2009年1月29日木曜日

かって、映画館の床はゴミ箱を兼ねていた。

   朝一番で大門の歯医者。来週インプラントを入れるためのレントゲン撮影。
   神保町シアターで男優・森雅之。凄い人だ。たぶん70歳±5歳というところではないか。特に「こころ」は満席。不景気もなんのそののシルバーパワー。少し前のシネフィル中高年中心の客席が、かって映画が青春だった人たちの、何か若やいだ熱気で溢れている。ひとつだけ、文句を言わせてもらえば、終演後の座席周りのゴミの山だ。確かに、かって映画館の床はゴミ箱を兼ねていた。そんな時代でなくなって、もう何十年たっているんだから、お願いしますよ(苦笑)。
   55年日活市川崑監督 『こころ(47)』。
   野淵(森雅之)の妻のしづ(新珠三千代)が針仕事をしている。野淵がやってきて、君は自分を誤解していると言う、一緒に墓参りに行くかどうかで揉めているのだ。結局野淵は、一人で、友人の梶の墓を訪ねた。そこに、日置(安井昌二)と言う学生が訪ねてくる。どうして知ったのだと聞くと、しづがここにいると教えてくれたと答える日置。しづの様子を聞きながら、ビールを飲もうと誘う野淵。
   日置は、野淵家をたびたび訪れるようになる。野淵は、教養も学問も高いものを持っているが、親の遺産を食いつぶすだけのような生活を送っている。また、何か野淵としづずの間に気持ちのずれのようなものがある。しづに尋ねると結婚して13年、書生の時代から知っているという。かっては、あそこまで鬱々としていた訳ではなく、働くように何度も頼んだこともあるのだがと答えた。また、ある日日置が野淵家を訪れている際に、外では号外を叫ぶ声がある。野淵は女中のお粂(奈良岡朋子)を買いにやらせる。そこには、明治天皇の崩御の報せだった。野淵は、日置に渡すが、日置はあまり関心なさそうに、野淵に返すので、野淵は、その号外に見入る。
   日置の父親が身体を崩し、日置は実家に帰る。卒業証書を母親(北林谷栄)は、仏壇の前に立てようとするが、何度立てても滑り落ちる。
    野淵が帝大の哲学科の学生だったころ、友人に梶(三橋達也)という男がいた。仏教について学ぶ梶は、親から仕送りを止められて大変困窮している。野淵は、自分の下宿につれてきた。下宿先は、未亡人(田村秋子)と女学生の娘しづの親子の家だ。梶は、鬱々として、何か自分を恥じているかのような男だ。野淵が気晴らしに旅に行こうと海に誘った時も、旅の僧(久松晃)に日蓮について、尋ねておきながら、坊主は何も日蓮の教えなど分かっていないと罵っている。野淵と梶は、多くの時間を過ごしているが、会話はすれ違ってばかりである。
    無邪気にころころ笑うしづは、若い娘らしく気まぐれで、まじめな梶に興味を持ち、出先で会った折、当惑する梶に、無理矢理同行したこともある。しづに興味のある野淵は気が気でない。ある時、梶が、しづが気になって学問が出来ないと告白する。野淵は、煩悩に取りつかれている梶を非難するが、野淵もまた煩悩を持つ一人の若い男だ。
   翌日、野淵は仮病を使い、学校を休む。梶が出かけたのを確認して、未亡人に、娘さんを私に下さいと頼む。簡単に承諾する未亡人。梶が帰宅すると、未亡人はうれしそうに、野淵と娘の結婚の話をする。梶は驚くが、野淵には何も言わず、風邪薬を買ってきたといって枕元において部屋を出る。寝床の中で、野淵の肩は震えている。翌日の早朝、野淵は目を覚まし、梶の部屋に行くと、梶が自殺している。机には野淵にあてた遺書がある。自分はもっと早く死ぬべきだったと言う言葉と、今までの野淵に対する感謝が書かれている。うつ伏せに横たわっている梶を仰向けにしようとした野淵の手に、ヌルヌルとした梶の血の感触だけが残る。1階に降り、井戸の水で手を洗ってから、未亡人に声を掛ける。小さな葬儀が行われる。梶の父親は現れず、親類の者に、梶がよく散歩をしていた雑司ヶ谷の墓地に埋葬したいと言う野淵。しばらく後、野淵としづは結婚することになった。
