2009年8月24日月曜日

復讐するは我にありとは、神の仕打ちを受けるということなのか。

   午前中は、赤坂のメンタルクリニック。

   池袋新文芸坐で、世界/戦争/歴史 そして追悼の八月

   83年東映/今村プロダクション今村昌平監督『楢山節考(484)』
   信州の雪深い山中に、小さな集落がある。そこに辰平(緒形拳)と70近いの老母おりん(坂本スミ子)、弟の利助(左とん平)、息子のけさ吉(倉崎青児)、とめ吉(嶋守薫)と娘のユキで暮らしている。辰平の妻タケやんは、ユキを産んですぐ、栗を拾いに出かけて崖から落ちて死んでしまった。庭に大きな切り株があるので、根っこと呼ばれている一家だ。狭い田と畑しかない貧しいこの集落では、余所に売ることの出来ない男の子が生まれると水子として間引き、年老いた者は、裏の楢山さまに姥捨てすることが日常であった。辰平の父親の利平は、母親を捨てることが出来ずに、村を遁走した。けさ吉は、働きもせず、歌って遊んでばかりいる。集落一番の子沢山の 雨屋の一家の長女の松やん(高田順子)を抱く。利助は、ほんとは間引かれるところだったが、生き残ってしまった。村では、次男、三男は穀潰しで、奴と呼ばれ、結婚することも女を抱くことも出来ない。せいぜい後家がいれば夜這いを掛けるが、利助は臭いと皆から嫌われてクサレと呼ばれ、新屋敷の飼い犬のシロに夜這いを掛けて紛らわせている。 おりんは今でも畑仕事も家事をこなし健康で、歯も丈夫だ。辰平は、村の者が、りんの歯は33本もあり鬼の歯だと歌っているのを聞いて怒鳴り込むが、息子のけさ吉が歌って広めていることを知って憤る。
   春が来て、雪解けの田に水子が捨ててあるのを利助が見つける。隣の嫁が腹ボテだったのを思い出し、欽やん(江藤漢)仁作(常田富士夫)の元に怒鳴り込む。二人は、老母のおかね(清川虹子)が病に伏せっているので、白はぎ様(白米)を炊いている。おかねは、うちの水子は10日前にちゃんと墓に埋めたという。なかやんの家の嫁も腹ボテだったと仁作から聞き、利助が行ってみると奴の常(小林稔侍)が認める。
   ある日、塩屋(三木のり平)がりんを訪ねてきて、隣村で昨日夫を亡くした玉と言う後家がおり、百日を過ぎたら辰平の後妻にどうか と言って来た。辰平は今更嫁はいらないと言い、けさ吉はそんだら自分が嫁を貰いてえと言うが、りんはこれで思い残すことはないと大乗り気だ。ただ、裏の山で、利平を見たという。
   おかね(清川虹子)がもう駄目だと言う。おかねは、りんに病気で死ぬのは恥ずかしい、楢山様に登って死にたいと言った。欽やんが、次棺桶を作る順番は根っこのところだと言う。辰平と利助、けさ吉が棺桶を担いでいくと、おかねが現れて腰を抜かす。白はぎ様を食ったら、元気になったと言う。
  祭りの日に、隣の村から竹やん(あき竹城)が一人でやってきた。兄と来る筈だったが、祭りで酔っ払って寝てしまったという。塩屋が根っこの姑はとってもいい人だと言ったと言う。朝から歩いてきた竹やんに、お祭りにしか炊かない白はぎ様を丼に山盛りにし、自分が捕ったヤマメを食べさせ、辰平を呼んで来ると言う。りんは、大きく丈夫そうな身体をして、明るい性格の竹を一目見て気に入った。納屋に入って、石臼に歯を打ちつける。2本しか折れなかった。血だらけの口を濯いでいるところに、出くわした利助に、恐ろしい顔で、このことは誰にも言っては駄目だと言って、抜けた2本の歯を渡し、祭りの場所に辰平を迎えに行く。りんの血だらけの口元を見て、村人たちは、鬼婆だと囃し立てるが、りんの表情は変わらない。
  辰平と竹が求めあっている。前よりもいいと言う竹に、おれも前よりもいいと言う辰平。それを覗いて自涜していた利助は堪らなくなって、新屋敷の飼い犬シロに夜這いに走る。その時、新屋敷の親父(ケーシー高峰)が嫁のおえい(倍賞三津子)が今わの際にした遺言を聞いてしまう。新屋敷家は、娘の夜這いに怒った先代が、奴を殴り殺してから呪われていると言う。自分が亡くなった後は、村の奴たちの相手をしてやって、殺された奴の霊を慰めて欲しいと言い残す。その話を聞いて利助は、村の奴たちに、その話をする。
