2009年5月30日土曜日

女が本気出すと怖い。

   何だか、少し早く目が醒めたので、午前中から、
   神保町シアターで、日本映画★近代文学全集
   69年大映京都三隅研次監督『鬼の棲む館(316)』
   京と奈良に二人の帝がいて争っていた南北朝時代、京からかなり山深く入ったところにある荒れ寺に向かう女人がいる。荒れ寺の本堂前で声を掛け続けるが反応はない。庫裡に回り、更に声を出し続けると、髭と髪をぼうぼうと伸ばした大きな男(勝新太郎)が、着物を身にまといながら現れた。女人(高峰秀子)の顔を見るなり、なぜここが分かった?誰も知らない筈だと言う。女は、私はあなた様の妻ですから、去年の夏から、洛中、洛外を問わず探し回ったのですと答える。お前が嫌だから、家を捨てたのだ、直ぐに帰り、二度と現れるなと男は言った。男の名は、無明の太郎、妻の名は楓と言った。太郎は、かっては、丹波の国で、荘園領主の若殿だったが、守護からは年貢の取り立て、農民たちからは一揆の板挟み。嫌気がさして京の都に出ると女と出会って家も何もかも捨てたのだ。その後、父親は落胆して死に、一族郎党離散して、無明の家は無くなったのだ。あの女と一緒なのですか、あの女にあなたを返すように話をさせてくれと言う楓。男は断ったが、愛染(新珠三千代)が現れ、上に上がれと言う。いくらでも男はいるのだから妻のいる男を奪わず、返してくれと言う楓に、誰が好き好んで、こんな何もない山奥に太郎を奪って逃げてくるか。私を攫って、こんなところに連れて来たのは、あなたの夫だと愛染は答える。太郎は、戦乱で荒れた都は嫌だと言ったのはお前じゃないかと言うが、朝起きて、夜寝るまで太郎しか会わない暮らし、賑やかで贅沢が好きな自分は、ここの生活に辟易としているのだと言う。
    その時、南朝方の武将たち(五味龍太郎、木村元、伊達岳志・・・)が現れ、怪我の手当てをしつつ、この荒れ寺で一夜を過ごし、吉野に向かおうと決めた。本堂に入ろうと戸に手を掛けようとする間もなく、太郎が刀を抜いて飛び出し、十人程の侍たちに斬りつける。見事な太刀筋で、次々に斬って捨てる太郎。その光景を見ている楓と愛染。太郎が斬られたら、妻である自分も死ぬと言う楓を鼻で笑い、涙くらいは流すであろう、今日の太郎はとても魅力的だ、退屈が晴れ、飽きがきていたが、久し振りに燃えそうだと艶然とほほ笑む。太郎は、一人残らず斬り捨てて、血だらけで勝ち誇って笑う。太郎の血を拭おうと近寄る楓が押しのけ、愛染との寝間に入っていく太郎。血まみれなまま、愛染を抱く。その歓喜の声を聞きながら庭に立ち尽くす楓。
    半年が経ち、雪が降り注ぐ。薪が切れたと集めて来いと愛染が太郎に言う。太郎は、台所の竃で料理をする楓に、裏の林で薪を集めて来いと命ずる。しかし、楓は、「行きません。何で愛染の暖まるための薪を私が集めなければならないのです」と平然と答えた。空腹を訴える愛染の声に、妻ならば食事の支度をしろ、もう何も残っていない、干し芋、干し魚はどうした、みな私が食べましたと言うやりとりが交わされる。あの日以来楓は、この荒れ寺に住み着いたのだ。空腹と雪に閉じ込められた毎日への苛立ちを罵る愛染の声に、太郎は本堂に戻り、仏像を叩き斬り、火にくべ、今から京の街に走って、食料を奪って来ると宣言をする。恐ろしさに震える楓と、ようやく決意したかと喜ぶ愛染。山を一気に駆け降り、戦乱で逃げ惑う民衆や貴族たちを脅し、愛染のための着物を奪い、米を奪い、抵抗する者たちを斬捨てる鬼のような太郎の姿がある。
   3年ほど月日が流れ、寺を高野山で上人(佐藤慶)が寺を訪ねてくる。僧は、高野山一条院の住職である。楓は上人にすがり、罪深い夫の太郎を救って欲しいと拝む。上人が、持仏の観世音菩薩を持ち出し、経を読み始める。太郎は、黄金の菩薩像共に、上人を斬り捨てようとする。しかし、菩薩像から強い光が出て、太郎は吹き飛ばされる。驚き恐れる太郎。そこに、楓がこの寺に住む本当の鬼と呼ぶ愛染が現れる。お久しゅうございますと声を掛ける愛染。上人は、かって宮中に務める少将の君であった。愛染への愛欲に狂い、恋敵の藤原の中将を斬り捨てたのだ。そのことを恥じた少将の君は仏門に入ったのだ。
   愛染は、太郎に仇をうってやると囁き、上人を本堂に誘う。しきりと昔話をし妖しい視線を送る愛染。苦しい修行の末、色欲を断ち切った上人に、一杯だけと酒を飲ませ、もう一杯と勧め、手練手管を繰り出す。結果、上人は、愛染の手に落ち抱いた。事が済むと、愛染は全裸のまま本堂を出て上人に、観世音菩薩に勝ったのだと哄笑した。上人は、恥じて南無観世音菩薩と唱えながら、舌を噛んで死んだ。今わの際に、紫の雲が見えるとつぶやいて。愛染は、菩薩などいないのだ。自分が菩薩なのだと妖艶に笑う。しかし、南無観世音菩薩像の光を体感した太郎には、見えない力を信じざるを得ない。哄笑を続ける愛染を斬り捨てる太郎。上人と愛染を弔い、得度することを決意する。
  僧侶の姿となった太郎が荒れ寺に手を合わせ、旅に出る。その後を歩む楓の姿があった。

