたり、くしゃくしゃにしたり、破ったりするのがファーストコンタクトであろうから)半世紀に渡る朝日新聞から東京新聞に宗旨替えすることになったのだ。
昨日帰宅してTVをつけると「小田和正 - クリスマスの約束-2010-」をやっている。横浜赤レンガでやっているライブ自体は悪くない。しかし、見ていて違和感を感じる。参加しているミュージシャンもアレンジも、好き嫌いは別にして悪くはない。むしろ、ここ数年の音楽番組の中では、良質で丁寧に企画されているものだろう。
しかし、決定的なのは、ライブ収録そのものだ。かって、TBSは、「輝く!日本レコード大賞」、「TBS歌のグランプリ」、「ロッテ歌のアルバム」、「サウンド・イン“S”」、「東京音楽祭」、「ザ・ベストテン」・・・。ヤング720、オーケストラがやってきたまで入れると、少なくとも、音楽の中継番組には、録画であろうと生放送であろうと、他局を凌駕するレベルがあったと思う。
しかし、この番組は何だ!?出演者に遠慮しているのか、中途半端なカメラ位置と妙なタイミングでのスイッチング。この番組は、小田和正のイベントを中継させてもらっているのではなく、TBSの音楽番組ではないのか?ディレクター、カメラマン・・・TBSの優秀な職人たちは、どこに行ってしまったのだ。少なくとも、TXを含めた民放各局、NHK・・・他局ではこれは無い気がする。まあ、無料放送だから、こういうレベルでオンエアし、有料チャンネルやペーパービューや有料パッケージ用に幾つかのカメラでの収録映像を取ってあるとでも言うのだろうか(苦笑)。出演者は、プレイバックをチェックしなかったのだろうか。
あとは、レコ大だ。今年こそ、ようやく娑婆っけが抜けた非業界人として、生放送を見て、音楽番組として成立しているのか確かめよう。
2010年12月24日金曜日
今日も飽きもせず黒澤2本。
午前中は、大門の睡眠障害クリニック。酒を飲んだ日以外は、割といい数値だと言われる。そりゃそうなんだが…。
京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画監督 黒澤明。
93年大映/電通/黒澤プロ黒澤明監督『まあだだよ(159)』
教室の青いドア。始業のベルが鳴っている。学生たちは騒がしい。ドアを開けて詰め襟の学生が「来た!」と叫びながら入って来て静かになる。先生(松村達郎)入ってくる。教壇の前に紫煙が漂っている。「誰か煙草を吸っていたな。教室で煙草を吸ってはいけない。しかし、いけないと言われることはやりなさい」歓声を上げる学生たち。「私も、教員室で、始業のベルが鳴ると、どうしても1本吸いたくなる。ついもう1本、2本と吸ってしまって遅れてしまうのだ」「今日はどうして?(早い?)」と言う声に、「私は先生と言われて、30数年が経った。しかし、今日をもって先生を辞める」「どうしてですか?」「私もどうやら、書いたものが売れるようになったからだ。もちろん私は、若い諸君と語り合うこの仕事は嫌いでなはい。しかし、二兎を追う者、一兎も得ずの例えもある。物書きとして、その位の覚悟は必要だとも思う」高山(吉岡秀隆)「先生!確かに先生は僕たちにドイツ語を教えてくれています。しかし、本校の卒業生である私の父も同じですが、今でも先生のことを先生先生と慕っています。そして先生は金無垢だって・・・」「ありがとう。30数年わたしの前を多くの学生が通り過ぎて行った。全ての学生の顔と名前を記憶している訳ではない。しかし、目を開けたまま、眠っていた学生の名前は、今でも忘れることは出来ない。高山!それは君のお父さんです」爆笑する学生たち、頭をかく高山。学生皆で“仰げば尊し”を歌う。目頭が熱くなり、ハンカチを出して鼻をかむ先生。
東京、昭和18年。大きな荷物を一軒家に運び込む男たちがいる。先生のかっての教え子たちだ。高山(井川比佐志)桐山(油井昌由樹)沢村(寺尾聡)多田(平田満)古谷(渡辺哲)北村(頭師孝雄)三井(松井範雄)平野(杉崎昭彦)村山(冷泉公裕)太田(岡本信人)石川(竹之内啓喜)・・・。がやがやと荷物を持ち運ぶが、どうも落ち着かない先生が邪魔になっていると、甘木(所ジョージ)「奥さん!先生が一番邪魔なのでどこかにしまって下さい」爆笑する男たち。窓際に椅子を用意され座る先生。文机を見て「それは、玄関に置いてくれ。来客を断るために、そこで仕事をするのだと言う。
荷物が片付き、引越し蕎麦を皆で食べていると、先生の奥さんが心配そうな顔で、「どうも、この家は構えの割にお家賃が安くて気になっていたのだけれど、このお蕎麦を頼みに行って、お店の方に聞いたけれど、どうもこの家は、泥棒に入られやすいのですって」「大丈夫だ。盗まれぬような物もない」安心しない奥さんに「泥棒に入られない方法を考えた」と言う先生。その晩、気になった高山と甘木が家の前に立っている。高木「先生はああ言ったが、心配だ」甘木「だからと言って、忍び込むと我々は本当の泥棒になってしまう」「だが、泥棒になった気持ちで忍び込んでみないと、本当にどうかはわからないものだ」「この潜り戸は閂が降りているが」「では、僕が塀を乗り越えて、潜り戸を開けるから入って来い」塀をよじ登り簡単に潜り戸を開ける高木。家の中はシンとしている。庭に廻ると雨戸が開いており「泥棒入口」と貼り紙がしている。忍び笑いをする二人。
靴を脱いで、家に上がると、「泥棒通路」とあり、その先の部屋は「泥棒休憩所」という貼り紙と煙草と灰皿がある。そして視線を上げると「泥棒出口」だ。二人の忍び笑いは止まらない。これなら大丈夫だ。再び庭に出て、潜り戸から外にでる二人。甘木「どうしても潜り戸が気になるなあ。もう一度、閂を掛けてから塀を乗り越えて来たまえ」向うから巡査が歩いてくるのに気がついて、慌てて離れて歩きはじめる二人。すれ違う巡査(桜金造)に敬礼をして、暫くして離れたところで爆笑する二人。
しばらくして、十数名の教え子たちは先生に呼ばれて集まった。玄関に「面会日1日、15日。他の日訪問無用」と貼り紙がある。先生は、玄関に文机を置いて、本を読んでいる。「今日お邪魔してよかったんですか」「まあ、上がりなさい」勝手知ったる他人の家で、多人数なので、襖を外し準備を始める男たち。「座布団は5枚しかないので、ワシだけ使うぞ」「今日は?」と先生に尋ねると「実は、私は還暦を迎えたのだ。自分の誕生日を忘れていたのを、親類から鹿の肉がお祝いとして贈られてきたので、思い出した位だ」「それはおめでとうございます」とみんな唱和する。「ということで、鹿肉を皆に振舞おうと思ったのだ」奥さん「何人いらっしゃるかしら」「17人です」「七輪とお鍋足りるかしら?」高山「足りなければ、買って来ますよ」宴会の支度が出来、皆が囲む「みんな足を崩したまえ。私はこの方が楽だから正坐をしているのだ」
