2009年11月5日木曜日

山田VS岡田。でも今日の1番は佐藤。

 ポレポレ東中野で、女優 岡田茉莉子

  58年松竹大船澁谷實監督『悪女の季節(627)』
   現代人の行動は、直接的にせよ、間接的にせよ、殺人につながっているものである。胸部レントゲン写真、心電図…。医師、「八代さんは、何万人に一人の丈夫な身体です。20才は若い、100才まで生きられますよ。」と、人間ドックの結果に太鼓判を押す。
   大金持ちの八代(東野英治郎)は、人間ドックを受け、何万人に1人の健康的な肉体だと、医者から誉められる。68歳の八代は、20歳は若いと言われ、帰宅し、妻の妙子(山田五十鈴)に100歳まで生きると大威張りだ。妙子は陰で診断書を破り捨て冗談じゃないと怒る。彼女は、芸者をしていてひかされたが、籍を入れてくれる訳でも、2号のようにお手当を毎月貰える訳でもなく、無給の女中を20年近くさせられてきた。転がり込む遺産のことで我慢してきたのに、この生活が何十年と続くと考えると冗談ではない。
   焼き肉を食べて、八代が眠ったのを見て、ガス栓を開いておいて、1階のばあやに風呂を焚くと言って元栓を開けさせた。ばあやはかなり耄碌しており、主人の顔を忘れるほどだ。風呂に入りながら、様子を窺う妙子。しかし、白タクの運転手で、妙子のかっての客だった片倉(伊藤雄之助)が、車の月賦の無心をしようと家に忍び込んできたことで、間一髪八代は助かる。片倉は、ガス漏れに不審を抱き、妙子にカマをかけ、警察に話に行くと脅して、白状させる。しかし、金と八代の眼球だけが欲しいだけの片倉は、矢島殺しの片棒を担ぐ。妙子と片倉は、殺し屋の秋ちゃん(片山明彦)に手伝ってもらうことにする。色々考えを巡らすがうまく行かない。
   そこに妙子の娘の眸(岡田茉莉子)がやってくる。眸は義父の八代に、今後一切縁を切るので、百万くれと頼むが、八代の方が一枚上手で、ちゃんと結婚して届けを持ってきたら、お祝いとして百万をあげるとはぐらかされる。眸の百万は、ヌードダンサーをしている友人の美美(岸田今日子)に車の代金を払わなければならないのだ。もう待てないと言われて、ピストルを渡される。眸は、自分で手を下そうと、八代の寝室に忍び込むと、ベッドにナイフを突き立てる影がある。灯りを点けると八代の甥の慎二郎だ。彼は、死の直前の母親から船員だった叔父の八代が、南米で成功した父親の全財産であるダイアモンドを横取りするために、ヨーロッパで狩猟時の事故を装って父親を殺したのだという告白を聞いていた。その口止めのために、母親を自分の女にした非道な男の八代に復讐するのだと言う。協力するという眸。二人は、バイクで都内の街を走り、キスをする。
    八代と妙子は、片倉の運転する車で山道を走っている。浅間にある別荘に向かっているのだ。 3人の乗る車を、バイクの集団が追い抜いていく。その中に慎二郎と眸の姿を見つけて驚く八代と妙子。別荘に着くと、バイクの若者たちが庭を占拠している。あまりの騒がしさに、八代は、裏山続きの気象観測所に泊まらせて貰おうとするが、教授からは学生たちが多く物置しか空いていないと言われる。それでも騒がしい自分の別荘よりはいいと言って移る。しかし途中、別荘の防空壕に入り缶詰などの裏側にある隠し扉を開け、宝石箱を入れ替えている。
   夜になり、眸に促されて慎二郎は八代にナイフを向ける。八代は、母親の話を、有名な小説の話で、自分は、全財産を慎二郎に譲るつもりでいるのだと言い、慎二郎は説得され戻ってくる。小説の話かどうか、明日図書館に確かめにいくのだと言い出す慎二郎に呆れる眸。八代のもとに、殺し屋の秋ちゃんが現れる。八代の殺しを頼まれたが、あまりにギャラが安いので、情報を教えるので金をくれと言う。依頼人は妙子で、八代を怒らせて心臓発作を装って殺そうとしているのだと言うと、まさに妙子と片倉がやってくる。八代のベッドの陰に隠れる秋ちゃん。片倉に脅され貞操の危機にあると訴える妙子。真実を知っている八代は、妙子と片倉がどう話そうが、全く動じない。
   翌日、山を下りて図書館で、八代に担がれたことを知って怒る慎二郎。自分の言ったとおりだと言う眸。山に戻る二人。秋ちゃんは、八代が財産をどこかに隠していることを知って、穴を掘っている。そこから出てきたのは、旧日本軍の不発弾だ。しかし秋ちゃんはこれが八代の隠した宝石箱だと信じて疑わない。開けようと金槌で叩いていると暴発、秋ちゃんは爆死、近くにいた慎二郎も巻き添えを食う。重症で唸っている慎二郎の前で、八代、妙子、眸、片倉が言い争いをしている。妙子の女の武器も、真実を知っている八代には通じない。妙子と眸は、掴みあいの大ゲンカをする。その最中、慎二郎は死ぬ。お前に全財産を譲るつもりだったと言い、天国に持って行けと言って、気象観測用の気球に宝石箱をつけ放す八代。片倉と眸は、漂う気球を追いかけていく。別荘に残った妙子と八代。八代は、あの宝石箱は偽物だと言う。妙子は、別荘の猟銃を取り出し、八代に突き付け、本物の宝石箱を取り立たせる。蓋を開けると、手元のものは偽物だった。八代の勘違いで本物を飛ばしてしまったのだ。殺せるものなら殺してみろという八代に、引き金を引く妙子。弾は当たらなかったが、八代は心臓発作を起こして倒れる。
  いつのまにやら気球を追って浅間山の火口に、片倉と眸は来ている。そこに妙子が現れ、八代は死んだという。気球は火口の入口に止まっている。もう疲れたから三人で山分けしようと言う片倉に同意するふりをして、片倉を突き落とす眸。眸と妙子はつかみ合いになるが、縺れ合ったまま火口に落ちていく。強い風が吹いて再び、浮き上がる風船。火口に、立ち上がった片倉らしい姿が見えるが、硫黄煙にかすんでよく見えない。

