57年歌舞伎座五所平之助監督『挽歌(583)』
さいはての國、北海道…。兵藤玲子(久我美子)歩いて来る。
…(NA)もう春だと言うのに、冷たい風が吹く。私の左肘が痛む。私は幼い時にひどい関節炎を患って、左手が不自由になった。左手と一緒に私は心もかたわになってしまったのかもしれない…。兵藤家の表札。窓の外を見ながら煙草をくゆらす玲子。…私はさっき丘の上で出会った男のことを思い出していた…。
男(森雅之)が、娘と犬を連れて散歩している。すれ違った玲子が犬を撫でようとすると咬み付いてしまう。「ネリは、人を咬むような犬じゃないんですが…」「私も犬は好きですが、咬まれたのは初めてです。」男は誤りながら、ハンカチで傷跡を結わえる。男の名前は桂木節雄、娘は久美子と言った。
桂木を思い出していると婆や(浦辺粂子)が、あらあらそんな汚い布で結わえておくとよくありませんと言って包帯を巻く。「お腹がすいちゃった何かない?」「戸棚に牡丹餅があります」「お母さんのお墓参りに行ったの?」「このうちで、お墓参りに行く人は誰もいないので、私がお参りして、ご先祖様に、お坊ちゃまの大学合格と、お嬢さまの左手がよくなるようにとお祈りして参りました」「婆やの口癖ね」
左手が不自由なことで甘やかされて育った屈折した美少女役を久我美子が好演。彼女の行動に振り回され困った顔をしながら誠実な大人の男であろうとする森雅之も渋くかっこいい。若い娘に持てることも含めてああいう中年でありたいが、全く正反対な自分、哀しいなあ自分。
池袋新文芸坐で、映画に輝く“天下の美女”山本富士子。
61年大映東京市川崑監督『黒い十人の女(584)』
夜、坂道を風の妻の双葉が登っている。停められた車の運転席に女優の石ノ下市子(岸恵子)。しばらくすると、双葉の後ろを、風が勤めるテレビ局VTVの、CMガールの四村塩(中村玉緒)演出部の後藤五夜子(岸田今日子)風邪を引きやすいので受付から事務に変わった虫子(宇野良子)受付嬢の七重(村井千恵子)エレベーター嬢八代(有明マスミ)衣裳係の櫛子(紺野ユカ)広報課の十糸子(倉田マユミ)が後をつける。双葉も気が付いて走って逃げるが、空地で取り囲まれる。そこに、市子の車がやってきて、ヘッドライトで照らし出す。
私たちを騙したのねと詰め寄る7人に、「あたくしのものを、あたくしが取り戻しただけよ」と答える双葉の頬を打つ市子。涙を浮かべて「風さんは、この女と芝居をうったのよ。私は女優よ、女優があんな芝居に騙されるなんて・・・。悔しいわ。一番いい役をあなたが持って行って・・・。」「本妻の特権よ・・・。」「結局あなたが、風さんを一人占めしたのね。」廃屋に残っていたシャワーの栓を捻ると水が降り注ぐ、市子と双葉の髪が濡れる。8人の女たちを見下ろすアート社三輪子(宮城まり子)。誰にもその姿は見えず、声も聞こえないようだ。「騙されて、殺されたのは私です。私は10番目の女です・・・。」
市子の部屋、ベッドに風松吉(船越英二)が眠っている。起きるなり、ああ打合せだと身支度を始める。「あなたは、いつも忙しいのね。」「いや君が大事な話があるというから遅い時間でも来たじゃないか。」「私、女優を辞めようと思って・・・。」「そういう大事な話は別の時にしよう・・。僕の顔を見て。君は孫劇じゃベテランじゃないか。演技派女優じゃ一番だという声も多い。勿体ないじゃないか。」身支度を終え、そそくさで出て行こうとして、「八幡さんの流れる星の本番今日だったよね。あっ、君はビデオだったか・・・。じゃあ、また。」市子取り残される。溜息をついて、ウォークインクローゼットの戸を開け、「出ていらっしゃい。疲れたから直ぐに帰ってね」と声を掛ける。三輪子と五夜子が疲れた顔で出てくる。「何時かしら、9時。4時に隠れたから5時間もいたのね。」と五夜子。「すみません、御不浄を貸して下さい。」と三輪