  秋が来て、けさ吉が妊娠した松を連れてきた。腹が出てきた松は食欲旺盛だ。更に、夜になって、根っこの保存食のじゃが芋と玉蜀黍を盗んで、実家の雨屋に持って行く。その帰りを待ち伏せた辰平は、松を捕まえ、井戸に落そうとする。しかし、松のお腹には、自分の孫がいる。なんとか思い止まって、二度とやるなと言う辰平。しかし、数日後の夜、村の長の照やん(殿山泰司)の楢山さまに謝るぞという声が響きわたる。雨屋(横山あきお)が、食料を盗んでいたことが露見したのだ。雨屋の女房(志村幸江)をはじめ沢山の家族が集められ、雨屋の家が調べられる。盗まれた沢山の隠匿物が暴かれ、村人に分配される。雨屋は、先代も同じ罪を犯していたので、雨屋の血脈を絶たないと安心して眠れないということになった。りんは、松に、今晩は雨屋は食べるものもないだろうと言って、じゃが芋を持って家に帰るように言う。じゃが芋を焼いた松が弟や妹、父母に配って、食事を始めた時に、村人が襲いかかり、雨屋の一家を網で捕らえ、村の外れに掘った穴に投げ捨て、生き埋めにする。けさ吉は、りんによって、松と自分の子供が殺されたと罵る。
  おえいは、毎夜、一人ずつ奴を呼びに行き、一夜を過ごした。利助は、西の老奴の勝造(小沢昭一)から順に呼びに来るおえいに、今夜は自分の番だと思ったが、抜かされてしまう。荒れ狂い、田圃で実った稲を引き抜き暴れる利助。更に、根っこの唯一の財産とも言える農耕馬の春松に、お前まで俺を馬鹿にするのかと八つ当たりする始末だ。
  りんは、おえいの元に行って頭を下げるが、おえいは、くされだけは勘弁してくれないかと言う。夫の遺言に反するのではないかと言うりんに、墓参りして、そのことを相談したら巨大な黒い蝶が現れたので、承諾してくれたのだと言うおえいに言葉を失うおりん。
  辰平は、利助に一晩だけだぞと約束をさせ、竹に相手をさせようと考える。春松より、妻の貞操のほうが、明らかに安いのだ。竹は納得できないままに承諾する。りんは、おえいにその話に乗っては駄目だぞと言って、おかねのもとに出かけて、何とか利助を男にしてやってくれないかと頭を下げるのだった。おかねは、私は鼻が効かないのでクサレは気にならないが、随分と長い間使っていないので、使えるもんだろうかと心配するのだった。
  冬が近づいてきた。りんは、竹に、明日お山に行くので、辰平に行って、お山に行った人たちを呼んでくれと言う。辰平の父親の利平の姿を見たと言われ、りんは走る。そこにいたのは辰平だった。辰平は、かって、山に猟に行った時に、祖母を楢山さまに連れて行きたくないと言う利助と親子喧嘩をし、この場所で射殺して、このあたりに埋めたのだと告白する。お前のせいではない、楢山さまが全てやったことだ、今日以降誰にも言うのではないと言うりん。部屋を掃除し、準備をする根っこの家族。銭屋の又やん(辰巳柳太郎)が逃げてくる。息子の忠やん(深水三章)が縛っておいた縄を切って逃げて来たのだ。80歳を超えてまだ死にたくないと駄々をこねる又を諭すりん。根っこの家に照やん(殿山泰司)たちがやってきた。楢山さまに登る時の心得を順番に語るのだ。「楢山さまに行くときは、口を聞いてはいけない。」「家を出る時に人に見られて行けない。」・・・・・「帰る時には、絶対振り返ってはいけない。帰りがけに、照やんは、お山に登るのがつらければ、途中で捨ててきてもいいことになっていると言う。
  いよいよ、辰平はりんを背負って家を出る。竹は、家の前で、黙って見送る。一方、利平の部屋
を合図するものがいる。おえい婆さんだ。楢山への道は、道なき道だ。途中、急な崖で辰平は、足の親指を割ってしまう。りんは黙って布を裂いて辰平に渡すのだ。急な山を登り続ける辰平。いつしか、岩場に大量の人骨が散乱する一角に到着する。白い人骨と黒いカラスの群れが対照的な恐ろしい光景だ。りんは、辰平に降ろすように合図をし、握り飯を持って帰るように示した。
   辰平は降りはじめる。途中、忠やんが網で身動きできないようにした又やんを崖に突き落とす光景を目撃する。カラスの大群が飛び立ち、その鳴き声が谷底にこだまする。雪が降ってきた。お山に登った時に、雪が降ってくるのは、おりんの行いが良かったせいだ。辰平は、村に伝わる歌の通り雪が降り出したことで嬉しくなり、再び山に駆け登り、おりんに「おっかあ、歌の通り雪が降ってきたなあ」と声を掛ける。おりんは、肯いてもう帰れと合図をした。
   雪の中、辰平は家路を急ぐ。寒い中帰ってきた辰平を、竹は優しく迎える。けさ吉は、早くも新しく妊娠させた娘を今日から住まわせると言う。その娘が来ているドテラはりんのものだ。また竹が締めている帯もりんがしていたものだ。

