2009年1月28日水曜日

仙道敦子、夏目雅子、原田美枝子。女優誕生、しかし女優生命は余りに短く切ない。

   池袋新文芸坐で、仲代達矢・役者魂。66年松竹五社英雄監督『五匹の紳士(44)』。
公衆電話から警察に元町の電車庫に死体があると通報する男がいる。しかし、電車庫で行われていたのは、香港ルートの麻薬取引だ。4人組の男たちが、香港マフィアから三千万の金を奪う。そこにパトカーのサイレンが鳴り響き男たちは逃げおおせ、二年後の再会を期して別れる。
    府中刑務所での運動の時間、ある囚人が持っていた妻の写真を奪われ、からかわれた末破かれる。男は逆上し、ナイフを取り出しからかった男に切りかかる。1人の男が囚人服を切られても動じず、ナイフの男を取り押さえ、看守たちに引き渡した。それを見ていた松葉杖をついた男千石(平幹二郎)が男に「あと3、4日で、出所するのに、死んだら元も子もないだろう」と言う。雑居房に戻ってからも千石は笈田に話しかけてくるのを止めなかった。出所したら何をやるのか?と聞かれ、笈田は、自分が刑務所に入った経緯を話し始めた。
   笈田は、しがない車のセールスマンだったが、専務の娘の紀子との縁談が進み将来の希望が見えてきた。そこでバーの女と別れ話をしようと車を走らせていた。女はあなたには行きずりの女かもしれないが、随分と貢いで来た私は納得がいかないので、慰謝料をよこせと言い出し、運転する笈田と言い争いになる。不幸なことに一瞬よそ見をした時に、 向こうから父子二人乗りの自転車がやってきて、はねてしまう。父子は即死だ。轢き逃げとなり、実刑判決を受けた。会社からは、現在多額の宣伝広告をしている新車で、自社のセールスマンが人身事故を起こしたことで、スキャンダルを恐れ、事故の一週間前に退社したことにされる。退職金などは、会社に怒鳴り込んできたバーの女が治療代や慰謝料としてすべて持っていった。もちろん専務の娘との縁談もなくなった。死んだ父子の妻奈津子(桑野みゆき)は、警官にくってかかっている。奈津子の怒りの眼差しを忘れられない笈田は、出所してもやれることはないだろうと千石に語る。千石は、自分と組まないかと言う。何の仕事かは一切明かさない千石。もし、その気になったら、秋葉町の追分という店の歌子(川口敦子)という女を訪ねろと言う。
   追分では、他人の客を盗ったと文句をつけてきた女と、歌子は取っ組み合いの喧嘩をしている。女将にたしなめられ、外で不貞腐れてタバコうを吸っている歌子。そこに 笈田がやってくる。千石と刑務所で知り合ったという証拠を見せると、歌子は自分の部屋に連れて行き、20万を取り出し、笈田に渡して、リストにある三人を殺してくれと言う。一人殺すごとに100万払うと言うのだ。
    まず、笈田は、港湾労働者の元木を尋ねる。元木は、千石があと7日で出所してくることを知っており、まずは、これからのことを話そうと言って、笈田をおでんの屋台に誘った。飲みながら、元木は問わず語りに、自分の身の上を話す。彼はかって刑事だった。しかし、逮捕し刑務所に入れたホシの妻と関係を持ってしまい、ホシが出所したら分かれる約束を果たせずに、警察をクビになり転落の人生を辿ったのだと告白した。しかし、千田とどういう関係で、何をしたのかは一切喋らない。屋台を出てしばらくして、酔った元木が弁当箱と大事なものを忘れたというので、笈田が屋台に取りに戻ることにする。しかし、その間に、元木は、香港マフィアの宋(天本英世)と金(辰巳八郎)によって殺されてしまう。その際に、仲間の梅ヶ谷(田中邦衛)の名を出してしまう。笈田が戻ると、元木は今わの際に、娘の巴(上原ゆかり)に土産の手袋を渡すことと、ストリップ小屋のモナコにいる梅が谷への伝言を託すのだ。
