2009年6月4日木曜日

若尾文子の毒婦。毒婦を演じた女優は誰でもやられてしまう情けない私。

   午前中講義レジュメ作って本をチェックしているうちに読書に没頭。全くレジュメ作りは進展しないまま、午後イチの糖尿病経過観察に出なければ行けない時間に。慌てて大手町のクリニック。体重以外の数値はことごとく良く、薬も一錠飲めば良くなる。ただ、あんまり薬代が変わらない気がするのは何故か。一番廉価な方を残して貰いたかった(苦笑)。
    凄く遅い昼飯を食べ、お茶の水で、ちょっと人に会い、

    神保町シアターで、日本映画★近代文学全集
    66年大映京都増村保造監督『刺青(329)』
    どこか薄暗い二階の部屋、縛られ逃げようともがいているお艶(若尾文子)の姿がある。手に提げた行灯で照らし、俺はおめえを一目見た時に、百人に一人、いや万人に一人の白い肌の持ち主だと見抜き、どうしても彫りたかたったんだと言う刺青師清吉(山本学)。気絶薬を嗅がせ気を失わせると、一気に着物を脱がせ、お艶の白くきめ細かい背中を撫で、墨を摺り始める。下絵を描くや、素早く彫り始める清吉。気を失いながらも、苦痛に呻き声を上げるお艶。
    数日前の雪の夜、質屋の駿河屋に手代新助(長谷川明男)にお艶が声を潜めて話し掛ける。お艶はこの店の一人娘、両親には秘密に手代の新助と関係していた。両親の主人夫婦が親類宅に外出した今夜、他の使用人たちを早く休ませ、新助と駆け落ちをしようと決めていたのだ。大恩ある主人夫婦への忠義に悩み、止めようと尻込みする新助に、出入りの船宿の権次(須賀不二夫)と話は通じているのだから、何の心配もないと押し切った。雪の中、新大橋を渡りながら、躊躇う新助に、お前は主人の娘の私をはなから慰めものにするつもりだったんだね、大川に身を投げてやると脅し、お艶は新助との駆け落ちを遂げた。
    多情なお艶は、家では親の目に隠れての逢瀬から逃れ思う存分、食事も取らず眠りせずに終日何日も愛欲に耽った。船宿の主人権次との間では、駆け落ちした二人が一緒になれるよう駿河屋の主人夫婦に掛け合う約束だったが、権次は駿河屋に行くが、娘を誑かすとは飼い犬に手を咬まれたと一方的に新助を憎悪する主人と、そこまで思い詰めていたなら添い遂げさせてやりたいと言う母親から、とにかく二人を捜し出しましょうと懐柔し、探索の費用まで受け取って懐に入れる。
     権次は最初からお艶に目を付け、深川の人入れ屋と女郎屋を営む辰巳屋徳兵衛(内田朝雄)に売り飛ばすことにしていたのだ。権次の手下の三蔵に、料理屋川良に主人夫婦と新助の父親が来ていて、二人を許す算段をしていると偽って呼び出し、一足違いだったが駿河屋への婿入りが決まったので、もう心配いらないと前祝いにさんざんを飲ませた。酔った新助を三太(木村玄)に送らせたが、勿論帰りがけに三太に殺させ大川に流すつもりだった。しかし新助は死に物狂いで抵抗し、逆に三太を殺し、大川に突き落とした。一方、権次の妻お滝(藤原礼子)に勧められ、お艶は船宿の奥で開かれている賭場を覗く。賭場の貸元は、辰巳屋徳兵衛、賭場の片隅には暗い目をした刺青師清吉の姿もあった。いきなりお艶は、縛り上げられ、駕籠に乗せられ、辰巳屋に運ばれた。そして薄暗い二階で、清吉に背中に、男を食い尽くす女郎蜘蛛の刺青を彫られたのだ。無我夢中で逃げ出した新助は、在所の実家を訪ねる。父親は留守だった。母親(毛利菊枝)は、大恩ある駿河屋さんに何て罰当たりなことをしたのだと叱りながらも、父親が帰る前に早く行けと言って飯を食わせ着替えさせた。つらい表情で帰宅する父親(藤川準)の姿を陰から見つめ手を合わせる新助。