   日置の父の容体が悪化し、実家にいる日置に野淵からの封書が届く。そこには、梶との友情と、しづへの思いの板挟みに苦悩し、梶を追い詰めた経緯と、自殺をすると暗示するような内容が書かれている。日置は、医者のもとに走り、2、3日の間、なんとか父親を生かしておいてほしいと頭を下げ、東京行きの汽車に飛び乗る。野淵家を訪ねると、忌中の張り紙がある。日置はしづに声を掛ける。門のくぐり戸を音を立てて閉めたしづは、日置を家に招き入れた。
帝大の哲学科の森雅之が、あまりに老けているという声も多いようだが、今の大学生とは違う。人生50年の時代だと思えば、22,3歳、更に隠居のような生活をしている先生、野淵は屈折して50歳位の顔をしていてもおかしくないうような気もするのだが。
   夏目漱石、高校3年の時、選択授業があり、漱石を読み続けるというものを受けていた。まあ、選択をした理由には、他のクラスの好きだった女の子がその授業を選んだことを偶然知ってしまったからだが、吾輩は猫であるとぼっちゃんのイメージしかなかった漱石の、鬱屈とした精神の闇のようなものに嵌った覚えがある。小説として読んだ時の印象と、市川崑監督作品の印象は30年の間で比較するのは無理があるだろう。漱石をもう一度読み返す。もう少し年をとったときの楽しみをひとつ見つけた。
  63年日活中平康監督 『光る海(47)』。城南大学の卒業式、英文科は、女子33人に対して、男子7人。男子たちは、七人の侍と呼ばれている。学生服姿の彼らは、教室の前で、クラスメイトの女子たちを出迎えている。クラス一の成績の葉山和子(十朱幸代)は艶やかな振袖姿で、対照的に、二番目で小説家志望の石田美枝子(吉永小百合)は、黒いスーツに愛犬のコッカスパニエルのベベを連れている。式の最中、卒業証書を受けた取った美枝子が転ぶ、そこをクラスメイトの野坂孝雄(浜田光夫)が受け止める。
  式が終わり、足を挫いた美枝子に、肩を貸す野坂。そこに、美枝子の母、雪子(高峰秀子)が声を掛ける。若く美しい雪子が着ている上質な着物や帯などを説明するが、今日は自分の頼みで化粧をしていないのだと野坂には言い、母には、これから茶話会があるので、ベベを連れて帰ってと頼む美枝子。雪子は、5歳の時に離婚、銀座でバーをやりながら、美枝子を育ててきた。美枝子は、自分の母親が水商売をしていることを恥じてはいないが、何か屈折があり、母を困らせるために化粧をしないでと言ったのだと告白する。
  教室での茶話会は、担任で心理学の渡部教授(浜村純)を中心に盛り上がる。教室を片付けている和子と孝雄。美枝子がハンドバックを忘れている。野坂が届けることになる。また会いましょうと握手をする二人。美枝子の家に、野坂がいる。卒業式では、黒いスーツ姿だった美枝子が振袖に着替えていて、野坂を驚かす。小説家志望で人間観察が趣味の美枝子にかかっては、親切に忘れ物を届けた野坂も感謝されているというよりも貶されにやってきたようだ。ホテルオークラで、父親と会うので車を運転して送ってくれと頼む美枝子。
   ホテルのレストランで会食をする。美枝子の父、田島清二(宮口精二)は、美しく成長した娘の姿に目を細める。何で離婚したのだと、野坂から率直に問われた田島は、幼い時に夫を亡くした母親(原泉)が息子である自分の成長に全てを掛けたため、あまりに母との関係が深すぎ、結婚した後も、雪子に干渉しすぎて、諍いが絶えず、自分が母親にも妻に対しても何もできなかったからだと言う。すると、美枝子は、直接的な原因は自分だったと言いだす。幼稚園のころ、自分は祖母にも母にもいい顔をしていたが、ある日帰宅すると二人が激しく言い争いをしており、それを止めようと物差しで祖母を叩き「ママを苛めないで」と自分が言うと、祖母も、母も自分のせいだと謝罪をし、そのことは、二人は一緒に暮らさない方がいいと思わせてしまったのだ。幼いときの自分のせいだという美枝子の話に、田島も野坂も、美枝子が5歳から背負ってしまったものを思って涙ぐむ。