   木下恵介版を見てからの印象は、今までとは少し異なる。映画館で一回、テレビ、レンタルビデオで数回見ている今村版。カンヌ・パルムドールで、今村昌平の代表作と思っていたが、少し物足りなさを感じてしまう。田中絹代VS坂本スミ子、高橋貞二VS緒形拳、木下恵介VS今村昌平ということでもない。今村昌平の最高傑作とは言えないんではないかという気持ちが、どこかから浮かんできてしまう。少し考えたい。改めて書きたい。
  
   79年松竹/今村プロダクション今村昌平監督『復讐するは我にあり(485)
   昭和39年1月4日、雪の山道を下って行くパトカーと警察車両。78日間に渡る逃亡生活の末逮捕された連続強盗殺人犯の榎津巌(緒形拳)を挟んで河井警部(フランキー堺)と吉野警視(浜田寅彦)が後部座席に座っている。榎津は何か歌を歌っている。榎津が吉野に年を尋ね、55歳だと聞くと、私は死刑判決だろうから、刑務所で3年ほど暮らして40歳前に死ぬのだろうと言う。留置場は冷えてるじゃろな、どかーんと冷えてるじゃろなと呟く榎津。浜松警察署に車が着くと、マスコミと野次馬で大混乱している。
   昭和38年11月福岡県築橋市、日豊本線の築橋駅近くの大根畑で、専売公社のタバコの集金人の柴田種次郎(殿山泰司)の惨殺死体が見つかり、また近くの山中で、同運転手の馬場大八(垂水悟郎)の刺殺死体が見つかった。前日作業着姿の榎津が自転車で急いでいる。自転車を止めると、向かうから来る専売公社の黄色いトラックに手を挙げて停める。助手席に乗っていた柴田が、おお榎津じゃないかと言って、運転手を本当の名前は馬場だが、みんな西部大八と呼ぶんじゃと紹介する。
   残りのタバコ屋二軒の集金が終わったところで、近くに濁酒を飲ませてくれる友人がいると騙して案内し、頭を金鎚で殴打、更に心臓を千枚通しで突き刺して殺し、集金の金を奪う。駅の近くの金物屋で出刃包丁を買ってから、トラックに戻り、馬場に柴田が酔っ払ってしまったので迎えに行くと言って、山の方に向かわせる。そして、馬場が不信に思ったところで、命乞いをする馬場を無慈悲に刺殺したのだ。血の付いた作業着から着替えて、逃走用に奪った金で、ラジオを買った。公衆電話から、バーマリに電話をして ママの畑千代子(絵沢萌子)を呼ぶが、留守だった。家に戻り、奪った金を数える榎津。翌日、日豊本線に乗り、築橋駅近くの線路脇の犯行現場を警官たちが現場検証をしているのを窺う榎津。
    刑事たちは、直ぐにかって専売公社のタバコ配達の運転手をしており柴田と顔見知りであった榎津巌を氏名手配をする。柴田殺人の凶器の千枚通しは、バーのマダムをしていた畑千代子(絵沢萌子)が別れ話をした際に出した物だと断定した。榎津の足取りは呉から別府行きの呉別連絡船に乗り、瀬戸内海で偽装自殺をして消えた。その際に残した遺書は、ストリッパーの吉里幸子(白川和子)に宛てたものだった。別府には、巌の両親の鎮雄(三國連太郎)かよ(ミヤコ蝶々)夫妻と、巌の嫁の加津子(倍賞美津子)と娘二人が、五島荘と言う温泉宿を営んでいた。榎津家はかって五島列島で網元を営む敬虔なクリスチャンだった。しかし、戦時中に、船舶の供出命令が、クリスチャンだけ不公平に厳しく、主計中尉(小野進也)に鎮雄が異議を申し立てたところ、島民たちの面前で殴られ服従を強いられた。その時、少年であった巌は、父親の姿に不信感を抱き、グレ始め、何度か少年院に入れられることになる。海軍からの補償金で、鎮雄たちは別府で旅館業を始めた。
