2009年9月5日土曜日

66年から81年までの間に、川口小枝に何があったのか。

    ラピュタ阿佐ヶ谷で、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第48弾】星由里子
     67年東京映画豊田四郎監督『千曲川絶唱(508)』
    ある夜、新潟運送の定期便のトラックが新潟支社にやってきた。運転手の五所川原肇(北大路欣也)と服部勇次郎(田中邦衛)が降りてきて、水道に走り、気持ちよさそうに頭から水をかぶる。
近くの食堂に駆け込み、肇はレコードを掛け、女たちと騒ぐ。
    翌日、二人は帰路、柏崎の診療所に寄る。服部の妹の美子(いしだ・あゆみ)が脊髄カリエスで入院しているのだ。担当医の岩倉(平幹二朗)に、妹の病状を尋ねる服部。この病気は、本人の生きたい気持ちが大事なのに、美子にはそこが欠けていると岩倉。そういえば、同僚が歯茎から血が出ると言うので、診てやって貰えないかと服部。美人看護婦が気になっていた肇を、呼び無理矢理岩倉に診て貰う服部。口内を診て、胸を打つと痛いと言う箇所があると言う肇に、血液と尿の採取する。
お前も意外に根性ないなと言う服部に、あんな別嬪の前で小便採れと言われてもと肇。
    富山に戻る。新潟と富山との間の日本海に沿った道路は道幅も狭く、整備も遅れていて、神経を消耗する。ようやく富山の支社まで帰ると、今日は給料日だ。前借りばかりで、ほとんど入っていない服部の給料袋。肇は、他人の残業を何でも受けるのはいいが、身体を壊すなよと所長(若宮忠三郎)に注意をされる。
   服部と肇が帰宅する。肇は、服部の家の二階に間借りしているのだ。「勇次郎かい?早かったね。」と服部の母親の久枝(都家かつ江)。料理屋の女中をしている久枝は、今日は早番だから出掛けるよと声を掛ける。美子の見舞いに行って来たけれど、たまには母さんだって、顔見に行ってくれと服部。あいつの病気だって、母さんがどっかの男の所に行って帰らない時に、風邪をこじらせたことが原因じゃないかと怒る服部。煩い子だねえと白粉を顔にはたく久枝。
   岩倉が、所長の所に肇の検査結果を持って行く。「確かに白血病の可能性が高いね、広島にいたのかい」「北海道の礼文島で生まれ育って、広島長崎には行っていないと言うんです」「大変珍しいケースのようだね」所長と岩倉は、少し興奮しているようだ。岩倉は看護婦の浮田奈美(星由里子)を呼び、肇の白血球の顕微鏡写真のスライドを見せ、彼は白血病だ。半年、もって一年かもしれない、この事実は僕と君と所長の三人しか知らない。本人にも言わない方がいいだろう。しかし、直ぐにでも精密検査をしなければならない、幸い彼は君に好意を抱いているようだ、彼をこの病院に連れて来るよう頑張って貰えないかと頭を下げる。看護婦としての職業的な使命感に強く頷く奈美。
  初恋の詩を読む美子と奈美。私はお兄ちゃんが好き、お兄ちゃんに毎日ラブレターを出すのと言う美子に、では、手紙にお兄ちゃんの友達を連れて来てと書いてと頼む奈美。
   服部が、手紙を持って、肇の部屋にやってくる。ちくしょう!美子からの手紙に、あの看護婦が五所川原さんに一目惚れしたので、必ず連れてきて下さいと書いてあるぞと言う。飛び起きて、小躍りして喜ぶ肇。さっそく、新潟行きの定期便を志願する。ヘアドライアーのプレゼントを買った肇。しかし診療所に行くと、待っていたのは、医師の岩倉だ。奈美は実習でいないと言う。採血だけでなく、脊髄液まで採取される。帰りの運転席で、ざまあみろと言う服部に、あいつら、俺をモルモット扱いしやがってと怒りまくる肇。
    数週間が経った。非番で肇は布団で、金を数えている。かなり貯まっている。そこに久枝が上がって来る。慌てて身体で隠す肇。浮田奈美さんって別嬪があんたを訪ねて来たと言う。浮田奈美?と心当たりのない肇に、美子の診療所の人だよと言う。思わず躍り上がる肇。大金を見つけ、少し私におくれと言われ、冗談じゃないと言う肇。
     玄関に降りてきて、上がれよと肇が言うと、話があるので、外で待っていますと頑な奈美。