  新珠三千代が素晴らしい。エロスの権化のようだ。自分こそが、菩薩だと言う愛染の言葉はある意味真実だ。肉欲を克服するかできないかは、あくまでも男の自分自身の問題なのだが、鬼と言われて哀れな気もする。愛染との肉欲のために罪を犯したのは太郎と上人なのだがなあ。
    

    専門学校で体験入学の講師。

      70年大映京都池広一夫監督『おんな極悪帖(317)』
    祭りらしき場所で、因果応報の地獄極楽覗きカラクリが出ていて大層な賑わいである。三?藩下屋敷、節句の鯉のぼりが舞う晴天の下、藩主の首藤太守(岸田森)は哄笑しながら、家臣の首をハネる。その光景を眺める奥坊主珍斉(芦屋小雁)たちは震え上がっているが、太守は、御部屋様のお銀の方(安田道代)を寝間に連れ、昼日中から快楽に耽っている。そこに家臣が駆けてきて、上屋敷にくせ者が乱入し、奥方に斬りつけたが、何とか軽傷で済みはしたものの大至急お戻り下さいと、一大事を告げた。急ぎ支度をし、駕籠に乗り込む太守を見送ると、御部屋様は、侍女の梅野(小山明子)と、失敗したかと残念がった。お銀の方が産んだ嫡男照千代は二歳になるが、本妻に男児がご出生の場合、世継ぎの問題が起きかねない。早く奥方を始末しておきたいのだ。
   梅野はお梶の方に、想い人の磯貝伊織(田村正和)を、お目通りさせる。無足の低い身分だが、剣の腕が立ち、顔立ちのよい10歳も年下の伊織に惚れぬいていた梅野は、下屋敷の長屋に住まわせることの許しをお梶の方から得る。梅野にとって30歳を越えての初めての色恋。夜毎伊織に通うのであった。
   奥方暗殺に失敗した浪人赤座又十郎(遠藤辰男)が訪ねてくる。しくじっておいてよくもおめおめと顔を出せたものだと言うお銀の方に、かっては深川の櫓下の岡場所の不見転女郎から深川芸者、更に大名の側室に成り上がったお前のかってのお馴染みだった自分が四年振りに祭りで再会、奥方殺しを頼まれたが、昔のことも含め口止め料に千両よこせと強請りに掛かるが、梅乃に簡単に頸動脈を切られ絶命する。いよいよ、お梶の方と梅野は、奥医師の細井玄沢(小松方正)から毒薬を手に入れ、毒殺しようと決意する。
    夜更けに、黒頭巾をした身分の高い侍がお梶の部屋を訪れる。男は、江戸家老の春藤靭江(佐藤慶)だった。自分の女の深川芸者お梶を、太守に献上するころで江戸家老の座を得た人物だ。身体を求めるお梶の方を明日にしようと言いながらも、女好きな奥医師玄沢への嫉妬を口にする靭江。靭江を返して、玄沢を部屋に呼ぶ。玄沢も芸者時代のお梶を抱いた男の一人である。毒薬3包をご所望だが、靭江は自分が毒殺するので、奥方暗殺用の1包でいいだろうと手渡し、お梶の身体ににじり寄る玄沢。しかし、お梶が密かに酒に混ぜた自分の毒薬で玄沢は死ぬ。靭江が現れる。上屋敷に帰らず、お梶と玄沢のやりとりを盗み聞きしていたのだ。二人の悪巧み本気にしかけたぞと苦笑いする靭江。艶然と微笑むお梶の方。玄沢の死体を始末する梅野と伊織。

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