  岡田茉莉子の悪女がキュートだなあ。丸く大きな瞳をくりくり動かす表情は、本当にかわいい。

   59年松竹大船澁谷實監督『霧ある情事(628)』
   大きな屋敷、葬式の準備中だ。かなり沢山の花輪が届いている。浴室に室岡専治(加東大介)の姿がある。背中一面に立派な刺青が入っている。女中が警察からの電話を受け、若旦那が留置場に泊められていて、誰か引き取りに来てくれないかと仰有っていますと伝える。室岡は、今日は家内はる子の告別式だから、行けないと言う。そこに、室岡の2号の池内園子(岡田茉莉子)からの電話が入る。室岡が今日は忙しいと言うと、御焼香上げるつもりで出て来たと園子は言う。亡妻の前ではっきりさせて欲しい。別れる覚悟も出来ている。親族や社員たちの手前もあり今日は来ないでくれと言ってから、では息子の引き取りに警察署に行ってくれと頼む室岡。
   淀橋警察署員(佐野浅夫)は、あなたが浩一くんの叔母さんだと言うから敢えて言うが、三島組の常務さんの息子で、何一つ不自由していないのに、度々問題を起こすのは家庭に問題があるからではないかと、説教された上に、浩一(三上真一郎)からは、「叔母さんと言うから誰かと思ったら、お園さんか…。」と言われる園子。「お葬式にちゃんと参列してね」と伝言し、浩一と別れる。
  池内と言う表札の金の掛かった日本家屋に帰る園子。室岡に住まわせて貰っているのだ。留守番を頼んでいた近くの女子大生倉まみ江(芳村真理)に、小遣いを渡していると、告別式の済んだ室岡がやってくる。室岡に別れたいと切り出すが、愛しているから別れないと言われてしまう。尚も言い張っていると、何の技術もない園子は、一度贅沢を覚えてしまった以上生活していけないだろうと言われてしまう。言い返すことも出来ず、泣き崩れる園子。去年の夏、園子が看護婦をしている病院に、人間ドックで入ってきた室岡は、園子を見初め、園子も看護婦の厳しい毎日が嫌になって、妾になったのだ。室岡は、元沖仲士だったが、土建屋として今の地位を築いたのだ。
  園子は、室岡の秘書の森野聰(津川雅彦)が風邪を引いて休んでいると聞いて、下宿を訪ねる。今月分の手当てを森野を通じて渡されるが、気がつくと封筒には富子と書いてある。室岡に新しい女が出来たのだ。富子って誰?と森野を問い詰めると、銀座のグロリアと言うバーの女らしい。
   園子は、実家である三浦半島の三崎に出掛ける。父親から話があると連絡があったからだが、あいにく行き違いで東京に行ったと小僧の梅次(神山繁)に言われる。その頃、会社の役員室で仕事をしていた室岡に森野が来客ですと告げる。誰だと尋ねると園子の父親で、酒の臭いがすると言う。いないと言えと言うと既に応接に通してしまっていた。室岡は、園子の父、池内吾平(菅井一郎)と会う。「社長さん、いつも娘の園子がお世話になっています。」「私は社長ではない。常務だ。園子から身寄りはないと聞いていたんだが。」「園子は、母親が亡くなって以来寄り付きませんで…。」「言いだしにくかったんだろう。そのことはまあいい。で、ご用は?」「実は、呑み屋で?という店が近くにありまして…。これが?の手拭いで…。こっちがマッチです…まあ、そこの女将から内容証明が送られて参りやして…。」「金が欲しいのか?」「まあ、早い話しが…。頂くと言うんではごさいやせん。お借りねがえねえかて言う訳で…。」「不肖、室岡専治、ゆすりたかりの類いに金は出さん!!これは汽車賃だ。帰ってくれ!!」と2、3枚の紙幣を投げ捨てる。室岡の剣幕に、すごすごと帰る吾平。
