2009年12月1日火曜日

教師が教えられること。

   池袋新文芸坐で、気になる日本映画たち

    中西健二監督『青い鳥(671)』
   ある朝、バスの座席で、文庫本を静かに読む男(阿部寛)。関交バス、美乃車庫前行きと書いてある。同じ頃、自宅から自転車で学校に向かう中学生園部(本郷奏多)。途中で気が変わり、とあるコンビニの近くに行く。コンビニエンスストア野口と看板が出た店のシャッターは降り、「都合により閉店します。」と言う紙が一枚貼られている。つらそうな表情をした少年は再び学校に向かう。
   バスは東が丘中学校前と言うバス停に着き、男は下車する。美乃市立東が丘中学校の正門、教師と生徒会の生徒たちが、登校してくる生徒たちに声を掛けている。校内の至るところには、新生東が丘中プロジェクト、ベストフレンズ運動、相手を思いやる心、と書かれた標語が掛かっている。校舎内には、青い鳥BOXと言う青くペンキが塗られた鍵の掛かった郵便受けのような箱が置かれていた。
   職員室、校長と教頭が教師を前に朝礼をしている。今日は三学期の始業式らしい。今日から三学期が始まります。3年生にとっては受験が始まります。あの不幸な事件を脱し、ようやく落ち着いてきたと思います。また、生徒会の話合いで決まった青い鳥BOXも校内3か所に設置されます。その担当には、生活指導の石野先生と、島崎先生にお願いします。療養中の高橋先生の代わりに二年一組の担任に、教育委員会から村内先生にお越し頂きました。せっかくですので、一言ご挨拶をと教頭が話を振るが、村内は既に教室に向かって職員室を出ていた。唖然とする教師たち。
  二年一組の教室に、村内が入ってくる。出席簿と生徒たちを見比べながら、何も口を開かない。かなりの沈黙の後、「村内と言います。きっきっきっきっ休職された、たったったったっ高橋先生がふくしょくされるまで、こっこっこっこっこのクラスの担任をします・・・。」激しい吃音に、生徒たちの間に、戸惑いが、しばらくして小さな笑いが起こる。
   「卑怯だ。忘れるなんて卑怯だ。」「えっ?」「何て言った?」笑いが凍りつく。「先生は、ドモリます。あんまり上手に喋られない。でも、本気で喋ります。だっだからみんなも本気で聞いてください・・・。」一言ずつ絞り出すように話す村内。「本気の言葉を本気で聞くのは当り前のことです。みんながそれを出来なかったから、先生がここに来ました。」戸惑いの表情を浮かべる生徒たち。
   村内は黒板に書かれた日直の名前を見て「園部君と高木さん、のっ野口くんのつっ机を持って来て下さい。」有無を言わせない言い方に、しばらく躊躇っていた園部と高木は立ち上がり、机と椅子を取りに行く。机の上には、「コンビニエンスストア野口・東が丘中支店」という悪戯書きが書かれている。二人が教室に運んでくると、「こっ、こっこの机は、どっどこにありましたか?」誰も口を開かない。「くっクラス委員、はっ早川さん」「・・・窓際の列の三番目です・・・。」ゆっくり窓際に歩き、「こっ小林くんから、一つづつ下がって。さあ、こっちへ持って来て。」薄気味悪そうに、机を並べる園部と高木。机を見て満足そうに、「野口くん、お帰り・・・。」と言う村内、呆然と見ている生徒たち。
   クラス委員の早川が「先生!野口くんはもう転校しました。」井上は「じゃあ、それは何なんだ?罰ゲームかよ?」「いっ井上くん。げっゲームなんかないぞ。人が本気で生きていくのに、げっゲームなんかひとつもないんだ・・・。」その時、チャイムが鳴る。生徒たちは虚ろな表情で溜息をつく。
   廊下に置かれている青い鳥BOX。「誰がこんなもの作ったんだ。」「石野に決まってんじゃないの。一人張りきられてもね。」職員室、村内に島崎(伊藤歩)が声を掛ける。「あの・・・村内先生お疲れ様でした。」中学前のバス停に、村内が並んでいる。自転車に乗った園部、眺める。
   翌日、村内は、野口の机に向って、「野口くんおはよう」と笑顔を浮かべる。凍りつく生徒たち。体育の時間、走りながら井上たちが話している。「すげームカつく。あれ毎日やるつもりか?」「ほっとけよ、三日もあれば止めるって。」園部は校舎の屋上にいる村内の姿に気が付く。しばらくしてもう一度見上げると、姿は消えている。弁当の時間。玄米のおにぎりをゆっくり咀嚼する村内。弁当箱の中には、海苔もついていないおにぎりが二つ、梅干し、沢庵、鰯か田作りが入っているだけだ。好奇の目で見る生徒たち。授業中、井上が村内の吃音の真似をする。「やめなさいよ」と注意をする女子。放課後の職員室、島崎、村内にお茶を出し、「あの・・・。」顔を上げた村内に、「いえ・・・。」と言葉を飲む。
  その夜、若葉ゼミナール。現在完了形の講義。園部がノートに誰かの似顔絵を描いている、途中で鉛筆で黒く塗りつぶす。塾から出てくる園部。?が声を掛ける。「ねえ、何かヘンな先生来ちゃったね。」「うん。」「最初の時間で、全員の名前を覚えちゃった。」