「おめでとうございます」「奥さんもご一緒に」「いや家内は、馬肉は駄目なんだ」「馬?」「そうだ。みんなに沢山食べてもらおうと、ひょっとして鹿肉だけでは足りないではないかと思って、肉屋に買いに行ったのだ。今日び、牛、豚、鶏肉は手に入らん。馬肉と鹿肉で、馬鹿鍋としゃれたわけだ。しかし、肉屋に行って馬肉を買っている時に・・・」肉屋(谷村昌彦)が肉を捌いているのを、先生が待っていると、馬方(都家歌六)に曳かれた馬が通りかかる。馬はふと立ち止まり、振り返って肉屋の前に立つ先生を大きな目で見つめる馬。心なしか哀しげな表情だ。「ということで、よもや陸軍士官学校教員時代の自分の馬に再会するとは・・・。馬の目は大きくて、参った・・・。さあ、そろそろいいだろう。どんどん食ってくれ」「いただきます」「うまい!!」鍋に箸を伸ばす男たち。甘木「しかし、空襲警報が鳴らないでくれるといいなあ。闇鍋になってしまう」「先生は暗闇がお嫌いでしたね」「そうだ。みんなは怖くないか。私は灯りを消すのが嫌で、電気をつけたまま、寝るので空襲警報は嫌いだ。みんなは暗闇は平気か?」「大丈夫ですよ」「平気ですよ」「それは勇気の問題ではなく、想像力の問題だ。暗闇に何かいるのではないか?と想像しだすと、本当に恐ろしい」しばらく経つと空襲警報が鳴り始める。街灯や近所の家庭の灯りが次々に消されていく。
しかし、その先生の家も空襲で焼けてしまった。瓦礫の山、物置小屋のようなところに先生と奥さんが住んでいる。梅雨の雨の中、リヤカーを押して先生の小屋に家財道具や酒を運んでくる高山、甘木、桐山、沢村の4人。奥さんが頭を下げる。「上がってくれと言いたいが、私と家内で一杯だ」「いや、必要なものがあれば言って下さい。何でも持ってきますから」「とりあえず、傘をくれないか」高山「この傘を差し上げますよ」「うちの洗面所は新築だが、屋根がないので、今日のような日は困ったものなのだ」焼けたトタン板で四方を囲んだだけの便所がある。「空襲で自宅を焼け出されて、この近くまで来て、この小屋で休んでいると、バロンがやってきたのだ」「バロン?」「男爵じゃよ。この焼けた家の持ち主だ」「男爵がここに住んでいたんですか?」「いや、その門番が住んでいたそうだ。一族・・・」「全て焼けてしまった。私のこの好きな方丈記だけを何とか持って逃げた。鴨長明も都の災厄により、日野山に一丈四方の庵を建て暮らして、この日記を書いたのだ。思えば、この小屋も鴨長明の庵じゃよ。まあ、向こうは風流な水音がしたらしいが、ここは酔っ払いの立ち小便の音しか聞こえないが・・。しかし、立ち小便というのは、幾ら注意をしても、同じ場所にするのが人間の心理らしい」高山「鳥居を描いてもご利益はないようですからね」「そこで、私は工夫をしたんじゃよ。あの壁の向こうだ」4人が雨の中、確かめに行くと、「立ち小便無用」という文字の下に鋏の絵が書かれている。「こりゃ愉快だ」「これは縮みあがるというものだ」大笑いをする4人。突然雷鳴が聞こえる。小屋に戻ると先生の姿がない。奥さんは「こんな時でも、雷よけのまじないの線香が必要なんですよ」と線香に火をつけている。先生は、夏掛け布団を頭から被って震えている。甘木「ようやく、梅雨も明けるようだな・・・」
いつの間にか、季節は夏になっている。MPが乗ったジープが焼け跡を走って行く。日本は敗戦したようだ。汗を拭きながら、高山たち4人が先生を訪ねて来ている。汗を拭きながら、「人間生きていると物が増えるものだねえ。空襲で全てを失った筈が、気がつくと、こんなに手狭になった」ジョニ黒の瓶「これは、近所の薬屋が作ったものだが、薬用アルコールに色々なものを混ぜてあるのだ」甘木「これは効くなあ」「いつまでも、先生をこんなところに住まわせておく訳にはいかない。我々で何とかしますよ」「おいおい君それはいけないよ」「本当にそうですわ」
しかし、酒を飲むうちに、珍しく先生は弱気になった。「いや、乏しいながら、戦争中は食糧の配給はあったが、今は全く手に入らない・・・それに、こんな1畳足らずのところで暮らして、つくづく嫌になったよ」高山が「先生!!止めて下さい。先生は仰ったではありませんか。ここは鴨長明の庵だと・・・・」「すまん、年寄りの愚痴だ」思いがけず、弱気な先生の姿に顔を見合わせる4人。小屋で暮らす先生夫婦、四季が移って行く。その光景は美しい。
4人が再び先生のもとを訪ねている。甘木「先生を囲む会を作ります。先生の還暦から1年。そろそろ亡くなるのかと思っているが、もう1年。まあだかい?まあだだよ、まあだかい?まあだだよ?もういいかい?まあだだよ。いつまでも死なない先生に、そろそろかい?と呼び掛けることで、摩阿陀会と名付けました」
先生が、背広姿で靴を履いている。「では、行ってくるよ」「行ってらっしゃい」
ビアホール、先生が座る後ろには「第1回摩阿陀会」という看板が下がっている。数十名の教え子たちが先生を温かい眼差しで見つめている。幹事の高山「還暦の誕生日から1年。毎年、この会を開催して、先生にまあだかい?と呼び掛けましょう」高山「物資厳しい中、諸君のお陰で、色々な物があつまった。今日は大いに飲もう。まずは、乾杯の前に、そこにある大コップのビールを先生に一息で飲みほしていただこう」先生うれしそうに「右隣に座っていらっしゃるのは、私の主治医の小林先生(日下武史)。左に座っていらっしゃるのは、私の葬式を上げてくれる坊さんの亀山さんだ。」小林(日下武史)亀山(小林亜星) も、にこにこと先生を見つめている。「準備万端だというところだが、諸君のもういいかいと言う問いかけに、私はまあだだよと応える」ぐびぐびと大ジョッキのビールを飲む先生。ついには飲み干した。高山「では、乾杯!!!」一同唱和「おめでとうございます!!!」
高山「では、みんな、酔って訳がわからなくなってしまう前に、一言ずつスピーチを頼む。ただし手短に」北村(頭師孝雄)「スピーチは短い方がいいので・・・先生!ばんさーいい!!」ヤジるものも「おいおい!!いくら短いのがいいと言ってもそれだけか!!」「短いから祝辞だ。長いと弔辞になる」一同爆笑。?「私は口下手なので、気の効いたことを喋れないので、稚内から鹿児島までの駅名を全ていいます。稚内、○○・・・・・・」相当な変わり者だが、みな慣れているようで、駅名を読み上げ続ける?を無視して、次々に挨拶に立つ、教え子たち。「先生は太陽だ!みんなを照らしている」「持ち上げ過ぎだ!!」「いや、だったら月だ。月だから、まん丸い時もあれば、半分になったり、細くなったり、時には無くなったりする・・・」一同爆笑。「出~た。出~た。月が。まあるい、まあるい、まん丸い、ぼーんのような月が・・・」大皿を掲げた甘木が出てくる。歌詞に合わせ、高山、桐山、沢村が背広の上着が雲だ。最後に先生の後ろに立ち、後光が差しているようにかざす甘木。勿論、その間にも、駅名は続いている。
みんな手に手にビール瓶やお銚子を持って先生にお酌をしようと集まって来る。「一人でこんなに相手をするのは無理だ。ここで、もう一度乾杯をして、あとは各自やろうじゃないか」