      武満徹の映画音楽
     64年松竹大船篠田正浩監督『乾いた花(509)』
    上野駅から国電に乗り換え、横浜に向かう情景(池部良Na東京か、三年振りだ…眩暈がするような空気だ…、殺しで三年・・・)横浜橋商店街。霊柩車が橋を渡って来る。(また誰かが死んだのか…。ここは俺のシマだ。躊躇いながらも、ここに戻った…何も変わっちゃいねえ、ここも、あそこも…)
   村木(池部良)が、三年の刑期を終え、帰ってきた。対抗する安岡組の?を殺ったのだ。賭場に顔を出す。弟分の玉木(中原功二)が「兄貴!!…いつ?」「今朝よ…」「親分には」「事務所に寄って来た…」「長い間、ご苦労様でした」盆茣蓙の客に目をやる村木。若い一人の娘(加賀まりこ)が、派手に賭けている。勝ち続けている女。村木も加わる。村木が入ってから、流れが変わる。「だいぶやられましたね、兄貴。あの娘の損をみんな兄貴が被った感じじゃないですか…」「あの女は、長いのか?」「5、6回っていう感じでしょうか。」「誰が連れてきたんだ?」「」それが分からねえんで…。気がついたら座っていたという感じです。いい女でしょう。組の若い連中が気にしています。
    村木は、古田時計店の閉まったドアを叩く。一階の店に寝かされている新子(原知佐子)が誰?と戸を開ける。新子とは3年振りだ。あんた?いつ?いつ?と抱き付いてきた新子の口をキスで塞ぎ、荒々しく押し倒す村木。「変わらねえなあ、このウチも」「抵当に入っているのよ、父さんは倒れて、二階で寝たきり、商売は兄さんがやるようになって少し持ち直したけれど…」「ここで寝させられるようになったのはいつって言っていたか…」「15の時だった。血が繋がっていないとは言え、あの男に無理矢理…。あいつは、父親なんかじゃなくて、ケダモノよ、豚よ!!母さんだって知っていた筈なのに…。あんな男死んじゃえばいいのよ…。」「俺たちが初めて会ったのは、暗い映画館の中だった。」

   京橋フィルムセンターで、特集・逝ける映画人を偲んで2007-2008
   72年日活村川透監督『哀愁のサーキット(510)』
   富士スピードウェイに、レーサーの滝田和郎(峰岸隆之介→徹)がやってくる。テスト走行をする滝田。なかなかいいラップを出している。無人のスタンドに、黒い帽子とマキシコートの女(木山桂)がいる。滝田がピットクルーに、ありゃ誰だい?と尋ねると、男は、今売り出し中の歌手榊ナオミらしいですよ。なんでもグラビアの撮影が入っているって聞いたから。ふーんと関心のなさそうな滝田。マネージャーが榊?を迎えに来る。キャニオンレコードのマークの入った社用車で、サーキットを後にする。
富士山の見える海岸に、車を止め、笑いながら走り回る滝田。コッヘルでコーヒーを入れ飲んでいると、榊ナオミが海に向かい何かを投げている。滝田が近づいて見ると、彼女のピット曲「鳥がにげたわ」のシングル盤だ。

     銀座シネパトスで、
   「日本映画レトロスペクティブ-PART3-」~愛と性、体制と権力 大島渚 闘いの歴史~
   67年創造社/松竹大島渚監督『無理心中日本の夏(511)』
    ネジ子(桜井啓子)が、公衆便所を覗くと、掃除をしている。直ぐ済むから使わせてくれない?と尋ねても反応はない。更に白い上下の男たちが、壁の落書きを白く塗り潰し始める。諦めてネジ子は、橋にパンティを脱いで投げる。泳いでいる男が「落としましたよー」と声を掛ける。いらないから捨てたのとネジ子。次々に子供たちが泳いでくる。日の丸を掲げて泳ぐ子供もいる。もうこのまま小便をしようかとネジ子が思うと、橋の向こうから軍楽隊が行進してくる。その後ろには黒い詰め襟姿の学生たちが、更にその後ろから日の丸を振り、鉢巻きをした老若男女がやって来る。