元木が亡くなったことで巴は、身寄りが全くいなくなった。巴は、父から弁当箱と手袋を預かった笈田の後を付いてくる。一度は欺いて撒こうとした笈田だったが、巴の姿に、連れて行くことにする。
  梅ヶ谷は、ストリッパーの明美(葵千代)のヒモをしながら、ストリップ小屋の照明係りをしている。香港マフィアの二人がやってくる。間一髪逃げ出した梅ヶ谷だが、巴に明美への伝言を頼む。笈田は、明美を見張っているので危険だろうと言って、巴を連れて梅ヶ谷の指定した遊園地に行く。笈田を信用はしたが、やはり千田とのことは明かさない梅ヶ谷。しかし、明美と落ち合うクラブメコンに一緒に来いと言う。しかし、明美は、マフィアたちの手に落ちる。10分以内に東堀川の浄水場に来ないと明美を殺すという電話に、笈田への伝言を残し単身向かう梅ヶ谷。その頃、笈田は、クラブメコンで奈津子と再会していた。俺を気の済むようにしてくれと言う笈田に、奈津子は死んだ二人が帰ってくるなら、強盗でも殺人でもするが、決して戻らないと憎悪の眼差しで笈田を睨む。笈田は、比べられないかもしれないが、自分もこのことですべてを失ったのだと言う。少しはわかると表情を和らげる奈津子。
   梅ヶ谷の伝言を聞いて、笈田は、巴を店に残して、浄水場に駆けつける。しかし、一足違いで、梅ヶ谷と明美は殺されていた。梅ヶ谷も今際の際に、野村拳というボクシングジムにいる冬島に知らせてくれと言って息絶える。クラブメコンに笈田が戻ると、雪の中外で待ち続ける巴に、自分のマフラーとコートを指し掛けている奈津子の姿がある。
   笈田が巴をつれて冬島(中谷一郎)のいるジムに行き、説明しようとすると、二人組のマフィアが現れた。間一髪のところで逃げ出す。冬島は、ミドル級の元ボクサーだった。ヤクザに八百長を持ちかけられ、断ったことで右腕を折られ、再起不能になったのだ。そして、職業紹介所で元木、梅ヶ谷と知り合い飲んでいるところを、戦時中の空襲で足をやられた千石から香港マフィアの麻薬取引の上がりの強奪を持ちかけられたというのだ。千石が一人で金を隠し、2年の間、千石は、共栄証券の手形詐欺で、刑務所にはいるので、持ち逃げはできないので、ほとぼりを冷まし、出所次第山分けしようという話だった。しかし、マフィアたちは、確実に一人ずつ消しているのだ。笈田は、殺し屋は実はもう一人いて、千石に依頼された自分だと告白した。手を組もうと持ちかけるが、やはり殺される。しかし、金とは相打ちで倒していた。ふと気が付くと巴が消えている。宋によって誘拐されたのだ。
   千石の出所を出迎える笈田。三人とも死んだということに満足そうに頷く千石。3000万の隠し場所は、3万ボルトの高圧変電所の敷地内だった。金属ケースが出てくる。千田は笈田に何を考えていると尋ねる。お前にはわからないだろう、ゆきずりの子供のために馬鹿をやろうと思っていると答える笈田。笈田の勝ちに見えたが、トランクを開けた千石は、ピストルを出す。こうしたこともあるかと思って1発だけ弾を残してあったのだという千石。笈田は腹に弾丸を食らって倒れる。しかし、トランクを持って変電所を出ようとした千石に、切れて垂れ下がった高圧電線が触れて感電死する。