甘木「おいちにをやろう!!」「そうだ!そうだ!」沢村が手風琴を持って前に出る。全員が立ち上がって、並び、前の者の方に両手を掛ける。和尚も急いで立ち上がって行列に加わる。おいちにの歌を先生歌う。みな本当に楽しそうだ。
小林先生が、先生にビールを注ぐ。駅名は、ようやく「南鹿児島、鹿児島!!終わりました!!」拍手する先生。気がつくと3人を残して、ホールには誰もいなくなっている。不審顔の先生。すると、和尚を先頭に、高山たちが担いだ棺桶(テーブルの上に、テーブルクロスを掛けた人間が横たわっているもの)、みなの行列が入って来る「おお、私の葬式か?!」先生の前まで歩いてくると止まって、棺桶を下す。突然、遺体が立ち上がる。甘木だ。「まああだかい!!?」先生「まあだだよ」全員「まああだかい!!!」「まああだだよ~」その繰り返しはどんどん大きくなっていく。何だろうと道行く通行人が店の入口から覗いている。しまいには、サイレンを鳴らしたMPのジープまでやってきた。あまりの騒ぎに誰かが通報したのだろうか。険しい表情のMPたちは、中を覗き、いい年齢をした男たちの大宴会を苦笑して眺め、笑いながら帰って行った。次々に何事だろうと、入って来る通行人、浮浪者、パンパン・・・。
再び、高山たちがやってきて、土地が見つかったので、先生の家を建てると言う。恐縮する先生に、戦後の未払いの印税を支払うことで出版社の同意も取り付けたと説明する高山。どういう家がいいですか?という甘木に、先生は庭に池が欲しいと言う。池には魚を多数飼いたい、しかし魚は一方向に泳ぐ習性があるので、小さい池ではグルグル廻らざるをえず、背骨が曲がってしまうと可哀想なので、大きな池が欲しいという先生。敷地の関係で、あまり広い池は作れないかもというと、ドーナツ型の池にして、その上に家を建てればよいという。思案顔の男たち。すまなそうな奥さん。
いよいよ新居が建った。高山たちに、嬉しそうに庭を案内する先生。ドーナツ型の池を造るために、建物は狭くなったが、「1畳で暮らしていた生活を思うと、ここはまさに“金殿玉楼”だよ」
「みんな、自分の本当に好きなことを見つけて下さい。本当に自分にとって大切なものを見つけるといい。見つかったら、その大切なもののために努力しなさい。きっとそれは君たちの心のこもった立派な仕事になるでしょう」
48年東宝黒澤明監督『酔いどれ天使(160)』
黒く澱んだどぶ。メタンガスの泡が浮かんでいる。ギターを爪弾く男が一人。ドブ池に、石を投げるチンピラが二人。
おんぼろな診療所がある。そこの医師の真田(志村喬)「どうしたんだ!?」ヤクザの男松永(三船敏郎)苦痛に顔を歪めながら「ドアに手を挟まれたんだ。で、釘が出ていたんで…」「ふーん、釘がね…」腕に巻いたネッカチーフを解いて、消毒をしてやる真田。「少し痛いよ…」「うっ!」ヒンセットで、傷口から弾丸を取り出し「つまり、これが釘ってわけか…」「迷惑はかけねえ!つまらねえ出入りがあって…」いきがる松永「駅前のマーケットで松永って言やあ、誰でも知ってるぜ。若けえ者が、時々世話になってるそうだな…」真田「おーい!婆さん!蚊取り線香持って来てくれねえか!……しょうがねえなあ、寝ちまったか…」暑い診療室に風を入れようと、ドアを開けっ放しにしようとするが、なかなか思い通りにならず苛つく真田。「前もって言っておくが、治療代は高いよ。無駄飯食っている奴らからむしり取ることにしてるんだ」「痛えなあ!麻酔薬ねえのか!?」「おめえたちに使う麻酔薬なんかねえ」乱暴に傷口を縫い合わせる真田。松永空咳をする。「風邪だよ…」「一度ちゃんとレントゲンを撮ってみろ。結核の可能性もある」「診てくんねえのか」「」聴診器当てたり、胸を指でトントンやったりしても分かりゃしない。でも医者がもったい付けるためにやるんだ。でも、一応やってやろう」松永の胸を叩き、聴診器を当て、「うーん」「分かんねーのか」「いや、分かる。胸にこれ位の穴が開いているぞ」
南新町マーケット
京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画監督 黒澤明。
93年大映/電通/黒澤プロ黒澤明監督『まあだだよ(159)』
教室の青いドア。始業のベルが鳴っている。学生たちは騒がしい。ドアを開けて詰め襟の学生が「来た!」と叫びながら入って来て静かになる。先生(松村達郎)入ってくる。教壇の前に紫煙が漂っている。「誰か煙草を吸っていたな。教室で煙草を吸ってはいけない。しかし、いけないと言われることはやりなさい」歓声を上げる学生たち。「私も、教員室で、始業のベルが鳴ると、どうしても1本吸いたくなる。ついもう1本、2本と吸ってしまって遅れてしまうのだ」「今日はどうして?(早い?)」と言う声に、「私は先生と言われて、30数年が経った。しかし、今日をもって先生を辞める」「どうしてですか?」「私もどうやら、書いたものが売れるようになったからだ。もちろん私は、若い諸君と語り合うこの仕事は嫌いでなはい。しかし、二兎を追う者、一兎も得ずの例えもある。物書きとして、その位の覚悟は必要だとも思う」高山(吉岡秀隆)「先生!確かに先生は僕たちにドイツ語を教えてくれています。しかし、本校の卒業生である私の父も同じですが、今でも先生のことを先生先生と慕っています。そして先生は金無垢だって・・・」「ありがとう。30数年わたしの前を多くの学生が通り過ぎて行った。全ての学生の顔と名前を記憶している訳ではない。しかし、目を開けたまま、眠っていた学生の名前は、今でも忘れることは出来ない。高山!それは君のお父さんです」爆笑する学生たち、頭をかく高山。学生皆で“仰げば尊し”を歌う。目頭が熱くなり、ハンカチを出して鼻をかむ先生。
東京、昭和18年。大きな荷物を一軒家に運び込む男たちがいる。先生のかっての教え子たちだ。高山(井川比佐志)桐山(油井昌由樹)沢村(寺尾聡)多田(平田満)古谷(渡辺哲)北村(頭師孝雄)三井(松井範雄)平野(杉崎昭彦)村山(冷泉公裕)太田(岡本信人)石川(竹之内啓喜)・・・。がやがやと荷物を持ち運ぶが、どうも落ち着かない先生が邪魔になっていると、甘木(所ジョージ)「奥さん!先生が一番邪魔なのでどこかにしまって下さい」爆笑する男たち。窓際に椅子を用意され座る先生。文机を見て「それは、玄関に置いてくれ。来客を断るために、そこで仕事をするのだと言う。
荷物が片付き、引越し蕎麦を皆で食べていると、先生の奥さんが心配そうな顔で、「どうも、この家は構えの割にお家賃が安くて気になっていたのだけれど、このお蕎麦を頼みに行って、お店の方に聞いたけれど、どうもこの家は、泥棒に入られやすいのですって」「大丈夫だ。盗まれぬような物もない」安心しない奥さんに「泥棒に入られない方法を考えた」と言う先生。その晩、気になった高山と甘木が家の前に立っている。高木「先生はああ言ったが、心配だ」甘木「だからと言って、忍び込むと我々は本当の泥棒になってしまう」「だが、泥棒になった気持ちで忍び込んでみないと、本当にどうかはわからないものだ」「この潜り戸は閂が降りているが」「では、僕が塀を乗り越えて、潜り戸を開けるから入って来い」塀をよじ登り簡単に潜り戸を開ける高木。家の中はシンとしている。庭に廻ると雨戸が開いており「泥棒入口」と貼り紙がしている。忍び笑いをする二人。