局の廊下で、風に四村塩(中村玉緒)が話している。「私、会社を辞めてもいいんです。日陰の女でもいいんです。風さんには家庭が大事だと思うんです。安らぐことが出来る家庭が・・・。」
そんな君を束縛するようなことを僕は望んでいないよと言って風は去る。四村塩はモヤモヤした気持ちのまま、局の食堂でカレーライスを頼む。食堂は時代劇の格好をした役者や局員たちでいっぱいだ。そこに三輪子と五夜子がやってくる。三輪子は納品する台本を持って、担当の局員の前に積み上げて、「お席に置こうかと思ったのですが、前みたいに無くなったりすると困るので」と声を掛ける。塩は、三輪子の足を引っ掛ける。躓いた三輪子は、腕を怪我している五夜子に思いっ切り飛びついてしまった。
鬼の形相で、塩の前に立ち、ここでは人目があるから、ちょっと来て頂戴と言う三輪子。裏の空き地で、三輪子と五夜子が待っていると、塩は、虫子、七重、八代、櫛子、十糸子を連れてきた。三輪子が、「卑怯ね、助っ人を連れてくるなんて」と言うと「違うわよ!!風さんの関係者に集まって貰った方がいいと思って」と塩。こんなにいたのかと呆れ顔の三輪子。
風さんと別れなさいよと言う三輪子に飛びかかり、上になり下になり取っ組み合いの喧嘩をしていると、「人が来たわ。」と五夜子。他の女たちは地面に転がる二人を隠す。「こんなところ人に見られたら、またどんな噂されるかわからないわ」と言う声に、三輪子と塩も喧嘩を止め、「風さんがみんなに優しいからいけないんだわ」「みんなが一斉に手を引けば、平気なのに、誰かに優しくするから、気になってしょうがないんだわ」「あなたの髪ぐちゃぐちゃにしちゃったわね」「結髪さんに行って、何とかしてもらうわ」
髪を直して貰った塩がアナウンサー控え室に行くと、若手男性アナウンサーの花巻(伊丹十三)が原稿を読んでいた。
演出部の後藤五夜子(岸田今日子)風邪を引きやすいので受付から事務に変わった虫子(宇野良子)受付嬢の七重(村井千恵子)エレベーター嬢八代(有明マスミ)衣裳係の櫛子(紺野ユカ)広報課の十糸子(倉田マユミ)アート社三輪子(宮城まり子)。
山本富士子VS岸恵子の女優対決も切れ味最高だが、「女の勲章」で上品だが計算高い京女とは対照的にも見える、女を武器にマスコミを泳いでゆく東京のコマーシャルガール(生コマーシャル出演者と言うか番組アシスタントと言うようなもんだろうか)で、可愛いがしたたかな娘役は東京弁でも京都弁でも真骨頂な中村玉緒と、テキパキした男勝りのTVプロデューサー役の岸田今日子は、我々が思い込んでちる現在の女優イメージというものが、全く当てにならないことを思い知られる。
しかし1から十までみな、男に一杯食わせる女たちの役を、とても楽しんでいるような大人の女子高な雰囲気は小気味良い。
百瀬桃子(森山加代子)本町芸能局長(永井智雄)野上(大辻司郎)花巻(伊丹一三)若山(佐山俊二)メーキャップ係(中山弘子)局員(志保京助、夏木章)
58年大映衣笠貞之助監督『白鷺(585)』