   森野がついてくる。会社のビルを出たところで、お昼を如何ですかと声を掛ける。蕎麦屋で吾平が、ビールを飲み、ご機嫌で話している。食べ終わったのを見て、自分の手のつけていない丼を吾平の前に押しやる森野。「お父さんはお困りなんですよね。よろしかった僕がお貸しします。」
   翌日、森野が園子の家を訪ねると、家の前にリヤカーが停めてあり、倉まみ江が玄関近くの部屋に荷物を運んでいた。「君は誰だ。」「居候させてもらうことになったまみ江よ。お姉さん?出掛けたわ。」

室岡浩一(三上真一郎)池内吾平(菅井一郎)倉まみ江トミ子(京塚昌子)梅次きん(桜むつ子)


  神保町シアターで、日本文芸散歩

  39年東宝東京並木鏡太郎監督『樋口一葉(629)』
   雨の中歩く女の足元、樋口一葉(山田五十鈴)は、半井桃水[なからいとうすい](高田稔)のもとに、桃水主宰の雑誌「武蔵野」の原稿を届けるところだった。桃水の門前で、女流同人の野々宮さく子(渋谷正子)が立っていて、桃水は留守だと言う。原稿だけ預けて来たら、待っているからと野々宮。頷いて、一葉は門をくぐる。桃水はいた。気の進まない客は、婆やに居留守を使わせると言って、一葉がやって来る時は、いつも雨なのでお待ちしていたと桃水。一葉の才能を誉め、もっと多くの人間に会うことが文学を深めることに繋がると、尾崎紅葉を紹介したいと言う。一葉は、士族であった父親を亡くしてから、母と妹の生活を背負っていた。桃水は生活費を貸してくれていた。いつまでも出て来ない桃水を探しに、野々宮が入って来る。親しげに話す二人の姿を目撃する野々宮。
   帰りに煙草の辰巳屋で母親のために煙草の葉を買い求める。辰巳屋の録之助(佐山亮)は、幼なじみのせき子(宮川照子)と想い合っていた。中島歌子(英百合子)の歌会で一緒になるので、手紙を預かる一葉。
    しかし、一葉が少し遅れて出席すると、中島が風邪で流会だと言う。寝付いていた中島は、一葉と桃水が夫婦同然だと言う噂が、自分の顔に泥を塗ったも同然だと非難し、一葉の弁解に耳を傾けようとしない。その時、せき子が父親に連れられ中島を訪ねて来た。同人の娘たちは、せき子が玉の輿に乗るらしいと噂をしている。桃水との悪質な噂に傷付いて帰宅する一葉。
  一葉が帰宅すると、妹のくに子(堤真佐子)が母親(水町庸子)に言われ質屋の伊勢屋に出かけるところだった。母は、許婚であった渋谷三郎が新潟の検事として出世をしたが、足許を見て多額の持参金を求めて来たので破談になったと言う。一葉は、許婚がいたという話は初めて聞いたので、どうでもいい。質屋に行くのであれば、亡父の残した掛軸があったと思うので、それも出してほしい、そのお金を元にして、商売を始めると言う。
  一葉は、荒物屋を始めた。荒物卸の田島屋に仕入れに出掛け、番頭(深見泰三)に、ちり紙と箒と履物を頼む。番頭は、店を開いた場所が下谷竜泉寺町と聞いて、吉原の近くで男冥利につきる場所だ、好き合った男と商売を始めるのですかと言うので、一葉は顔を曇らす。ふと見ると、自分の文章が載った文芸誌が置いてある。思わず手を取ると、番頭は、それはうちの若旦那の趣味だと言う。若旦那の石之助(北沢彪)がやってきて、興味があるなら上げようと言う。石之助は、帳場から売上金を借りるぞと言って、金を掴んで行く。止めようとした番頭と揉み合っている。