靴を脱いで、家に上がると、「泥棒通路」とあり、その先の部屋は「泥棒休憩所」という貼り紙と煙草と灰皿がある。そして視線を上げると「泥棒出口」だ。二人の忍び笑いは止まらない。これなら大丈夫だ。再び庭に出て、潜り戸から外にでる二人。甘木「どうしても潜り戸が気になるなあ。もう一度、閂を掛けてから塀を乗り越えて来たまえ」向うから巡査が歩いてくるのに気がついて、慌てて離れて歩きはじめる二人。すれ違う巡査(桜金造)に敬礼をして、暫くして離れたところで爆笑する二人。
しばらくして、十数名の教え子たちは先生に呼ばれて集まった。玄関に「面会日1日、15日。他の日訪問無用」と貼り紙がある。先生は、玄関に文机を置いて、本を読んでいる。「今日お邪魔してよかったんですか」「まあ、上がりなさい」勝手知ったる他人の家で、多人数なので、襖を外し準備を始める男たち。「座布団は5枚しかないので、ワシだけ使うぞ」「今日は?」と先生に尋ねると「実は、私は還暦を迎えたのだ。自分の誕生日を忘れていたのを、親類から鹿の肉がお祝いとして贈られてきたので、思い出した位だ」「それはおめでとうございます」とみんな唱和する。「ということで、鹿肉を皆に振舞おうと思ったのだ」奥さん「何人いらっしゃるかしら」「17人です」「七輪とお鍋足りるかしら?」高山「足りなければ、買って来ますよ」宴会の支度が出来、皆が囲む「みんな足を崩したまえ。私はこの方が楽だから正坐をしているのだ」
「おめでとうございます」「奥さんもご一緒に」「いや家内は、馬肉は駄目なんだ」「馬?」「そうだ。みんなに沢山食べてもらおうと、ひょっとして鹿肉だけでは足りないではないかと思って、肉屋に買いに行ったのだ。今日び、牛、豚、鶏肉は手に入らん。馬肉と鹿肉で、馬鹿鍋としゃれたわけだ。しかし、肉屋に行って馬肉を買っている時に・・・」肉屋(谷村昌彦)が肉を捌いているのを、先生が待っていると、馬方(都家歌六)に曳かれた馬が通りかかる。馬はふと立ち止まり、振り返って肉屋の前に立つ先生を大きな目で見つめる馬。心なしか哀しげな表情だ。「ということで、よもや陸軍士官学校教員時代の自分の馬に再会するとは・・・。馬の目は大きくて、参った・・・。さあ、そろそろいいだろう。どんどん食ってくれ」「いただきます」「うまい!!」鍋に箸を伸ばす男たち。甘木「しかし、空襲警報が鳴らないでくれるといいなあ。闇鍋になってしまう」「先生は暗闇がお嫌いでしたね」「そうだ。みんなは怖くないか。私は灯りを消すのが嫌で、電気をつけたまま、寝るので空襲警報は嫌いだ。みんなは暗闇は平気か?」「大丈夫ですよ」「平気ですよ」「それは勇気の問題ではなく、想像力の問題だ。暗闇に何かいるのではないか?と想像しだすと、本当に恐ろしい」しばらく経つと空襲警報が鳴り始める。街灯や近所の家庭の灯りが次々に消されていく。
しかし、その先生の家も空襲で焼けてしまった。瓦礫の山、物置小屋のようなところに先生と奥さんが住んでいる。梅雨の雨の中、リヤカーを押して先生の小屋に家財道具や酒を運んでくる高山、甘木、桐山、沢村の4人。奥さんが頭を下げる。「上がってくれと言いたいが、私と家内で一杯だ」「いや、必要なものがあれば言って下さい。何でも持ってきますから」「とりあえず、傘をくれないか」高山「この傘を差し上げますよ」「うちの洗面所は新築だが、屋根がないので、今日のような日は困ったものなのだ」焼けたトタン板で四方を囲んだだけの便所がある。「空襲で自宅を焼け出されて、この近くまで来て、この小屋で休んでいると、バロンがやってきたのだ」「バロン?」「男爵じゃよ。この焼けた家の持ち主だ」「男爵がここに住んでいたんですか?」「いや、その門番が住んでいたそうだ。一族・・・」「全て焼けてしまった。私のこの好きな方丈記だけを何とか持って逃げた。鴨長明も都の災厄により、日野山に一丈四方の庵を建て暮らして、この日記を書いたのだ。思えば、この小屋も鴨長明の庵じゃよ。まあ、向こうは風流な水音がしたらしいが、ここは酔っ払いの立ち小便の音しか聞こえないが・・。しかし、立ち小便というのは、幾ら注意をしても、同じ場所にするのが人間の心理らしい」高山「鳥居を描いてもご利益はないようですからね」「そこで、私は工夫をしたんじゃよ。あの壁の向こうだ」4人が雨の中、確かめに行くと、「立ち小便無用」という文字の下に鋏の絵が書かれている。「こりゃ愉快だ」「これは縮みあがるというものだ」大笑いをする4人。突然雷鳴が聞こえる。小屋に戻ると先生の姿がない。奥さんは「こんな時でも、雷よけのまじないの線香が必要なんですよ」と線香に火をつけている。先生は、夏掛け布団を頭から被って震えている。甘木「ようやく、梅雨も明けるようだな・・・」
いつの間にか、季節は夏になっている。MPが乗ったジープが焼け跡を走って行く。日本は敗戦したようだ。汗を拭きながら、高山たち4人が先生を訪ねて来ている。汗を拭きながら、「人間生きていると物が増えるものだねえ。空襲で全てを失った筈が、気がつくと、こんなに手狭になった」ジョニ黒の瓶「これは、近所の薬屋が作ったものだが、薬用アルコールに色々なものを混ぜてあるのだ」甘木「これは効くなあ」「いつまでも、先生をこんなところに住まわせておく訳にはいかない。我々で何とかしますよ」「おいおい君それはいけないよ」「本当にそうですわ」
しかし、酒を飲むうちに、珍しく先生は弱気になった。「いや、乏しいながら、戦争中は食糧の配給はあったが、今は全く手に入らない・・・それに、こんな1畳足らずのところで暮らして、つくづく嫌になったよ」高山が「先生!!止めて下さい。先生は仰ったではありませんか。ここは鴨長明の庵だと・・・・」「すまん、年寄りの愚痴だ」思いがけず、弱気な先生の姿に顔を見合わせる4人。小屋で暮らす先生夫婦、四季が移って行く。その光景は美しい。
4人が再び先生のもとを訪ねている。甘木「先生を囲む会を作ります。先生の還暦から1年。そろそろ亡くなるのかと思っているが、もう1年。まあだかい?まあだだよ、まあだかい?まあだだよ?もういいかい?まあだだよ。いつまでも死なない先生に、そろそろかい?と呼び掛けることで、摩阿陀会と名付けました」
先生が、背広姿で靴を履いている。「では、行ってくるよ」「行ってらっしゃい」