    注意深く、金を取り上げ、笈田は、変電所を後にする。宋に電話をして、巴と交換に、3000万を返すので、帝国ホテルの前まで来いと告げた。腹部からの出血を抑えながら、笈田が待っていると、宋の運転する車がやってくる。しかし、皮肉なことに、笈田を認めた宋は、ダンプカーにぶつかってしまう。ダンプカーの運転手につかまれていると、近くの警官たちもやってきて、宋は逮捕されてしまう。宋の車から巴が降りて、笈田に駆け寄る。笈田は、タクシーを止め、巴に、マフラーをくれた親切なおばちゃんのところにトランクを持って行け、自分は用事を済ませてから行くからと言う。泣いて一緒にいると言う巴を無理やり乗せ、運転手に楓町のキャバレーに行ってくれと告げる。タクシーが走り出すのを見届けてから、歩き出す笈田。足はもつれ意識は遠くなっていく。
   子役の上原ゆかりがいい。アニメの鉄腕アトムの時に流れていた、明治製菓のマーブルチョコレートのマーブルちゃんとして、一世を風靡し、お茶の間を席巻。逆にそれでCMタレントになっちゃった感があるなあ。
   82年東映五社英雄監督『鬼龍院花子の生涯(45)』。昭和15年夏、京都、島原の遊郭。日傘姿の松恵(夏目雅子)が、場末の女郎屋の近くまで来ると、人だかりがして、中に警官たちがいる。知り合いだと言って中に入ると、花子(高杉かほり)が死んでいる。流産の痕跡もあると警官たちは話をしていて、お前は誰だと聞かれた松恵は、私は鬼龍院松恵、亡くなっているのは私の妹の花子ですと答える。
  大正10年夏、高知九反田の子沢山で貧しい看板屋の娘だった松恵(仙道敦子)は、弟の拓とともに、九反田の鬼龍院一家、侠客、鬼龍院政五郎(仲代達矢)の養女となる。政五郎は母屋に妻の歌(岩下志麻)、向かいの離れに、妾の笑若(新藤恵美)と牡丹(中村晃子)が囲われていた。二人の隣の部屋が、松江たちの部屋となった。しかし、その晩拓は、親恋しさに実家に逃げ帰る。翌日、松恵が学校に行きたいと言うと、政五郎は女に学問はいらん、いいところに連れて連れて行っちょると言って、女たちや子分を引き連れて闘犬に出かける。赤岡の顔役の末長平蔵(内田良平)の横綱土佐嵐号と、漁師の兼松の前頭海神号の一番となり、兼松の海神号が勝つが、末長と情婦秋尾(夏木マリ)たちは、兼松と弟の六蔵(佐藤金造)がイカサマをやったと騒ぎ立てる。政五郎は兼松の肩をもち、一触即発となるが、末長は、荒れ狂う秋尾を連れて帰っていく。
   しかし、その晩海神号は殺された。泣きながら政五郎に訴える兼松と六蔵。政五郎は、末長のところに乗り込むと言う。歌は、政五郎の喧嘩支度を手伝いながら、これからは、お父さんの支度は松恵がやれと言う。松恵はお父さんと言えずに、歌に叩かれる。政五郎は秋尾の料亭に行くが留守である。秋尾は自分が代わりに相手になると言い、自ら帯を解くが、政五郎は相手にせず、帰り際に料亭の女中つる(佳那晃子)をさらっていく。屈辱に秋尾は怒りに燃えた。末長の子分三日月次郎(綿引洪)に、兼松は足をやられ、漁師が出来なくなった兼松は、弟の六蔵とともに、鬼龍院一家に入る。この抗争は、土佐の殿様と言われる須田宇市(丹波哲郎)が仲裁に入り決着はついた。
    鬼龍院の女たちを、政五郎の夜伽に声をかけるのは、松恵の役目だ。真面目に働く松恵を牡丹は妹のように可愛がる。尋常小学校に通い、鉛筆を買うお金がない時に、小遣いをくれたのも、初潮を迎えた松恵を労わったのも牡丹だ。ある日、政五郎が閨に行くと、牡丹が、こんな山出しと一緒に伽をさせられては、自分の沽券にかかるので暇を乞うた。その晩、笑若ではなくつるがいる。つるは、攫われてきた晩に乱暴に政五郎に処女を奪われて以来、全く声もかからず、歌に弄られたりしていた。つるは、松恵に声をかけられたと言う。松恵は、そんなことはないと答える。政五郎は、自分は嘘をついていないと言うなら相手を殴れと命ずる。頬を張り合い、次第に強くなっていく。牡丹は松恵に加勢するが、政五郎に叩き飛ばされる。松恵は、涙ながらに私が嘘をついたと政五郎に頭を下げるのだ。その晩、つるは、政五郎と二人になることができると、自分は政五郎の子を妊娠しているかもしれないと言う。自分の子供ができたと聞いて政五郎は喜ぶ。