   戦後、巌は、不良米国人たちと、進駐軍の ジープを盗み放蕩三昧。福岡の農村部に買い出しに来ていた大村加津子を強姦したのだ。妊娠3ヵ月になり、結婚を約束していた巌を尋ねて別府を訪ねた加津子に巌は、今日は鎮雄が五島から連れてきたクリスチャンの娘との見合いだと言う。認めないと言った鎮雄だったが、加津子が妊娠していると聞いて承諾する。しかし、結婚して直ぐに巌は詐欺を働いて福岡刑務所に収監された。加津子は離婚し、二人の幼い娘を連れ、愛媛の赤川温泉で働いていた。そこに鎮雄が現れ、二人の孫と嫁が可哀想だから、別府に戻ってくれと土下座をする。相当な決意で、榎津家を出た加津子だったが、舅の為に戻ることを決意する。その夜露天風呂に鎮雄が入っていると、加津子が現れ背中を流すと言う。お互いをいたわりあいながら舅と嫁は、一線を越えそうになるが、鎮雄は何とか信仰の力で欲望を抑える。
   別府に戻ったある日、寡婦同然の嫁を憐れんだ鎮雄は、駅の助役の安田(金内喜久夫)に相談する。安田は、強引に加津子を押し倒す。激しく抵抗する加津子だったが、鎮雄も了解している話だと言われ、「お義父さん…」と呟いて、安田を受け入れる。
    出所した巌は、父親と妻の間にある微妙な空気に感づき、加津子が鎮雄と関係したのではないかと疑い、責め立てた。加津子は、安田との一度だけの関係を告白する。安田から5万円を強請りとった巌は、安田から鎮雄が了解していた節があることと、加津子がお義父さんと呟いて安田を受け入れたことを知る。鎮雄は、否定し、鉈を持ち出して罪深い自分を殺せと言うが、加津子が必死に止める。二人に悪態をつきながら、姿を消したのだ。
    犯行後、巌の姿は、岡山で目撃され、広島で8万円の詐欺を働いた。そして、浜松に現れ、タクシーの運転手に静かで目立たず、女の子を呼べる宿を紹介してくれと言って、あさのと言う旅館に宿泊する。あさのは、女将の浅野ハル(小川真由美)が、出池茂美(北村和夫)と言う繊維業の社長に出して貰った宿だった。そこに、榎津は、京大の教授で、静岡大学に出張してきていると言って上がった。ハルの母親のひさ乃(清川虹子)は、風邪を引いていると言うが、どうやら客の閨を覗く趣味があるらしい。そんな話を聞きながら、ステッキ嬢(売春婦)の岡啓子(根岸とし江)と、その夜幾度となく関係をする。

吉武順一郎(火野正平)出池茂美(北村和夫)ステッキ嬢岡啓子(根岸とし江)被告人の母(菅井きん)相川保護司(阿部寿美子)保釈金10万円弁護士川島共平(加藤嘉)助役安田(金内喜久夫)

  うぅっ、ずっと今村昌平の作品の中で、ベストではないと思っていたが、やっぱり凄い。1960年代に入って、日本映画がどんどん厳しくなり、映画業界人の泥縄が全て失敗していた頃だが、全てが駄目だったわけではない。ずっと、この映画は倍賞美津子だと思っていたが、今の自分には小川真由美だ。彼女の哀れが全てだ。 

  
渋谷O-EASTで はむつんサーブ。元会社の同僚、後輩ばかり。ライブは楽しめたが、先週の後輩の不幸を思い出すと、切なくなり、本編終わりで帰宅。

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