ビアホール、先生が座る後ろには「第1回摩阿陀会」という看板が下がっている。数十名の教え子たちが先生を温かい眼差しで見つめている。幹事の高山「還暦の誕生日から1年。毎年、この会を開催して、先生にまあだかい?と呼び掛けましょう」高山「物資厳しい中、諸君のお陰で、色々な物があつまった。今日は大いに飲もう。まずは、乾杯の前に、そこにある大コップのビールを先生に一息で飲みほしていただこう」先生うれしそうに「右隣に座っていらっしゃるのは、私の主治医の小林先生(日下武史)。左に座っていらっしゃるのは、私の葬式を上げてくれる坊さんの亀山さんだ。」小林(日下武史)亀山(小林亜星) も、にこにこと先生を見つめている。「準備万端だというところだが、諸君のもういいかいと言う問いかけに、私はまあだだよと応える」ぐびぐびと大ジョッキのビールを飲む先生。ついには飲み干した。高山「では、乾杯!!!」一同唱和「おめでとうございます!!!」
高山「では、みんな、酔って訳がわからなくなってしまう前に、一言ずつスピーチを頼む。ただし手短に」北村(頭師孝雄)「スピーチは短い方がいいので・・・先生!ばんさーいい!!」ヤジるものも「おいおい!!いくら短いのがいいと言ってもそれだけか!!」「短いから祝辞だ。長いと弔辞になる」一同爆笑。?「私は口下手なので、気の効いたことを喋れないので、稚内から鹿児島までの駅名を全ていいます。稚内、○○・・・・・・」相当な変わり者だが、みな慣れているようで、駅名を読み上げ続ける?を無視して、次々に挨拶に立つ、教え子たち。「先生は太陽だ!みんなを照らしている」「持ち上げ過ぎだ!!」「いや、だったら月だ。月だから、まん丸い時もあれば、半分になったり、細くなったり、時には無くなったりする・・・」一同爆笑。「出~た。出~た。月が。まあるい、まあるい、まん丸い、ぼーんのような月が・・・」大皿を掲げた甘木が出てくる。歌詞に合わせ、高山、桐山、沢村が背広の上着が雲だ。最後に先生の後ろに立ち、後光が差しているようにかざす甘木。勿論、その間にも、駅名は続いている。
みんな手に手にビール瓶やお銚子を持って先生にお酌をしようと集まって来る。「一人でこんなに相手をするのは無理だ。ここで、もう一度乾杯をして、あとは各自やろうじゃないか」
甘木「おいちにをやろう!!」「そうだ!そうだ!」沢村が手風琴を持って前に出る。全員が立ち上がって、並び、前の者の方に両手を掛ける。和尚も急いで立ち上がって行列に加わる。おいちにの歌を先生歌う。みな本当に楽しそうだ。
小林先生が、先生にビールを注ぐ。駅名は、ようやく「南鹿児島、鹿児島!!終わりました!!」拍手する先生。気がつくと3人を残して、ホールには誰もいなくなっている。不審顔の先生。すると、和尚を先頭に、高山たちが担いだ棺桶(テーブルの上に、テーブルクロスを掛けた人間が横たわっているもの)、みなの行列が入って来る「おお、私の葬式か?!」先生の前まで歩いてくると止まって、棺桶を下す。突然、遺体が立ち上がる。甘木だ。「まああだかい!!?」先生「まあだだよ」全員「まああだかい!!!」「まああだだよ~」その繰り返しはどんどん大きくなっていく。何だろうと道行く通行人が店の入口から覗いている。しまいには、サイレンを鳴らしたMPのジープまでやってきた。あまりの騒ぎに誰かが通報したのだろうか。険しい表情のMPたちは、中を覗き、いい年齢をした男たちの大宴会を苦笑して眺め、笑いながら帰って行った。次々に何事だろうと、入って来る通行人、浮浪者、パンパン・・・。
再び、高山たちがやってきて、土地が見つかったので、先生の家を建てると言う。恐縮する先生に、戦後の未払いの印税を支払うことで出版社の同意も取り付けたと説明する高山。どういう家がいいですか?という甘木に、先生は庭に池が欲しいと言う。池には魚を多数飼いたい、しかし魚は一方向に泳ぐ習性があるので、小さい池ではグルグル廻らざるをえず、背骨が曲がってしまうと可哀想なので、大きな池が欲しいという先生。敷地の関係で、あまり広い池は作れないかもというと、ドーナツ型の池にして、その上に家を建てればよいという。思案顔の男たち。すまなそうな奥さん。
いよいよ新居が建った。高山たちに、嬉しそうに庭を案内する先生。ドーナツ型の池を造るために、建物は狭くなったが、「1畳で暮らしていた生活を思うと、ここはまさに“金殿玉楼”だよ」
「みんな、自分の本当に好きなことを見つけて下さい。本当に自分にとって大切なものを見つけるといい。見つかったら、その大切なもののために努力しなさい。きっとそれは君たちの心のこもった立派な仕事になるでしょう」
48年東宝黒澤明監督『酔いどれ天使(160)』
黒く澱んだどぶ。メタンガスの泡が浮かんでいる。ギターを爪弾く男が一人。ドブ池に、石を投げるチンピラが二人。
おんぼろな診療所がある。そこの医師の真田(志村喬)「どうしたんだ!?」ヤクザの男松永(三船敏郎)苦痛に顔を歪めながら「ドアに手を挟まれたんだ。で、釘が出ていたんで…」「ふーん、釘がね…」腕に巻いたネッカチーフを解いて、消毒をしてやる真田。「少し痛いよ…」「うっ!」ヒンセットで、傷口から弾丸を取り出し「つまり、これが釘ってわけか…」「迷惑はかけねえ!つまらねえ出入りがあって…」いきがる松永「駅前のマーケットで松永って言やあ、誰でも知ってるぜ。若けえ者が、時々世話になってるそうだな…」真田「おーい!婆さん!蚊取り線香持って来てくれねえか!……しょうがねえなあ、寝ちまったか…」暑い診療室に風を入れようと、ドアを開けっ放しにしようとするが、なかなか思い通りにならず苛つく真田。「前もって言っておくが、治療代は高いよ。無駄飯食っている奴らからむしり取ることにしてるんだ」「痛えなあ!麻酔薬ねえのか!?」「おめえたちに使う麻酔薬なんかねえ」乱暴に傷口を縫い合わせる真田。松永空咳をする。「風邪だよ…」「一度ちゃんとレントゲンを撮ってみろ。結核の可能性もある」「診てくんねえのか」「」聴診器当てたり、胸を指でトントンやったりしても分かりゃしない。でも医者がもったい付けるためにやるんだ。でも、一応やってやろう」松永の胸を叩き、聴診器を当て、「うーん」「分かんねーのか」「いや、分かる。胸にこれ位の穴が開いているぞ」
南新町マーケット
2010年12月23日木曜日
今日も、またまたまた黒澤2本。
京橋フィルムセンターで、生誕百年 映画監督 黒澤明。
62年黒沢プロ/東宝黒澤明監督『椿三十郎(157)』
鄙びたお堂がある。そこに井坂伊織(加山雄三)が駆け込んでくる。寺田文治(平田昭彦)「駄目か!?やっぱり」伊織「うん。とにかく叔父貴は話にならん。我々の決意を述べて奸物粛清の意見書を渡すと、ざっと目を通して"これでも城代家老だ。これくらいのことはお前達に言われないでも分かっている」寺田「馬鹿な! じゃ、なぜ今まで・・・」伊織「殿様ご出府中、その留守を預かる城代家老が、次席家老と国許用人の汚職を知りながら、なぜ今日まで見逃していたのか。すると、にやにや笑って"おい。俺がその汚職の黒幕かもしれないぞ。お前達はこの俺を少し薄のろのお人よしだと思って、案山子代わりにかつぎ出すつもりらしいが、人は見かけによらないよ。危ない危ない。第一、一番悪い奴はとんでもない所にいる。危ない危ない" そう言うと、いきなり意見書をびりびりだ」
