ラピュタ阿佐ヶ谷で、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第51弾】若尾文子。
62年大映東京吉村公三郎監督『その夜は忘れない(26)』
下りの寝台特急あさかぜ?、電気カミソリで髭を剃る加宮恭介(田宮二郎)は、東京の週刊ジャーナルの雑誌記者。加宮に女(穂高のり子)が声を掛ける「お先に!!」「早いなあ」「あなたこそ」「僕は広島までだから…」「昨日はご馳走さま!!」「食堂車のビールぐらい(笑)。ええと、君の店はどこだっけ…」「名刺お渡ししたじゃない」女は加宮のワイシャツの胸ポケットから自分の名刺を引っ張り出す。「博多か…。今度中洲に行ったら飲み比べしよう」「きっとよ!!」
広島駅で降りた加宮は、「新広島ホテルまで」と声をかけてタクシーに乗る。戦後17年目の夏、広島の街はあの悲劇がなかったのようである。
新広島ホテルにチェックインした加宮は、カーテンを開ける。目の前には、広島平和公園が広がっている。突然部屋の電話が鳴る。大学時代の友人で、ラジオ広島テレビの制作部に勤める菊田吾郎からの電話だ。「さっきも電話をくれたんだってな」「ビデオなんてものが発明されたせいで、徹夜で編集だったんだよ」副調整室で、牛乳瓶を片手に、コッペバンを食べながら電話をしている菊田の顔には無精髭が生えている。「17年目の広島の取材。そんな記事を今でもやるのか?よっぽど暇なんだな…。草の根会?あるよ、今でも。じゃあまた連絡するよ」
広島の夏の強い日差しの下を原爆公園や、広島平和記念資料館の展示物を見る加宮。資料館の担当者に「見学者は少ないんですね」「記念日が近付くと、全国から随分来なんしゃるんですが…」「広島の方は?」「それが、ちーとも来んですね…」広島原爆病院の種田医師(中村伸郎)に話を聞く加宮。「遺伝に関しての、大学の朝比奈教授のレポートです。お会いになるんでしたから、連絡しておきます」「お願いします」「病室ご覧になりますね」患者は年配の人間が多い。患者と見舞い客の写真を撮らせて貰う加宮。どこからか入院患者が聞いている、エリーゼのためにのオルゴールが聞こえている。
次に加宮は、被災者のサークル、草の根会の事務局を訪ねる。「前は会員が50数名いたんじゃが…。昔はこれから不安じゃと言うことで、いつも集まっていたんですが…」
「最近は、不安が無くなったと言うことですか?」「もう、忘れたいと言うこともあるかも知れん」「差し支えなければ、会員の方の名簿を拝見したいのですか…」
すみれ洋裁店、美しい女(田中三津子)が中にいる。夏はきぬを口ずさんでいる。「田村ふさ子さんですか?」「はい」振り返った女の反対側の頬には大きなケロイドがある。「ああ、草の根会の紹介で来んしゃったね」鼻歌を歌いながら、茶を持って来る「おかまいなく」「広島ん夏は、暑いでしょう。」数冊の雑誌を開き「これが私です。写真を撮るなら外に出ますか?」明るくサバサバしたふさ子に戸惑う加宮。「こんなことを伺っていいのか分かりませんが、顔の傷はあなたの幸不幸に影響していますか」ふさ子は笑い出す「新聞社の人はみんな同じこと言うんじゃのう。それは悩んだこともあったけんど、考えてもしょうがないけえ」
原爆ドームの前で、アメリカ人観光客相手にブロークンな英語で土産を売る男。「アメリカの雑誌で、原爆を土産にしていると書いてあったようじゃけど、私は、何時までも、世の中に原爆のことを忘れさせないために立つことにしているんじゃ。この手のケロイドも、目の前にああなったまま聳えている原爆ドームがある限り、生きた人間の上に原爆落とすとどうなるか、見せないけんのじゃき」
喫茶店に若い娘「原爆のこと?もう忘れた」耳の後ろに大きなケロイドはあるが、「来月結婚するかもしれんの」彼氏とツイストを踊る娘。
広島市民球場。ナイターの客席は満員だ。加宮が内野席に現れると、菊田が手を振る。菊田の隣には、若い娘加賀美子(江波杏子)がいる。「うちの劇団の女優で、加賀美子、通称ヨシ坊。ヨシ坊、原爆知ってるか?」「うち知らん、生まれる前やもん」
切ない恋愛映画。これは素晴らしい!!