   つるの生んだ子は、花子と名づけられ、政五郎に甘やかし放題に育てられる。ある日、小学校から松恵が戻ると、政五郎に呼ばれ、お前は花子の子守りをサボってばかりいるそうじゃないかと怒られる。自分で告げ口をしておきながら、つるは、お前なんかが子守りをすると、大事な花子が危なくてしょうがないと言う。松恵は思いつめた表情で、県立第一女学校に行かせてくれ、受験をして合格したのだと政五郎に告白する。激怒して認めないと言う政五郎と、一生のお願いだと頭を下げ続ける松恵のやりとりを、歌は静かに聞いている。  
   松江(夏目雅子)は女学校を卒業して小学校の教員になっている。ある日、政五郎は、須田の御大から。土佐電鉄でストが起き、交通の不便に皆が困っているので、なんとかしてくれと頼まれる。政五郎は、ストをしている組合の委員長近藤(役所広司)の元に出向く、そこに、高知商業高校の教師田辺恭介(山本圭)がいる。何度殴っても、主張を変えず、真の侠客ならば、弱きを助け、強きをくじくものだろう。生活が出来ずに、身売り一家心中が止まない世間をどう思うのだと主張する田辺を政五郎は大いに気に入った。
   その日、一家に戻ってきた政五郎は、松恵を呼びに行かせ、土佐労働者同盟結成準備室という看板を書けと言う。侠客は、弱い者見方なので、女の売り買いを廃業すると言いだして、女衒をしている兼松も、組の連中も大弱りだ。ラジオで浪曲森の石松を聞きながら侠客きどりの政五郎。そこに、須田の使いが来て、土佐電鉄で組合の味方をしている政五郎の出入り禁止を告げている。政五郎は正装し、須田の屋敷に走る。末長が献上した横綱の土佐犬を連れながら、犬畜生でも、育てて貰った末長への忠誠心で自分から貰った餌を食べないが、目を掛けてやった癖に、自分の頼みを聞かない政五郎は犬以下だと言う。政五郎は、これまでのご恩は感謝していますが、御前の飼い犬を今日限りやめますと言って帰っていく。
    田辺恭一を大いに気に入った政五郎は、花子の婿に迎えようと決意する。松恵を呼び、留置場に入っている田辺に差し入れを持って行けと言う。しかし、政五郎の思いとは裏腹に、田辺は、政五郎の娘とは思えない知的で、美しい松恵に惹かれていく。しばらくして出獄した田辺が、松恵を通じての差し入れなどの礼を言いに一家を訪れている。田辺を、歌、つる、花子と囲んでご機嫌な政五郎は、何でもかなえてやるので欲しいものを言えと言う。その時、松恵は小学校での勤めから戻ってきたところだ。田辺は、松恵を欲しいと言う。予想外のことに絶句した挙句、激怒する政五郎。政五郎は、自分の知らないところで、田辺と松恵は乳クリあっていたのだろと邪推する。冷静に考えれば、田辺と松恵は獄中の面会でしか会っていないのだが、俺の松恵を傷物にしやがってと罵った。松恵は飛びだそうとするが、養女に来て以来松恵を可愛がってきた良(室田日出男)らに止められる。田辺は、松恵の純潔の証に、手でも足でも切れと言い、小指を詰める。政五郎の部屋から出てきた田辺に、松恵が駆け寄ると、こんな最低の人間しかいない家から一刻も早く出ていけと言って去る田辺。花子は、自分の婿を横取りしたと松恵を罵る。