寺田「で、大目付菊井さまの所へ行ったのか?」伊織「そうだ。菊井さんはやっぱり話が分かる。初めのうちは困った顔をして、ご城代と相談の上でと逃げを打ってたが、俺が今の伯父の話をするとびっくりしてね。菊井殿は、お主らの忠義はよく分かった、直ぐに同志の者たちを集めよと仰有って下さった」保川邦衛(田中邦衛)「やっぱり大目付さまだ。うすのろのお人好しを、案山子を担ぐのとは訳が違う!」9人の若侍、守島隼人(久保明)守島広之進(波里達彦)河原晋(太刀川寛)関口信伍(江原達怡)広瀬俊平(土屋嘉男)八田覚蔵(松井鍵三)らは口々に熱い思いを語り合っていると、裏から大欠伸が聞こえ、薄汚れた素浪人(三船敏郎)が伸びをしながら現れた。身構え、刀に手をやる若侍たち。「おめえたちの話を聞いていると全く下らねえなあ」「盗み聞いてたのか!?」「ここは旅籠賃取られないからな。おれが眠っていたら、おめえたちが勝手に話しだしたんじゃねえか。しかし、知らねえから、話してる奴よりも話しが分かる。おれはどっちの面(つら)も知らねえが、城代家老はつまらねえ面をしてるだろ、やっぱり話せる、やっぱり本物だなんてところを見ると見かけだけは十分な大目付。危ねえ、危ねえ、城代家老が本物で、大目付が偽物だぜ。城代家老が言う通り、一番悪い奴が、とんでもねえところかもしれねえぞ。大目付の役目は何事も揉め事を起こさねえ筈なのに、おめえたちの義挙を後押しするてえのはおかしいぜ。岡目八目もいいところだ」伊織「確かに!しかし、今晩ここで落ち合うことに!?」
浪人、御堂の外の様子を見て、「見な、蟻の這い出る隙間もねえや」若侍たちが覗くと、沢山の侍たちが、御堂を取り囲もうと押し寄せて来るところだった。「大目付菊井殿の手の者である。十重二十重に取り囲んでいる。神妙にしろ」若侍たち顔を見合わせ「こうなったら、生きるも死ぬも、我らが九人!」飛び出して斬り込もうとする青大将。浪人「待て!俺も入れて十人だ。おめえたちを見ていると、危なっかしくてしょうがねえ」
突然御堂の戸が開き、浪人一人が出てくる。「うるせえな!俺がいい気持ちで眠っていたら…、気をつけろ、俺は機嫌が悪いんだ」捕り方たちが、御堂に入ろうとすると「てめえら、俺の寝床に、勝手に土足で上がるんじゃねえ!」
城代家老睦田弥兵衛(伊藤雄之助)の役宅。広間に睦田と奥方(入江たか子)やって来る。若侍九人が待っている。「あのお方は?」「あなた、命の恩人のお名前をお忘れですか、椿さまですよ」「千鳥お呼びしなさい、今回のことを話しておく。残念ながら、菊井は自害してしまったが、本当はわしは、竹林や黒藤のように、隠居のような穏便な処置をしたかった。わしの不徳とするところじゃ」
椿「こいつは俺と似ている。抜き身だ。でも、あの奥方が言ったように、本当にいい刀は鞘に入っている。お前らは、ちゃんと鞘に入っていろよ!来るな!!叩っ斬るぞ!!あばよ!」手をついて平伏する若侍たちを残して去って行く三十郎。
室戸半兵衛(仲代達矢)見張りの侍木村(小林桂樹)腰元こいそ(樋口年子)千鳥(団令子)次席家老黒藤(志村喬)用人竹林(藤原釜足)大目付菊井六郎兵衛(清水将夫)
70年四騎の会/東宝黒澤明監督『どですかでん(158)』
都電が走っている。線路すれすれに建っているボロい店。てんぷらと書いてある。都電を眺めている少年六ちゃん(図師佳孝)。中で仏壇に向かい、必死にお題目を唱える母親おくに(菅井きん)。一間しかない小さな家の中は、六ちゃんが描いた電車の絵で一杯だ。壁、ガラス戸の夥しい数の絵はカラフルだ。おくにの隣に座り、仏壇に深々と頭をさげ「ご僧主さま、毎度のことですが、かあちゃんの頭がよくなるよう、よろしくお願いいたします。ナンミョウレンソ、ナンミョウレンソ」と拝む六ちゃん。悲しい目のおくにを見て「どうして、そんな顔をするのさ、かあちゃん、何か心配なのかい?」「何もないよ」「かあちゃんは、何も心配しなくてもいいよ」おくにの顔を覗き込み、再び深深と頭を下げ、「お僧主さま。毎度毎度で、飽き飽きするかもしれませんが、かあちゃんのことよろしくお願いいたします。柱時計が鳴る。慌てて立ち上がり、柱にかかった都電の操縦棒を手に取り帽子を被るような動作をし、軍手を手にはめ、「それじゃ、行って来ます。今日は8往復して、昼休みしてまた8往復だから、帰りは夕方になるよ」腰に弁当箱を入れた風呂敷を縛り付け、家の外に出て、目の前の瓦礫の山を登って行く六ちゃん。泣きながら立ち上がるおくに。家中に描かれた電車の絵を眺め、再び泣きだし座りこむ。
六ちゃんは塵の山を歩き、少し開けた石が敷き詰められた場所に出る。ここは六ちゃんの操車場だ。そこに電車が停まっているかのように、一つ一つの箇所を点検する。「しょうがねえな、整備の野郎。何やってやがる。いくら古いからと言ってもなっちゃいねえな」圧力弁やドアの開閉、パンタグラフの操作など一つ一つの動作でほんものの音はするが、勿論電車は、六ちゃんの頭の中にしかない。「さあ!発車進行!・・・ど・で・す・か・で・ん・・・ど・で・す・か・で・ん・・どですかで・ん・・どですかでん・どですかでん・どですかでんどですかでん」瓦礫の中に一本通った道を力強く進む六ちゃん。「どですかでん、どですかでん」と駆ける六ちゃん。
近所の子供たちが「電車きちがい!!電車きちがい!!」と囃し立て、石を投げるが、六ちゃんの耳には届かない。六ちゃんは突き当たりにある白い家の前で停まる。ここが終点のようだ。六ちゃんは中に入り、たんばさん(渡辺篤)に声を掛ける。「たんばさんおはよう」「かあちゃんは、信心しているか」「うん、朝晩しているよ」「今日の電車の調子はどうだい?」「整備の連中が手を抜きやがって」「そうかい・・。かあちゃんによろしく」「うん、ありがとう」出て行く六ちゃん。たんばさんは、調金職人のようだ。
このスラム街の真ん中に、水道の蛇口があり、女たち(園佳也子、新村礼子、牧よし子、桜井とし子、小野松枝)が日がな炊事の支度や、洗濯で集まり、噂話をしている。水道を挿んで、黄色いバラック小屋と赤いバラック小屋があり、黄色い家から黄色い作業着を来た益夫(井川比佐志)が出て来て、送って出た妻のたつ(沖山秀子)が「今日こそ、酒飲んでくるんじゃないよ」とドヤしつけている。向かいの赤い家からは、赤い作業ズボンを穿いた初太郎(田中邦衛)が出てくる。同じように見送る良江(吉村実子)。「あにき!!」益男「ようでかけるぜ!今日は天気がよさそうだ」小声になり「今日も終わったら、いっぱいひっかけようぜ」二人とも昨日の酒が残っているのか、千鳥足で出掛けて行く。たつと美江「男ってどうして、あんななんだろうねええ」