京橋フィルムセンターで、映画監督 大島渚。
60年松竹大船大島渚監督『日本の夜と霧(27)』
霧深い林の中を歩く男太田(津川雅彦)。「君は誰だ!?」と誰何されるが、「結婚式に出るんだ」と答える。大きなコテージ風の建物の中では、野沢晴明(渡辺文雄)と原田玲子(桑野みゆき)の披露宴が行われている。媒酌人は野沢の出身大学の字田川教授夫妻(芥川比呂志、氏家慎子)だ。字田川は、6.15の安保反対闘争で、学生も教員も初めて共闘できた意義を雄弁に語っている。司会は、大学時代学生寮の委員長で党員の中山勝彦(吉沢京夫)と妻の美佐子(小山明子)だ。同じ寮だった坂巻(佐藤慶)と東浦(戸浦六宏)は皮肉な眼差しで、中野たちを見ていた。
新婦の友人斎藤(上西信子)の音頭で「若者よ鍛えておけ~♪」と歌っていると、突然、太田が乱入する。「新婦友人として話をさせてくれ」と強引に発言する。「太田!!君には逮捕状が出ているんじゃないか?」「何で隠れているんだ!?」「隠れてなんかいませんよ?」
4日間で打ち切りになったことが、ネット上では一番の反応のようだが、今のテレビのポジションが映画だったので、上映しちゃって、興業的にOKならまあいいかと思った松竹が、全然興収(当時は配収)が壊滅的だったので、慌てて差し替えたということかなあと思う。視聴率至上主義≒配収主義。
まあ、それよりも、戦中派と、焼け跡派の60年安保の世代と、団塊世代の70年安保世代(この時代は出てこないが・・・)とのジェネレーションギャップと、戦中~戦後の唯一の前衛党であった筈の日共の変節への失望と絶望が、焼け跡派のトラウマになってしまったということなのかと考え始めると、35年前に見た時の印象とはかなり異なっている。 ディベイトでは、咬み咬みだろうが何だろうが、自分の主張を兎に角話し続けて、相手に発言だせないのも戦術のウチだと思えば、他人事ではない。芸術かアートかではなく、政治的なメッセージを、松竹から発信する大島は凄い。
シネマヴェーラ渋谷で、消えゆく曽根中生!?
78年エル・アイ・エル曽根中生監督『博多っ子純情(28)』
博多の夏は、祇園山笠から始まる。博多人形職人郷五郎(小池朝雄)とスミ(春川ますみ)の一人息子六平(光石研)は、博多三中の二年生。締め込みを買ってくれと言うが、まだ駄目だと認めて貰えない。しかし、父親が足を挫いたため、代わりに牽かせて貰うことになった。クラスメートで親友の阿佐道夫(小屋町英浩)と黒木真澄(横山司)とは、違う地区なので、競争相手だ。六平の西は昨年最下位だったのだ。張り切って走るが、六平は転び取り残される。水を頭から被って気合いを入れ、山を追い掛ける六平。翌日学校では、黒木と昨日のことで言い争いだ。しかし、クラスの小柳類子(松本ちえ子)と喧嘩になると、直ぐに男同士仲直りだ。
無法松「郷!!あん時の借りはこれで返したと!!」「ありがとうございました」「礼を言うならあの子にいいな」「小柳!!きさん、何で余計なことをしたと!!」
当時、長谷川法世の原作も大好きで、曽根中生の監督で、当時かなり期待して見に行き、最高傑作だと思った気がしていたのだが(苦笑)。
うーん、十分好きな映画なのだが・・・。中村れい子は、このオーディションで出て来たんだったか。立花美英→中村れい子、そう考えると、先週見た曽根中生の「悪魔の部屋」うーん、中2男子として、隣の家のバツ1お姉さんが、数年後ポルノ映画に出る切なさを感じるな。自分が大人になって、結婚して幸せにするつもりだったのに(苦笑)。
79年にっかつ曽根中生監督『天使のはらわた 赤い教室(29)』
学校の廊下をビールの音をさせ歩いてくる女の影、突然三人の男子学生が襲い掛かり、教室に連れ込み、暴行をする。8mm映画の粗い画像、突然切れる。「すみません。何せ古いフィルムなんで、直ぐ続きを」再開される。女の抵抗は真に迫っていて、見ている客たちは思わず息を飲む。暴行した男子学生は逃げ、女は脱力したように下着を着け服を着るが、カメラを見る目には絶望感に湛えられている…。
ブルーフィルムの上映が終わり、村木哲郎(蟹江敬三)は、チンピラにモデルを教えてくれと迫る。
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