  樋口一葉の頃は、可憐だった山田五十鈴が、悪女の季節では、百戦錬磨の芸者上がりの手練手管。昭和14年から33年までの日本の変遷だ(笑)。冗談はさておき、樋口一葉は、改めてちゃんと読もうと思う。


   71年近代映協/松竹吉村公三郎監督『甘い秘密(630)』
   逗子に住む小説家稲村(小沢栄太郎)のもとに、小説家志望の松川葉子(佐藤友美)が、夫(入江洋佑)と、北海道からやってきた。梢葉子の名前で書いたかなりの分量の原稿「流れるままに」を読んで、小説家になれるか感想を聞かせて欲しいと言う。「大変な情熱ですね。どうも僕はこういう原稿をご紹介できる程顔が広くないんです。お預かりしてもいいんですが、暇な時にゆっくり読んでおく。」と答えると、二人は帰って行った。稲村の妻(丹阿弥谷津子)「綺麗な方ですのね」「北海道の奥さんらしい。牧場をやっているらしい。一緒にいたのが旦那だよ」と答える。
   稲村の家を出た葉子は、夫に、戻ってちゃんと意見を聞いて来てくれと言う。海岸で寝ている葉子の下に戻った夫は、「先生は誉めて下さったよ。」「ほんと?」「本当だよ。実感が出ていると言ってくれたよ。葉子、北海道に帰ろうよ。」「分かったわ。」
白樺の林をスーツケースを下げた葉子が歩いている。乗り込んだバスの行き先は、札幌ターミナルとなっている。
   稲村の書斎、「こんなもの預かってしまって困っているんだよ。君一つ読んでくれないか。ぶつけるような情熱はあるんだが…。」そこに家内が入って来る。「この間の、梢さんがお見えです。」「先生、先日は有難うございました。」「紹介しよう。こちらは雄文堂と言う出版社の専務で一色くん。こちらが話した梢葉子くん。北海道から来たの?御主人は?」「私離婚してきましたの・・・。」一色(伊丹十三)は、美しい葉子に興味を持ったようで、原稿を読みたいと言って預かると、葉子と一緒に、稲村の家を後にする。稲村と家内は、「どうやら、一色くんは、あの梢葉子に関心があるようだ。」「確か、一色さん奥様を亡くされたんでしたわね。」

  新藤兼人にしては珍しく、葉子が何故あそこまで小説家になって自活することに執着するのかなど書かれていない。吉村公三郎が関心なく、切り取ってしまったのかもしれない。しかしそんなことは関係ないほど、小悪魔佐藤友美は魅力的だ。男を虜にして破滅させていくが、そこに、葉子は自覚的である訳ではなく、自分の気持ちに忠実なだけである。ひょっとすると、葉子に翻弄される稲村の姿は、佐藤友美の虜になっている吉村公三郎なのかもしれない。

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