少し先の家からきちんと三つ揃いの背広と中折れ帽を被った島悠吉(伴淳三郎)が出て来て、水道の女たちに挨拶をする「おはようございます」おんなたち「おはようございます」小声になって「あたしゃ、島さんはいい人だけど、あの顔の麻痺と奥さんにだけは馴染めないよ」跛をひき歩く島、くしゃみをしそうになり、ズルズルと鼻を鳴らしたかと思うと、一旦顔を止め、弛緩する。これが島の顔の麻痺らしい。島が去ると、不機嫌な表情の妻(丹下キヨ子)が咥え煙草で、買い物籠を下げ出てくる。おんなたちの前を素通りし、屋台の八百屋の前に立つ。嫌な顔をする八百屋(谷村昌彦)。おもむろにキャベツを手に取り、外側から毟り始め「ここの野菜はひどい品なのに、高い」「そんなことはないよ、中通りのスーパーに比べたら2,3割は安いとみんな言っているよ」「あんた、客を嘘つき呼ばわりするのかい?このキャベツ目方計っておくれ」「きゃべつは目方じゃなくて、一個で売るもんだよ」「こんな萎びた葉っぱまで売りつけるのかい?」やれやれと言う顔でキャベツを量る八百屋。しかし、女は毟って剥がしたキャベツの外葉を買い物籠に押し込んでいる。
近くのバラックから平さん(芥川比呂志)が出てくる。平さんの顔は青白く、その瞳は宙を睨んでいるが光はない。女たち「平さんは、若い頃は、ずいぶんいい男だったろうね」抱えて来た古着の歯切れをドラム缶に突っ込んでいる平さん。女たちの中の渋皮のむけた女(根岸明美)に「あんた、狙った男は外したことはないと、いつも自慢しているけど、平さんのところに忍んでいったのをあたしはしっているんだよ」「そうさ、私はあの晩忍んで行って、眠っている平さんの布団に入ろうとしたら、恐ろしい声で啜り泣いていて、お蝶と言っているのを聞いてしまったんだ。何かとても恐ろしい体験をしたみたいだね」くまん蜂の吉(ジェリー藤尾)が洗面器を持って出てくる。
くまん蜂の女房(園佳也子)絵描き(加藤和夫)野本(下川辰平)沢上良太郎(三波伸介)小供(石井聖孝、貝塚みほこ)沢上みさお(楠侑子)みさおに纏わりつく男たち(人見明、二瓶正也、江波多寛児、市村昌治、伊吹新)お蝶(奈良岡朋子)乞食の親子(三谷昇、川瀬裕之)綿中京太(松村達雄)姪のかつ子(山崎知子)妻のおたね(辻伊万里酒屋伊勢屋の御用聞き岡部少年(亀谷雅彦)死にたい老人(藤原釜足)屋台のおやじ(三井弘次)小料理屋の女将(荒木道子)レストランの主人(桑山正一)ウェイトレス(塩沢とき)泥棒(小島三児)刑事(江角英明)
どですかでん予告編youtube
本当は、「どですかでん」と、その次に上映予定の「夢」を黒澤カラー映画2本立てと、美人画家1.5を誘っていたのだが、まあ、1.5状態なのでこれなくなったのだが、よかった。高校時代以来、「どですかでん」を見て、やっぱりどう考えても、0.5には胎教的に悪影響があったのでは(苦笑)と思ったのと、自分自身「どですかでん」で脳味噌掻きまわされて2本観終わって疲労困憊、息も絶え絶えだった。黒澤3本は、やっぱり無理だわ。青山スパイラルで友人がやっているイベントに顔を出し帰宅。
62年黒沢プロ/東宝黒澤明監督『椿三十郎(157)』
鄙びたお堂がある。そこに井坂伊織(加山雄三)が駆け込んでくる。寺田文治(平田昭彦)「駄目か!?やっぱり」伊織「うん。とにかく叔父貴は話にならん。我々の決意を述べて奸物粛清の意見書を渡すと、ざっと目を通して"これでも城代家老だ。これくらいのことはお前達に言われないでも分かっている」寺田「馬鹿な! じゃ、なぜ今まで・・・」伊織「殿様ご出府中、その留守を預かる城代家老が、次席家老と国許用人の汚職を知りながら、なぜ今日まで見逃していたのか。すると、にやにや笑って"おい。俺がその汚職の黒幕かもしれないぞ。お前達はこの俺を少し薄のろのお人よしだと思って、案山子代わりにかつぎ出すつもりらしいが、人は見かけによらないよ。危ない危ない。第一、一番悪い奴はとんでもない所にいる。危ない危ない" そう言うと、いきなり意見書をびりびりだ」
寺田「で、大目付菊井さまの所へ行ったのか?」伊織「そうだ。菊井さんはやっぱり話が分かる。初めのうちは困った顔をして、ご城代と相談の上でと逃げを打ってたが、俺が今の伯父の話をするとびっくりしてね。菊井殿は、お主らの忠義はよく分かった、直ぐに同志の者たちを集めよと仰有って下さった」保川邦衛(田中邦衛)「やっぱり大目付さまだ。うすのろのお人好しを、案山子を担ぐのとは訳が違う!」9人の若侍、守島隼人(久保明)守島広之進(波里達彦)河原晋(太刀川寛)関口信伍(江原達怡)広瀬俊平(土屋嘉男)八田覚蔵(松井鍵三)らは口々に熱い思いを語り合っていると、裏から大欠伸が聞こえ、薄汚れた素浪人(三船敏郎)が伸びをしながら現れた。身構え、刀に手をやる若侍たち。「おめえたちの話を聞いていると全く下らねえなあ」「盗み聞いてたのか!?」「ここは旅籠賃取られないからな。おれが眠っていたら、おめえたちが勝手に話しだしたんじゃねえか。しかし、知らねえから、話してる奴よりも話しが分かる。おれはどっちの面(つら)も知らねえが、城代家老はつまらねえ面をしてるだろ、やっぱり話せる、やっぱり本物だなんてところを見ると見かけだけは十分な大目付。危ねえ、危ねえ、城代家老が本物で、大目付が偽物だぜ。城代家老が言う通り、一番悪い奴が、とんでもねえところかもしれねえぞ。大目付の役目は何事も揉め事を起こさねえ筈なのに、おめえたちの義挙を後押しするてえのはおかしいぜ。岡目八目もいいところだ」伊織「確かに!しかし、今晩ここで落ち合うことに!?」
浪人、御堂の外の様子を見て、「見な、蟻の這い出る隙間もねえや」若侍たちが覗くと、沢山の侍たちが、御堂を取り囲もうと押し寄せて来るところだった。「大目付菊井殿の手の者である。十重二十重に取り囲んでいる。神妙にしろ」若侍たち顔を見合わせ「こうなったら、生きるも死ぬも、我らが九人!」飛び出して斬り込もうとする青大将。浪人「待て!俺も入れて十人だ。おめえたちを見ていると、危なっかしくてしょうがねえ」
突然御堂の戸が開き、浪人一人が出てくる。「うるせえな!俺がいい気持ちで眠っていたら…、気をつけろ、俺は機嫌が悪いんだ」捕り方たちが、御堂に入ろうとすると「てめえら、俺の寝床に、勝手に土足で上がるんじゃねえ!」
城代家老睦田弥兵衛(伊藤雄之助)の役宅。広間に睦田と奥方(入江たか子)やって来る。若侍九人が待っている。「あのお方は?」「あなた、命の恩人のお名前をお忘れですか、椿さまですよ」「千鳥お呼びしなさい、今回のことを話しておく。残念ながら、菊井は自害してしまったが、本当はわしは、竹林や黒藤のように、隠居のような穏便な処置をしたかった。わしの不徳とするところじゃ」
椿「こいつは俺と似ている。抜き身だ。でも、あの奥方が言ったように、本当にいい刀は鞘に入っている。お前らは、ちゃんと鞘に入っていろよ!来るな!!叩っ斬るぞ!!あばよ!」手をついて平伏する若侍たちを残して去って行く三十郎。