明治40年代、浜町河岸の料亭辰巳屋が破産した。債権者たちが集まっている。辰巳屋の娘お篠(山本富士子)は、奥座敷で身の回りの物に、去年亡くなった伊達白鷺画伯が、お篠の為に描いてくれた「春近し」と言う掛け軸だけは持って家を出た。辰巳の主人の所に、両国で相撲茶屋杉之戸を営む兄の巽弥平(上田吉二郎)と息子の予吉(高松英雄)が、お篠を嫁に欲しいと言いに来ている。その話はなかったことにしてくれと言う巽喜平(見明凡太郎)に鼻白む良吉。喜平の後妻おさい(小夜福子)まだ小さい弟の芳雄(武内聖二)妹お年(小泉朋子)がいる。
おしのは、かって辰巳屋の女中だったおとり(賀原夏子)の茶屋“砂子”に行き、女中として使って貰うことになった。乳母日傘で育ち、何も知らなかったが、必死で働くお篠。
ある日、伊達白鷺画伯の追善法要の作品展に津川作造(信欣三)から声を掛けられ出席したお篠は、従兄の予吉にしつこく絡まれているところを、伊達白鷺の弟子の稲木順一(川崎敬三)に助けられる。
順一は弟の孝(入江洋佑)と、追善法要展の成功を白鷺の未亡人の伊達類子(三宅邦子)と一人娘の七重(野添ひとみ)に報告に行く。七重は病身で寝付いていたが、順一を慕っており、白鷺も今和の際に、七重を宜しくと言い残していた。
船大尽五坂熊次郎(佐野周二)秀子(清川玉枝)
沖田巡査(小沢栄太郎)
和歌吉(角梨枝子)
禅坊主(高村英一)
水月
日本三大悲恋泉鏡花
文展
桂木を思い出していると婆や(浦辺粂子)が、
左手が不自由なことで甘やかされて育った屈折した美少女役を久我美子が好演。彼女の行動に振り回され困った顔をしながら誠実な大人の男であろうとする森雅之も渋くかっこいい。若い娘に持てることも含めてああいう中年でありたいが、全く正反対な自分、哀しいなあ自分。
池袋新文芸坐で、映画に輝く“天下の美女”山本富士子。
61年大映東京市川崑監督『黒い十人の女(584)』
夜、坂道を風の妻の双葉が登っている。
私たちを騙したのねと詰め寄る7人に、「あたくしのものを、あたくしが取り戻しただけよ」と答える双葉の頬を打つ市子。涙を浮かべて「風さんは、この女と芝居をうったのよ。私は女優よ、女優があんな芝居に騙されるなんて・・・。悔しいわ。一番いい役をあなたが持って行って・・・。」「本妻の特権よ・・・。」「結局あなたが、風さんを一人占めしたのね。」廃屋に残っていたシャワーの栓を捻ると水が降り注ぐ、市子と双葉の髪が濡れる。8人の女たちを見下ろすアート社三輪子(宮城まり子)。誰にもその姿は見えず、声も聞こえないようだ。「騙されて、殺されたのは私です。私は10番目の女です・・・。」
市子の部屋、ベッドに風松吉(船越英二)が眠っている。起きるなり、ああ打合せだと身支度を始める。「あなたは、いつも忙しいのね。」「いや君が大事な話があるというから遅い時間でも来たじゃないか。」「私、女優を辞めようと思って・・・。」「そういう大事な話は別の時にしよう・・。僕の顔を見て。君は孫劇じゃベテランじゃないか。演技派女優じゃ一番だという声も多い。勿体ないじゃないか。」身支度を終え、そそくさで出て行こうとして、「八幡さんの流れる星の本番今日だったよね。あっ、君はビデオだったか・・・。じゃあ、また。」市子取り残される。溜息をついて、ウォークインクローゼットの戸を開け、「出ていらっしゃい。疲れたから直ぐに帰ってね」と声を掛ける。三輪子と五夜子が疲れた顔で出てくる。「何時かしら、9時。4時に隠れたから5時間もいたのね。」と五夜子。「すみません、御不浄を貸して下さい。」と三輪
局の廊下で、風に四村塩(中村玉緒)が話している。「私、会社を辞めてもいいんです。日陰の女でもいいんです。風さんには家庭が大事だと思うんです。安らぐことが出来る家庭が・・・。」
そんな君を束縛するようなことを僕は望んでいないよと言って風は去る。四村塩はモヤモヤした気持ちのまま、局の食堂でカレーライスを頼む。食堂は時代劇の格好をした役者や局員たちでいっぱいだ。そこに三輪子と五夜子がやってくる。三輪子は納品する台本を持って、担当の局員の前に積み上げて、「お席に置こうかと思ったのですが、前みたいに無くなったりすると困るので」と声を掛ける。塩は、三輪子の足を引っ掛ける。躓いた三輪子は、腕を怪我している五夜子に思いっ切り飛びついてしまった。
鬼の形相で、塩の前に立ち、ここでは人目があるから、ちょっと来て頂戴と言う三輪子。裏の空き地で、三輪子と五夜子が待っていると、塩は、虫子、七重、八代、櫛子、十糸子を連れてきた。三輪子が、「卑怯ね、助っ人を連れてくるなんて」と言うと「違うわよ!!風さんの関係者に集まって貰った方がいいと思って」と塩。こんなにいたのかと呆れ顔の三輪子。
風さんと別れなさいよと言う三輪子に飛びかかり、上になり下になり取っ組み合いの喧嘩をしていると、「人が来たわ。」と五夜子。他の女たちは地面に転がる二人を隠す。「こんなところ人に見られたら、またどんな噂されるかわからないわ」と言う声に、三輪子と塩も喧嘩を止め、「風さんがみんなに優しいからいけないんだわ」「みんなが一斉に手を引けば、平気なのに、誰かに優しくするから、気になってしょうがないんだわ」「あなたの髪ぐちゃぐちゃにしちゃったわね」「結髪さんに行って、何とかしてもらうわ」
髪を直して貰った塩がアナウンサー控え室に行くと、若手男性アナウンサーの花巻(伊丹十三)が原稿を読んでいた。
演出部の後藤五夜子(岸田今日子)風邪を引きやすいので受付から事務に変わった虫子(宇野良子)受付嬢の七重(村井千恵子)エレベーター嬢八代(有明マスミ)衣裳係の櫛子(紺野ユカ)広報課の十糸子(倉田マユミ)アート社三輪子(宮城まり子)。
山本富士子VS岸恵子の女優対決も切れ味最高だが、「女の勲章」で上品だが計算高い京女とは対照的にも見える、女を武器にマスコミを泳いでゆく東京のコマーシャルガール(生コマーシャル出演者と言うか番組アシスタントと言うようなもんだろうか)で、可愛いがしたたかな娘役は東京弁でも京都弁でも真骨頂な中村玉緒と、テキパキした男勝りのTVプロデューサー役の岸田今日子は、我々が思い込んでちる現在の女優イメージというものが、全く当てにならないことを思い知られる。
しかし1から十までみな、男に一杯食わせる女たちの役を、とても楽しんでいるような大人の女子高な雰囲気は小気味良い。
百瀬桃子(森山加代子)本町芸能局長(永井智雄)野上(大辻司郎)花巻(
58年大映衣笠貞之助監督『白鷺(585)』
明治40年代、浜町河岸の料亭辰巳屋が破産した。
おしのは、かって辰巳屋の女中だったおとり(賀原夏子)の茶屋“
ある日、伊達白鷺画伯の追善法要の作品展に津川作造(信欣三)
順一は弟の孝(入江洋佑)と、
船大尽五坂熊次郎(佐野周二)秀子(清川玉枝)
沖田巡査(小沢栄太郎)
和歌吉(角梨枝子)
禅坊主(高村英一)
水月
日本三大悲恋泉鏡花
文展
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