     数日後、歌が松恵を呼び、陽暉楼にいる政五郎が二人で話したいと言っていると告げて、着替えを持たせる。しかし、1人酒を飲んでいた政五郎は、酌をしろと命じて近付いた松恵に襲いかかった。お前はワシのもんじゃと言う政五郎に、抵抗し、最後には割れたガラスを首に当てるのを見て、そんなにワシが嫌いがとつぶやいて荒い息をする政五郎。花子の縁談が決まった。辻原龍平(成田三樹夫)の仲立ちで、関西の代紋、山根組の若頭の権藤哲夫(城直也)との見合いがまとまり、山根勝(梅宮辰夫)も参加しての結納の宴会が行われる。宴会の最中に歌は腹痛で倒れる。
    歌には癪の持病があった。しかし、今回はちがった。当時は感染した者の3人が1人が死ぬと言われた腸チフスだ。政五郎は、つると花子を兼松の家に移し、松恵を呼び寄せた。心配する良たちにも関わらず、松恵は学校を休み、歌の看病を続ける。終いには松恵も感染するが、今和の際に、歌は、化粧をし、松恵に髪を梳かせ、太ももに彫った龍と牡丹の刺青を愛おしそうに撫でながら、芸者だった歌が政五郎に出会い愛された頃を回想する。苦しい息の下で、松恵に、お前に厳しくして来たが、自分のような人生を送らせたくなかったんだといい、自分に尽くしてくれた松恵に感謝をしながら息絶えた。
    歌の死は政五郎にとっても深い悲しみとなった。暫くの後、夜遅く電報が届く。花子の許婚の権藤が上野で刺されたのだ。眠っている花子を政五郎が起こして、権藤の死を告げると半狂乱になって政五郎を責める花子。打たれるままの政五郎。
    昭和12年冬大阪の街で、田辺と大地の叫びと言う雑誌を売る松恵の姿がある。妊婦である松恵をいたわって早めに帰ろうと声を掛ける田辺を警察が囲む。アカではないかと言う容疑で2人して拘束された。その夜遅く2人は帰された。元教師のアカで極道の娘のお前はたちが悪いと言われたと明るく笑う松恵だが、自分の無力を自嘲する田辺。現在たとえ人数は少なくとも、応援してくれている人はいるじゃないのと松恵ははげますが、かって政五郎のあまりの怒りに、松恵との仲を疑っていたと告白した田辺に傷ついて涙を流す松恵。産まれてくる子供のために、徳島の田辺の実家に行って親の承諾を貰おうと徳島行きの船に乗る2人。しかし揺れる船の中で流産してしまう松恵。傷付いた松恵と田辺は九反田の鬼龍院一家を頼る。暖かく迎え入れる良たち一家の者たち。かって笑若や牡丹が住んでいた離れをきれいにしてくれている。久し振りに親子水入らずで話しなさいと言って、松恵を母屋に向かわせる田辺。政五郎は老いが目立つ。夫婦2人が信じ合っているのが一番だと一人頷く政五郎。田辺がお父さんのことを好きだと言ってくれたと聞いて涙を流す。その日はお祭りで、花火が打ち上がる。男は花火のように派手にバッと咲いて散る人生じゃという政五郎。
    田辺が2階の自分たちの部屋から外を見ていると、花子が人目を忍ぶように母屋を抜け出す。気になった田辺は祭りの人混みを追うと、花子が怪しい目つきの極道ものと待ち合わせるのを見つける。しかし、田辺は末長の一家のものに暗がりに連れ込まれドスを突き立てられ絶命する。花子を攫われ、田辺を殺され、兼松たちは殴り込みに向かった。政五郎と良は、田辺の病室に行くが、松恵は、あんたたちが殺したんだと叫ぶ。病室を追い出されるが、ドアの外に沈痛な表情で立ち尽くす政五郎と良たち。殴り込みに向かった兼松たちが乗ったトラックは、橋を渡り始めたところで、橋諸とも爆破される。やっとの思いで転覆したトラックから出てきた鬼龍院一家を末長組が襲う。トラックの周辺に政五郎の死体がないか探し回る末長たち。病院に回った政五郎たちわずかの人間を除いて全滅した。