室戸半兵衛(仲代達矢)見張りの侍木村(小林桂樹)腰元こいそ(樋口年子)千鳥(団令子)次席家老黒藤(志村喬)用人竹林(藤原釜足)大目付菊井六郎兵衛(清水将夫)
70年四騎の会/東宝黒澤明監督『どですかでん(158)』
都電が走っている。線路すれすれに建っているボロい店。てんぷらと書いてある。都電を眺めている少年六ちゃん(図師佳孝)。中で仏壇に向かい、必死にお題目を唱える母親おくに(菅井きん)。一間しかない小さな家の中は、六ちゃんが描いた電車の絵で一杯だ。壁、ガラス戸の夥しい数の絵はカラフルだ。おくにの隣に座り、仏壇に深々と頭をさげ「ご僧主さま、毎度のことですが、かあちゃんの頭がよくなるよう、よろしくお願いいたします。ナンミョウレンソ、ナンミョウレンソ」と拝む六ちゃん。悲しい目のおくにを見て「どうして、そんな顔をするのさ、かあちゃん、何か心配なのかい?」「何もないよ」「かあちゃんは、何も心配しなくてもいいよ」おくにの顔を覗き込み、再び深深と頭を下げ、「お僧主さま。毎度毎度で、飽き飽きするかもしれませんが、かあちゃんのことよろしくお願いいたします。柱時計が鳴る。慌てて立ち上がり、柱にかかった都電の操縦棒を手に取り帽子を被るような動作をし、軍手を手にはめ、「それじゃ、行って来ます。今日は8往復して、昼休みしてまた8往復だから、帰りは夕方になるよ」腰に弁当箱を入れた風呂敷を縛り付け、家の外に出て、目の前の瓦礫の山を登って行く六ちゃん。泣きながら立ち上がるおくに。家中に描かれた電車の絵を眺め、再び泣きだし座りこむ。
六ちゃんは塵の山を歩き、少し開けた石が敷き詰められた場所に出る。ここは六ちゃんの操車場だ。そこに電車が停まっているかのように、一つ一つの箇所を点検する。「しょうがねえな、整備の野郎。何やってやがる。いくら古いからと言ってもなっちゃいねえな」圧力弁やドアの開閉、パンタグラフの操作など一つ一つの動作でほんものの音はするが、勿論電車は、六ちゃんの頭の中にしかない。「さあ!発車進行!・・・ど・で・す・か・で・ん・・・ど・で・す・か・で・ん・・どですかで・ん・・どですかでん・どですかでん・どですかでんどですかでん」瓦礫の中に一本通った道を力強く進む六ちゃん。「どですかでん、どですかでん」と駆ける六ちゃん。
近所の子供たちが「電車きちがい!!電車きちがい!!」と囃し立て、石を投げるが、六ちゃんの耳には届かない。六ちゃんは突き当たりにある白い家の前で停まる。ここが終点のようだ。六ちゃんは中に入り、たんばさん(渡辺篤)に声を掛ける。「たんばさんおはよう」「かあちゃんは、信心しているか」「うん、朝晩しているよ」「今日の電車の調子はどうだい?」「整備の連中が手を抜きやがって」「そうかい・・。かあちゃんによろしく」「うん、ありがとう」出て行く六ちゃん。たんばさんは、調金職人のようだ。
このスラム街の真ん中に、水道の蛇口があり、女たち(園佳也子、新村礼子、牧よし子、桜井とし子、小野松枝)が日がな炊事の支度や、洗濯で集まり、噂話をしている。水道を挿んで、黄色いバラック小屋と赤いバラック小屋があり、黄色い家から黄色い作業着を来た益夫(井川比佐志)が出て来て、送って出た妻のたつ(沖山秀子)が「今日こそ、酒飲んでくるんじゃないよ」とドヤしつけている。向かいの赤い家からは、赤い作業ズボンを穿いた初太郎(田中邦衛)が出てくる。同じように見送る良江(吉村実子)。「あにき!!」益男「ようでかけるぜ!今日は天気がよさそうだ」小声になり「今日も終わったら、いっぱいひっかけようぜ」二人とも昨日の酒が残っているのか、千鳥足で出掛けて行く。たつと美江「男ってどうして、あんななんだろうねええ」
少し先の家からきちんと三つ揃いの背広と中折れ帽を被った島悠吉(伴淳三郎)が出て来て、水道の女たちに挨拶をする「おはようございます」おんなたち「おはようございます」小声になって「あたしゃ、島さんはいい人だけど、あの顔の麻痺と奥さんにだけは馴染めないよ」跛をひき歩く島、くしゃみをしそうになり、ズルズルと鼻を鳴らしたかと思うと、一旦顔を止め、弛緩する。これが島の顔の麻痺らしい。島が去ると、不機嫌な表情の妻(丹下キヨ子)が咥え煙草で、買い物籠を下げ出てくる。おんなたちの前を素通りし、屋台の八百屋の前に立つ。嫌な顔をする八百屋(谷村昌彦)。おもむろにキャベツを手に取り、外側から毟り始め「ここの野菜はひどい品なのに、高い」「そんなことはないよ、中通りのスーパーに比べたら2,3割は安いとみんな言っているよ」「あんた、客を嘘つき呼ばわりするのかい?このキャベツ目方計っておくれ」「きゃべつは目方じゃなくて、一個で売るもんだよ」「こんな萎びた葉っぱまで売りつけるのかい?」やれやれと言う顔でキャベツを量る八百屋。しかし、女は毟って剥がしたキャベツの外葉を買い物籠に押し込んでいる。
近くのバラックから平さん(芥川比呂志)が出てくる。平さんの顔は青白く、その瞳は宙を睨んでいるが光はない。女たち「平さんは、若い頃は、ずいぶんいい男だったろうね」抱えて来た古着の歯切れをドラム缶に突っ込んでいる平さん。女たちの中の渋皮のむけた女(根岸明美)に「あんた、狙った男は外したことはないと、いつも自慢しているけど、平さんのところに忍んでいったのをあたしはしっているんだよ」「そうさ、私はあの晩忍んで行って、眠っている平さんの布団に入ろうとしたら、恐ろしい声で啜り泣いていて、お蝶と言っているのを聞いてしまったんだ。何かとても恐ろしい体験をしたみたいだね」くまん蜂の吉(ジェリー藤尾)が洗面器を持って出てくる。
くまん蜂の女房(園佳也子)絵描き(加藤和夫)野本(下川辰平)沢上良太郎(三波伸介)小供(石井聖孝、貝塚みほこ)沢上みさお(楠侑子)みさおに纏わりつく男たち(人見明、二瓶正也、江波多寛児、市村昌治、伊吹新)お蝶(奈良岡朋子)乞食の親子(三谷昇、川瀬裕之)綿中京太(松村達雄)姪のかつ子(山崎知子)妻のおたね(辻伊万里酒屋伊勢屋の御用聞き岡部少年(亀谷雅彦)死にたい老人(藤原釜足)屋台のおやじ(三井弘次)小料理屋の女将(荒木道子)レストランの主人(桑山正一)ウェイトレス(塩沢とき)泥棒(小島三児)刑事(江角英明)
どですかでん予告編youtube
本当は、「どですかでん」と、その次に上映予定の「夢」を黒澤カラー映画2本立てと、美人画家1.5を誘っていたのだが、まあ、1.5状態なのでこれなくなったのだが、よかった。高校時代以来、「どですかでん」を見て、やっぱりどう考えても、0.5には胎教的に悪影響があったのでは(苦笑)と思ったのと、自分自身「どですかでん」で脳味噌掻きまわされて2本観終わって疲労困憊、息も絶え絶えだった。黒澤3本は、やっぱり無理だわ。青山スパイラルで友人がやっているイベントに顔を出し帰宅。
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