   二月の時が流れ、お艶は深川一の人気芸者染吉となっていた。辰巳屋徳兵衛からの借金はとうに返していたが、男たちを手練手管で騙して金を巻き上げ、面白おかしく生きる生活に浸り切っていた。ある日新助と再会する。下女ひとりと暮らしている蔦の屋に連れて行き、久しぶりに肌を合わせる。権次が、俺の妾になれと煩いので、妻のお滝をバラせばかなえてやると言うと、権次はお滝を殺った。そこに新助を連れお艶が現れる。権次が新助に襲い掛かるが、揉み合って、権次を殺す新助。二人も殺してしまったと悩む新助に、私たちがこんな目にあったのは権次のせいだから当然の報いだからくいい気味だとうそぶくお艶。新助に沖へ沈めろと指図した。その姿を覗いている清吉。自分が女郎蜘蛛を彫ったお艶の悪女ぶりに、震えながら、二度と刺青は止めると呟いた。この期に及んでもくよくよする新助が次第に疎ましくなるお艶。
    徳兵衛が現れ、染吉にぞっこんな旗本の芹沢相手に美人局で銭を稼がないかと誘いをかける。初めてのことではないと知って咎める新助に、手に入れた銭を持って、二人で上方に行き、面白おかしく暮らそうと言う。料理屋で、芹沢(佐藤慶)に会った染吉は、親の商いのつまづきで、身を売ったが、強欲な徳兵衛に、まだ百両の借金がある。その金を出してくれないかと持ちかける。
     芹沢は800石の旗本で、寺島村にもつ寮に、染吉は隠れた。芹沢は50両の切り餅二つを袂から出し、これで辰巳屋の借金返せるんだなと言う。そこにかねてよりの打合せ通り、徳兵衛が芹沢さま、大事な自分の持ち物をタダで横取りしようなんざ、訴え出てもようござんすよと脅したが、芹沢の方が一枚上手だった。旗本を美人局に引っ掛けようなんざ、無礼先晩と刀を抜くと、徳兵衛もドスを抜いた。しかし、相手にはならない。浅傷だが、刀と足を切られ、染吉に支えられ命からがら逃げ出した。染吉は、こんなに血が出ているなら家まで持たないとしきりに言い、いっそ一思いにと剃刀で斬りつけた。しかし、傷を負っていても徳兵衛には適わない。首を絞められているところに、ずっと見張っていた筈の新助が、棒切れを手に殴りつける。躊躇いながらの新助に、こいつのお陰で背中に女郎蜘蛛の刺青が入り、ここまで堕ちたのだと叱りつけ、ようやく徳兵衛を撲殺する。三人目を殺しちまったと腰を抜かす新助に、一人殺れば、五人も十人も同じだとうそぶく染吉。かっての駿河屋の小町娘は、稀代の毒婦だ。そこに清吉が現れる。やはり今度も一部始終を見ていたのだ。清吉に銭を渡し、誰だか判らないよう顔を潰して埋めておしまいと染吉。
     邪魔なものはいなくなった。しかし、新助は主人を裏切った罰が当たったのだと怯えきっている。下女のお花が、お座敷が掛かったと言う。誰からだろうと思いながらも、陰気な新助と一緒にいたくない染吉が出向くと芹沢だった。怯える染吉に、退屈した毎日に、寝首を掻かれるような女を妾にしたいのだと言い、百両を出した。徳兵衛は死なない程度に斬りつけたがどうしたと尋ねられ、医者に連れて行ったがその後は知らないと答える染吉。その夜芹沢に肌を許し、翌朝帰宅する染吉。新助は、眠れない一夜を過ごし、染吉を問い詰める。もうくよくよイジイジした新助には愛想を尽かしたと本心を吐露する染吉に、主人を裏切ったことが間違いの始まりだった、一緒に死んでくれと刃物を取り出す新助。思いつめた新助の表情に、上方に一緒に行こうとかその場しのぎの諫言を言うが、新助を宥めることはできなかった。揉み合ううちに、新助が持っていた刃物は新助の胸に突き刺さった。しかし、染吉の背中の女郎蜘蛛を刺す清吉の姿がある。自らの命も絶つ清吉。新助、お艶、清吉の三人の死体が転がっている。女郎蜘蛛の頭から血が流れ続ける。
   監督増村保造、脚本進藤兼人、撮影宮川一夫、毒婦若尾文子、文句の付けようがない。今まで何度見てもそう思っていたが、今回初めて物足りなさを感じたのは何故なのだろうか。

    もっと見るつもりだったが、何だかレジュメが気になって、帰ることに。ジュンク堂で本仕込んで、博華で餃子とビール。

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