   徳島の寺に喪服姿の松恵の姿がある。田辺の父源一郎(小沢栄太郎)は、極道の娘を嫁とは認めないと、仏前からも追い出そうとしている。分骨させてほしいと懇願してもけんもほろろな源一郎に、松恵の表情が変わる。強引に骨壺を開け、田辺の骨を取り始める。源一郎の叫び声に親戚の男たちが取り囲むが、松恵は、「なめたらあかんぜよ。わいは土佐九反田の侠客鬼龍院政五郎の娘じゃきに」と一喝する。後退りする男たちを後にする松恵。九反田に戻り荒廃した鬼龍院の家を眺めている松恵。そこにリヤカーに積んだ釈迦如来の坐像を運んでくる良たち。台座には、政五郎、歌、花子、松恵たちの名前がある。おやっさんが彫ったんだと良が言う。得意げな表情で田辺の家には仁義を通してきたかと松恵に尋ねる。笑顔で頷き、遺骨を入れた缶を振る。カラカラと音がする。さあ花子を迎えに行ってくるかと、軒下から大事そうに箱を取り出す政五郎。中には長ドス、背中に般若が描かれた着物など喧嘩支度が入っている。着替えを手伝う松恵。お前には苦労ばかりかけてきたなと頭を下げる政五郎に、私はお父ちゃんの子になってずっと幸せだったと言う松恵。涙を流す2人。
   たった4人。鬼龍院一家最後の殴り込みだ。兼松たちがやられた崩れかかった橋の手前で、人力車を降りる政五郎。三日月次郎たちが待ち受ける。壮絶な斬り合いの中次々に末長一家を倒していく。三日月次郎を斬り、末長の事務所に突っ込んでいく。良は秋尾にトドメを差すが、政五郎を庇って末長の銃弾に絶命する。腹に数発受けながらも、政五郎は末長を斬り、奥の部屋に?と花子を見つける。花子に「迎えに来た。お父ちゃんと一緒に帰ろう」と話し掛けるが、?を庇うように立ちはだかり政五郎を睨む花子。よろめきながら、背中を見せ去る政五郎。背中の般若の目から血が流れている。政五郎は、そのまま自首し、網走刑務所に送られ、2年後に獄死した。九反田で1人暮らす松恵の下に、政五郎宛ての花子からの手紙が届く。中には拙い花子の字で「おとうさんおねがいたすけて」と書いてある。松恵が、消印を頼りに、京都の島原遊廓に出掛けるが亡くなっていた。
  実は、スクリーンで見た記憶がなかった。やはりテレビでは大人のシーンなどカットされていたと思う。やられた。やっぱり映画はいいなあと、つくづく思う映画。仙道敦子と、勿論夏目雅子が素晴らしい。
   角川シネマ新宿で増村保造 性と愛。76年『大地の子守歌(46)』。
   遍路姿の少女が歩いている。かわいいお遍路さんと娘を呼び止め、おにぎりと鈴を渡す女性(田中絹代)。お遍路は、礼をいい再び歩き始める。
   昭和7年四国伊予の石鎚山の奥に、ウサギを下げ山道を獣のように走る娘がいる。少女の名は、おりん(原田美枝子)。粗末な家に帰り、「ばば!ウサギが穫れたで、汁を作る」と声を掛けるが、老婆(賀原夏子)は亡くなっている。老婆とたった2人で生きてきたりんは、里人も信用していない。4、5日は、祖母の死を隠していたが、ある日家に来た里人は異臭に気が付き、祖母は葬られた。そのまま、一人で山で暮らそうとしたりんだったが、佐吉(木村元)に騙され、瀬戸内海の御手洗島の富田屋という女郎屋に13歳にして、売り飛ばされる。初めて見る海に驚くりん。
   山出しのりんは、頑固で乱暴もののため周りの人間を驚かせ、富田屋の主人の茂太郎(灰地順)さだ(堀井永子)夫婦を困らせる。最初は何も働こうとしなかったりんだが、足の不自由なアサ(中山三穂子)という娘に借金を返して早くここから逃れるためには稼ぐことだと言われ、洗濯など雑用を熱心にやるようになった。御手洗島の遊郭は、店での商売以外に、女郎を乗せた「お女郎船」で沖合に停泊する船相手に商売していた。茂太郎が船を漕いでいたが、心臓に持病があり困っていたところ、りんが漕ぎ手を志願する。女は無理だとみなは言ったが、浜辺の漁師の少年正平(佐藤祐介)に漕ぎ方を習い猛練習をして漕ぎ手となる。