   なかなか良かった。吃音の村内が正論を吐くことで、胡散臭さが感じられない。静かに演じる阿部寛に好感。中学生役も皆なかなかいい。若い女性教師役の伊藤歩も、こんなにいい女優になっていたなんて。派手さが全くない映画で、興業的には失敗したが、今年の学校ものとしては出色じゃないだろうか。教師役も、テレビ的なキャスティングをしていないこともあり、リアリティがある。

    金子修介監督『プライド(672)』
   豪邸の一室で、スタインウェイのグランドピアノを弾く令嬢。BCクリーニングサービスの車が門前に着く。緑川萌(満島ひかり)。お手伝いらしき中年女が、「ご主人様とお嬢様のお二人だけなので、そんなに汚れないけで、何分広くて手が回らなくて」と弁解がましく言う。
萌が二階に上がってくる。グランドピアノに目を奪われていると、窓から風が吹き譜面が舞う。すみませんと一言言って、慌てて譜面を拾う萌。中に、東京オペラシアターのラ・トラヴィラータの公演切符を見つけ思わず声を出す。鏡台に向かっていた浅見史緒(ステファニー)が振り返り、「いいのよ。」「これ、トラヴィラータですよね。いいなあ五万円もする切符ですよね」

池之端蘭丸(渡辺大)クイーンレコード副社長神野隆(及川光博)山本教授(由紀さおり)
「魔笛」の夜の女王のアリア 三田音楽大学四年千住音大三年
銀座クラブ・プリマドンナ菜都子(高島礼子)木原さわ子 父(ジョン・カビラ)
母民子(キハラ緑子)松島春子(五代路子)


   不思議な映画だ。一条ゆかりのある意味スノッブな格好良さは全く換骨奪胎され、ただの音楽青春映画になっている。オペラの世界だった筈なのに、銀座クラブでの、歌うホステスとフロア歌手の歌対決になり、最後は普通にJPOPディーヴァ対決になってしまう。オペラは勿論口パク、終盤のありふれたデュエット曲は、一応本人たちのレコーディング済みトラックの口パク。ソニーレコーズの音楽へのこだわりの無さは、気持ちがいいくらいだ(笑)。リアリティとか気にならないんだな。オペラ観たことないかもしれないな。クイーンレコード(!!ん??キングレコード?)は、「戦国時代に貿易で莫大な富を築いた先祖」を持つ神野財閥の父親が、オペラ歌手木原さわ子のために作った会社。CD不況の影もなく、ビルはでかいが、受付嬢は異様に華がない。元の会社でも、もう少し美人だった(笑)。
   ステファニー、満島ひかり、それぞれ別の意味でミスキャストな感じ。ステファニーは演技以前、満島ひかりは「愛のむき出し」演技で。しかし、何だか嫌いになれない映画なのだなあ。金返せというより、何度でもみたい(笑)。でも、満島ひかりの一番はウルトラマンマックスのエリーだったなんて言うと本人から顰蹙買うだろうか。感情の爆発と熱演とは、少し違う気が・・・。
   あと気になったのは、今の日本には、上流階級はないのだろうか。先日の「貴族の階段」のような本物のお姫さま(おひーさま)が本当にいなくなったのであれば、ある意味悪くない気もするが、人格、品性とは全く違うところで、勝ち組と負け組の格差だけが広がっているのだとすると喜んでもいられない(笑)。

   その後、神谷町の元会社に行き、百周年企画の内容のブレスト。ようやく半歩前進。

   博華で、餃子とビール。

0 件のコメント: