2009年9月25日金曜日

金曜日の渋谷の街

     学校は、1年のスキルアップ講座2コマ。年明けに実施する企画の内容の詰め。

     シネマヴェーラ渋谷で、妄執、異形の人々Ⅳ
     72年行動社/ATG 増村保造監督『音楽(548)』
精神科医の汐見和順(細川俊之)のもとに弓河麗子(黒沢のり子)と言う女がやってきた。食欲はなく、吐き気がするので、産婦人科に行ったが、そのような兆候はないと言われ、内科に廻されたが分からず、精神科に来たと言う。
    頻繁なまばたきを繰り返す麗子を一目診て、これはチックと言う症状で、食欲不振、吐き気は、ヒステリーの典型的な症状だと言う。麗子は、更に自分は音楽が聴こえないのだと言う。ラジオでもテレビでも、人の会話などは聴こえるが、音楽になると全く聴こえないのだと言う。汐見が、近くにあったラジオのスイッチを入れ、激しいジャズが流れるチャンネルに合わせたが、何も聴こえないと答える麗子。
    汐見が妊娠の心当たりがあるのかと尋ねると、1年前から同じ貿易会社に勤める江上隆一(森次浩司)と交際していると言う。交際して2ヶ月で、肉体関係を持ったと聞いて、早いですねと汐見。その前に、男性関係があったのかと聞くと、自分は17代も続いた旧家の生まれで、少女時代から親が決めた許婚、俊二がいて、高校生のときに俊二(三谷昇)に無理矢理奪われたのだと告白した。その男から逃れるために東京の女子大に進学し、卒業、今の会社に入社、江上と知り合ったのだと言う。結婚したいと強く思っているが、その婚約者とのことを告白出来ずにいるんですと言う麗子。汐見は、精神分析治療を続けようと言って、週に一度通院するように命ずる。看護婦の明美(藤田みどり)は、診察料6000円、精神分析料5000円、合わせて11000円ですと言う。麗子が帰った後、明美はいけ好かない患者だと言って、先生はあの女が美人だから気があるんでしょうと決め付けた。
    翌週予約の日、麗子は病院に電話をしてくる。更に症状が酷くなって、通院出来ないと言う。先生私を診察したいと言うので、ぜひ診察して、君を治したいんだと熱く言う汐見。じゃあ、なんとか行きますと答える麗子。明美が、馬鹿に低姿勢ね・・。惚れてるんだわと言う。馬鹿なことを言うな、あの患者は自分のプライドを満足させたいだけなんだと汐見。
    ようやくやってきた麗子は、先週酷い嘘を言ったせいで、よりひどくなってしまったんです。音楽が聞こえないというのは嘘なんです。感じないんです。セックスに感じないんです。恋人の江上さんは、たくましく、結構女性関係もあったようでセックスがうまいんです、でも私は感じない、「君は、僕が嫌いか?じゃあ、何で感じないんだ?!楽しまないんだ?!」と言われ、感じているふりをしてもばれてしまうんです。つまり不感症なんです。
   では、一つ自由空想療法
という治療法を試してみましょうと汐見。目を閉じて、心に浮かんだことを何でも話してみてください。
   ・・・・古い大きな屋敷がある。私の許婚だった俊ちゃんの家です。まだ子供の私は家にずんずん入って行く。俊ちゃんがお蔵の中に面白いものがあるという。私が逃げ出すと男の子たちが集まってきて私は捕まえられた。鋏をもった俊ちゃんが、みんなでジャンケンをして負けた子のあそこを切ってしまおうという。一人だけ女の子の自分はジャンケンに負ける。みんなにパンツを脱がされる。俊ちゃんが、「何だ、もうない。とっくに負けて切られているんだ」と言って、私は泣いた。はさみちゃん。はさみちゃんで何を切ろう。赤い紙、黄色い紙、青い紙・・・青い紙をザクザク切って行くと青い空を切っている私。空に出来た裂け目を覗くと、向こうから大きく恐ろしい牛がやってくる。牛の角は男のシンボル、ペニスです・・・。女学生に成長した私は、機械油を使って、鋏を磨いている。磨いているうちに、自分の足が、巨大な鋏に変わっている。美しい伯母(森秋子)が、とてもいい匂いのする外国製の、鋏を磨く油をくれた。私は、鋏に変わった自分の足を一生懸命磨いている。私は伯母と一緒に、山の中の旅館に出掛ける。夜、黒い服を着た若い男が忍んで来て、伯母を抱いた・・・。
   汐見が、あなたの話は、嘘が多いという。数日後、麗子の婚約者の江上が、汐見の元にやってくる。あんたか汐見という男は、診察と言って麗子の身体を弄んでいる悪徳医師は!!と怒り、殴りかからんばかりの勢いだ。いや、そんなことはしていないと汐見が答えると、証拠はあると言って、麗子の日記を取り出した。そこには、自分には感じない麗子が、汐見の治療中の愛撫によって、強い快楽を感じたことが赤裸々に書かれている。看護婦の明美が、「あんたこそ、騙されている。あの嘘つき女!!!うちの先生は、そんなことは絶対しない」と言い放ち、ようやく江上も落ち着いた。君は麗子さんの不感症を治したいと思うかと汐見が尋ねると、麗子を愛しているので何とか治したいんだと江上。
   次の治療の際、なんであんな嘘を江上くんに言ったんだ。君は、江上くんを嫉妬させて楽しんでいるんだろう。いえ、江上さんを失いたくないんです。しばらくやりとりがあり、汐見は二枚の絵を見せた。一枚は牛の角が鋏になっているもの、もう一枚は女の足が鋏になっているもの。「あなたの話の中に何度も鋏が登場する。牛の角は男性性器、女性の足は良心を暗示している。あなたは、近親者、父親と特別な性的な関係はありませんでしたか?」「父は5歳の時に亡くなりました。」「じゃあ、お兄さんはいませんか?」麗子は、ショックを受けたようだが、肯き話し始めた。
   私が中学1年の夏、私が昼寝をしていると(石川啄木作品集という本を読んでいて寝てしまったようだ)、高校生だった兄(高橋長英)が横にやってきて、「麗子、動くなよ」と言って、下着の中に手を入れてきた。そして私の中に指が入ってきて、私は女として初めての快感を得ました・・・。」「その後は・・。」「それきりでしたが、次の年、大学に落ちて浪人となった兄は、山奥の旅館で勉強をしていました。私と伯母が近くの旅館に泊っていると、夜黒いシャツと黒いズボンを履いた男が忍んできました。その男は兄でした。兄と伯母のセックスを見てしまった私は、ショックでした。夫がいた伯母と兄の関係は、田舎のことなので、街の噂になりました。兄は翌年も大学に落ちてしまい、家出をして、行方不明になってしまいました・・・。実は、江上さんと兄は似ているんです。最初夏の日に、会社の外で、江上さんと待ち合わせた時、黒いシャツと黒いズボンで現れたんです。兄にそっくりな江上さんを好きになりました。その後、江上さんに、初めて連れ込み旅館に誘われた時に、私はあの、中学1年の時の快感の続きを味わえると思ったら、とてもドキドキしました。しかし、それは、全く裏切れたんです・・。そうだわ、江上さんは兄に似ているから好きになっただけだわ。」
   麗子は思い込みが激しい女だ。更に賢くもあるので、汐見が何度そんなに簡単ではないと言っても、すぐに自分で結論を導いて決めつけてしまう。今回も、許婚だった俊二が入院していて、余命幾許もないので、一目会いたいという手紙が来たので、病院に行って、献身的に看病をし始めた。江上が、病院を訪ねると、自分は逞しい江上ではなく、この痩せ細って死にかけの男がいいのだと言う。この男の死にかけの匂いは、再び自分に音楽が聞こえるのだと言う。しかし、麗子にとって幸せな期間は長くはなかった。俊二は死に泣い取り縋る鬼気迫る表情の麗子。
    麗子は絶望して旅に出る。海岸に、黒いシャツ、黒いズボンの男(松川勉)を見つける。自殺を感じているその男に、俊二と同じ匂いを感ずる麗子。男は、花井と言い、小説家志望で不能だった。小説もモノにならず、男としても不能なのは、絶望だと自殺をしに、この海に来ていたのだ。麗子の気分は高揚し、不能な花井と不感症の自分で旅をしようと言う。二人裸になって、何もせずに眠るのだといい、そのことは麗子を興奮させた。音楽を聞こえさせた。しかし、砂浜に掘った穴に男を埋め停る自分を大きな鋏が襲ってくる悪夢に魘されて目が覚めた麗子は、触ろうとする花井を罵倒し、腕に噛みつく。その事は花井に男を蘇らせ、花井は麗子を抱く。しかし、不能でなくなった花井に、麗子は死にかけの男の匂いを嗅ぐことはできない。
   前以上に酷い症状になった麗子が、江上のアパートにやってきた。首にグリグリが出来て、呼吸もままならないと言う麗子に、慌てて汐見に電話をする江上。江上が麗子を病院に連れてくる。精神分析室で、汐見と麗子は再び自由空想療法を始める。10歳位だろうか子供時代の麗子は、父親と一緒にお風呂に入っている。父親の男性自身を見つめ、鋏で切ってやろうと思う麗子。しかし、麗子の父親は5歳の時に亡くなっているのだから、それは父親ではない、ひょっとして、お兄さんとその後何かがあったんじゃないかと指摘する汐見。麗子は思い詰めた表情で真実を語り出した。
  5年前女子大に入ってしばらくした頃、寮にいた麗子を兄が訪ねて来たのだと言う。兄はかなりやさぐれた印象に変わっていたが、それ以来何度となく、恋人同士のようにデートをした。ある日、麗子は兄の暮らしている部屋に行ってみたいと言う。麗子が来るようなところではないと言ったが、麗子に折れて案内する兄。
     場末にあるアパートの狭い一部屋だ。部屋の中にストッキングが干されている。兄は、飲み屋で働く女のヒモだった。兄はウイスキーを飲み始める、麗子は兄の情婦が気になり自分もくれといい、ぐいぐお呑み始める。すると、情婦(森秋子)が帰ってくる。既に酔っている女は、急に生理になり接客する気分にならないので帰ってきたと言い、自分が仕事の間に女など連れ込んでいい身分だと言う。これは、実の妹だと言っても全く信じない


   好きな日本映画を10本挙げろと言われたら、微妙に入らないが、30本挙げろと言われたら、一番多い監督は増村保造かもしれない。50本と言われたら確実だ20本以上入るかもしれない。大映倒産後に、自分たちで行動社を立ち上げて作った"インディーズ"第1作。本当は、シネスコで撮りたかったろうなとか、ひょっとして、プロデューサーの藤井さんありきの企画で無理したんじゃないかとか、余計なことを考えてしまう。
   黒沢のり子は、東宝専属と表記があるが、葛井欣士郎「遺言」によれば、まだ16歳位だったらしい。自分の中では、リアルタイムでは、この映画と4年後の田中登監督の「人妻集団暴行致死事件」で室田日出男の妻役しか記憶がないので、何か、観るたびに印象は違うが、精神的に病んでいる役で、ちゃんと裸でも勝負する女優という気になる人だった。

   松濤サロンで、後輩Kから、林家たい平師匠のミニ落語会があると誘われていたので、出向く。生徒たちに、生落語デビューしないかと言うと、笑点のオレンジの人ですよねと中々反応は良かったが、今時の若者に、今日の今日の夜付き合わないかといっても無理だった。

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