   ある日、りんは仕事をさぼり始めた。りんの気まぐれには慣れっこになっていた富田屋の者たちも、何が理由か分からない。りんは、山に登り泣いていると、親切な農婦が声を掛けてくる。着物が血で汚れているのを見て、自分の家に案内する。初潮を迎え女になったので、母親に知らせれば教えてくれると言われるが、自分には誰もいないというりん。やさしく、着換えを貸してくれ、面倒を見てくれる女。
   数日後、富田屋の主人たちが、嬉しそうに声を掛けてくる。あの女性が、汚した着物を届けてくれたのだ。これから座敷に出てがんがん稼げと言う主人たちと女郎たち。しかし、りんは、女にはなりたくない。女郎にもなりたくないので、お女郎船の漕ぎ手を続けると言う。しかし、売られてきたりんには、客をとることを拒否することはできない。かなり厳しい仕置きをされる。ボロボロになってりんは、帰される。りんは海岸に行き、正平に身を任せる。
   変わり者だが、若く美しいりんは、売れっ子になる。他人の倍も三倍も客を取る。それでも、お女郎船の漕ぎ手は続けている。ある日、御手洗島に佐吉がやってきた。佐吉に騙されて売られてきた女郎たちは仕返しをしようと言うが、りんは自分の客として座敷に上げるのだと言う。しかし、りんは、佐吉に馬乗りになり首を絞める。船の漕ぎ手でもあるりんの握力は強く、佐吉は死にかける。私を抱くかいというりんだが、約束があると言って、そそくさと逃げ出す佐吉。その夜、佐吉が海に落ちて死んだらしい、ヤクザに殺されたのではと言うアサに、いや、生きていくのが嫌になって自殺したんだと言うりん。
   ある日、浜辺に出たりんは、不思議な男(岡田英次)に出会う。この島から逃げたいので、船に乗せてくれと頼むりん。船で逃げるために船の漕ぎ方を覚えたのだと言う。牧師だと告白した男は、今このまま逃げて、海を渡ってもすぐに追っ手をかけられ捕まってしまう。伊予に渡ってからの逃走資金が必要なのだと言う。嘘をついているのだと言うりんに、必ず、お前を迎えに来るので、どんなことがあっても死ぬなと言う。
   ある時から、りんは身体がだるいと言って、数人の馴染しか取らなくなった。いろいろ勝手もやったので、借金が増え、年季は更に伸びてしまった。女将のサダが早く起きろと声を掛けるとまだ、真っ暗だろうと言う。身体を酷使しすぎて、失明寸前になっている。心配して声をかける女郎たちに、自分には見えていると言って殴ろうと近づくが、物が見えないため、まっすぐにも歩けない。心配したアサが医者に連れていくと片目は完全に失明し、反対側もほとんど視力がないと言う。
   ある日、りんは自分の名を呼ぶような声を聞いて、フラフラと浜辺に出る。男の声が、お前を迎えにきたと言う。私をだまして、他のどこかに売り飛ばそうとしているのかとりんは信用しない。しかし、安心しろ、伊予に逃がしてやるという声に、以前自分を迎えにきた牧師のことを思い出すりん。りんを乗せ、船を漕ぎだす男。沖に出たところで、りんは、男の声のする方向に手を合わせ、感謝していると言う。お礼に返せるものを何も持っていない自分は、女郎として自分の体でお礼をすることしかできないのだと帯を解き始めるりん。
   りんは、失明しながら四国八十八か所の巡礼を続けている。山の中で野宿をするりん。りんの脳裏に、今までの出来事が走馬灯のように駆け巡る。燃え盛る炎に取り囲まれているようなりん。しかし、地面からは、りんの名を呼ぶ声が聞こえてくる。

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