   66年創造社/松竹大島渚監督『白昼の通り魔(512)』
    高級住宅、女中の篠原シノ(川口小枝)が洗濯をしていると、同郷の小山田英助(佐藤慶)が包丁を持って押し入ってきた。英助は、シノの首を絞めて強姦するだけでなく、家の夫人を強姦殺人して逃げた。今各地で犯行を重ねる白昼の通り魔の犯行だろうと警察は言う。家の主人(観世栄夫)は、取り乱す。シノは刑事(渡辺文雄)に、冷静に状況を説明するが、犯人が同郷の英助であることは明かさなかった。その代わり、英助の妻で郷里の村の神無中学で教師をしている松子(小山明 子)には、真実を記した手紙を出す。    
   かって神無村では、村長の息子の日向源治(戸浦六宏)と中学教師の倉松子が中心になって村の若者たちが共同農場を経営していた。しかしある年台風で、豚や鶏が全滅、 また鶏舎が流されたことで、他の村民の田圃が4町歩駄目になり、共同農場は続けられなくなった。英助は農地がない水呑百姓で、他の村民の農作業を手伝って 生計を立て、共同農場も出資出来ないため豚や鶏の糞尿の始末などを進んでやっていた。共同体の集まりで、松子は、恋愛とは無償の行為だと教えている。かって、英助 やシノは彼女の教え子で、自由、人権、人類愛などを教えていた。
  シノの父親(小松方正)は、田が駄目になってから、働きもせず酒ばかり呑み、 娘に注意されると一家心中すると言いだすが、祖母に毒薬だと頓服を出されると真っ先に逃げ出す情け無い男だ。シノは源治にニジマスの養殖とホップ栽培の元 手の借金30万を申し込む。源治はシノを愛していると言って承諾し、関係を持つ。狭い村で2人の関係はたちまち知れ渡った。源治は村会議員選挙に出馬することに なった。一生が見通せてしまったようで源治は厭世的になる。シノに愛し合っているのだから一緒に死んでくれと言い、裏山で2人は首を吊る。源治は死んだ が、シノは英助によって助けられる。しかし、意識のないシノを、源治の死体の下で、英治は犯すのだ。
   シノは何度も松子に手紙を出す。英助の妻であり共同体の指導者であった松子にどうするか判断してもらおうと思ったのだ。しかし、松子からの返事は来ない。いつの間にやらシノは刑事と一緒に通り魔の被害者に会うよう になっていた。しかしある時、シノ→英助→先生という三角の表を刑事に見咎められる。
     修学旅行の引率で大阪にいる松子の前に現れたシノ。東京に向かう新幹線の中でも現れるシノ。答えを求めるシノのまっすぐな目に、ついに東京駅で、松子は、教師としての立場を捨て、生徒たちを置き去りに走り出す。追いかける シノ。銀座の真中で倒れた松子を介抱するシノ。
    裁判で、30数名を手に掛けた英助は、シノとの出来事がその後の犯行の引き金になったと証言する。英助の 判決の日。二人は汽車に乗っていた。駅弁を勧めるシノだが、松子は手をつけない。松子の分の釜めしをシノは食べる。二人は郷里の村に戻り、英助に死刑判決 が出たことが有線放送で流されているのを聞きながら、源治の心中の現場を訪れ自殺を図る。しかし、しばらくしてシノは、毒を吐いて生き残る。松子は死んで いる。また生き残ってしまったと呟きながら、松子の死体を背負って山を降りるシノ。
   昨年11月に観た際の感想は、「気高く美しい女教師松子は、田舎の村社会に、新しい自由と正義を普及させたが、教え子だったシノと英助の生命力の前には無力だ。この無力さは、自分の無力さでもある。悲しいなあ。」と書いていたが、今回の印象は、村の唯一のエリートの源治と、唯一の知識層である松子の尊大さへの嫌悪だ。それは、勿論自己嫌悪でもある。

   谷崎×エロス×アウ゛ァンギャルド 美の改革者 武智鉄二全集
   81年武智プロ/富士映画武智鉄二監督『白日夢(513)』
   歯科の診察室、男児と老人が診察台に座っている。いくつになっても、虫歯を削る機械の金属音は嫌なものだ。倉橋順吉(勝然武美)が受付に、診察券と保険証を出す。待合室に座っていると和装の美しい女が入ってきた。葉室千枝子(愛染恭子)だ。受付の女(川口小枝)の表情に、気のせいか赤みが差す。倉橋と葉室が次々に中に呼ばれる。ドクトル(佐藤慶)は、葉室の口を乱暴に捏ね回している。更に麻酔ガスを吸わせ、着物の胸を緩めさせる。倉橋には、歯を確かめ抜歯しましょうと言って、麻酔を注射される。徐々に意識が遠くなりながら、倉橋は、隣の診察台に気を取られている。ドクトルは、看護婦二人(川口小枝ともう一人)の胸を揉みしだく。

   歯医者のシーンまでは、最初の脚本と基本的には一緒だ。しかし、本番映画として佐藤慶と愛染の絡みが長い、長い。基本的に、体位も変わらないので、AVを見なれた今の人々には、よく言うと凄くネットリしているというか、悪く言うと、抱き合ってモゾモゾ、クネクネしているだけで変化がない。更に当時の映倫対策に、二人の腰のあたりに、かなり大きめに、ワイプで、別のアングルからの愛染の顔や、二人の絡み、あるいは、二人が能面を被って、舞うというより、扇子を動かすだけなのだが、こんなもの今の人が見たら、芸術的な効果を狙った演出だと思うだろうな。
   全般にエロス大作というよりも、オカルト映画のようだ。1964年版のほうが、まだ映画として成立している感想だ。しかし、こんな映画に平然と出演、熱演する佐藤慶は凄い役者だ。
   

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