   帰り車を運転し、美枝子の家に向かいながら、聖者の行進を歌う二人。玄関の前での別れ際、美枝子を抱きしめたくなる衝動を抑える野坂。美枝子は、恋愛とか結婚という気持ちと別に若者は口づけをすることはあるという。口づけをする二人。
   三か月がたつ。葉山和子は、ある大企業の庶務課に勤めるBGとなっている。実は、この会社の社長は、叔父の矢崎庄二郎(森雅之)だが、社内でその関係を知る者はほとんどいない。秘書課でもなんでも推薦してやると言ったのに、何で庶務課なのだと尋ねる矢崎に、とても働き甲斐のある職場だと言う和子。実は、和子の推薦で、浅沼一郎(和田浩治)が入社しているが、英語力を矢崎は認めており、秋にはアメリカ出張させることが内定していると言う。浅沼とすれ違った時におめでとうと囁く和子。ちょっと相談があるという浅沼に、野坂を誘い三人で会おうと言う和子。浅沼は、実は大学時代から1年下の木村栄子(松尾嘉代)という同棲相手がいて、妊娠した栄子は産みたいといっているが、会社には独身として入社したので、どうしようという衝撃的な話だった。野坂は自分の実家の医院で出産し、費用は出世払いにしてもらうように親に頼んでやるといい、和子も、会社のほうへの根回しは自分がやってあげると言う。二人は、浅沼のアパートを訪ねる。和子は、浅沼と野坂を部屋の外に出し、栄子の腹を触らせてもらう。胎動に感激する和子。
   浅沼の家を出た和子は、野坂を自宅に誘う。葉山家を訪れると両親は外出しており、高校生の妹久美子(和泉雅子)が出迎える。和子が着替える間、久美子が相手をするが、少し前、内気で暗かった印象の久美子は、一変しており、野坂を驚かす。姉の和子と今結婚しても、安月給では、生活が苦しい、その分、今の自分と交際をして自分の大学卒業の時に結婚すれば、給料も上がっているだろうから、幸福な新婚生活を送れるだろう。だから姉ではなく自分と交際しないかと言うのだ。かって自分が陰気だったのは、下半身に発毛が無く悩んでいたからだと言う。そしてその悩みが解消され、母親や姉とも一緒に入浴できるようになり、姉の和子と入浴した際には、自分より姉の方がそこは豊かだと言って、姉に叩かれたことがあるとまで話す。和子が現れ、何の話をしていたのかと尋ねられ、経済学や生理学やら・・・と野坂はごまかすが、最近浴室で久美子を叩いたことがあるかいと尋ねる。何の話だか思い出した和子は赤面する。そこに、親類の建て前の祝に出かけていた和子の両親(下條正巳、小夜福子)が帰宅する。父親は大変ご機嫌に酔っている。家の前まで、野坂を見送る和子。
  出版社に就職した向井達夫(山内賢)が美枝子を訪ねてくる。今度新人文芸コンクールがあり、若手編集者に一人ずつ作家を発掘するよう指示があったので、美枝子を推薦しようと言うのだ。原稿を取りに、自宅に戻ると婆や(飯田蝶子)が雪子が実印を忘れたので店に届けてほしいという伝言を伝える。美枝子は向井を連れて、銀座の雪子の店きこりを訪ねる。美枝子は雪子に交際する男性がいるかと尋ねる。姑との確執で家を出た自分は、水商売をしているだけに、美枝子のためにも自分を律してきてしまったと言う。逆に雪子があなたはどう思っていたかと美枝子に尋ねる。そうしたそぶりも見せない母親を疑い、耐えられなかったが、いてもおかしくないし、居る筈だろうと思って、母親が幸せならどちらでもいいと思っていると言う。母娘の会話に感動する向井。雪子は、信頼するボーイフレンドと新橋で食事をするので、あなたたちもいらっしゃいと言う。
   料理屋に現れたのは、和子の叔父の矢崎だった。店の客で、妻も何度か店を同行させ、雪子に好感を持っていると言う。何か、複雑な思いを抱かせないように、雪子は美枝子に、矢崎は和子に、自分たちが友人だと告げてこなかったと言う。紳士的でダンディな矢崎に好感を持つ美枝子。若い二人を帰したのち、矢崎は、妻のことで相談があると言う。胃潰瘍の手術を受けた妻の信子(田中絹代)は、痩せてきており、医者は問題ないというが気鬱で身体を壊さないか心配しているのだ。雪子は、信子から夫の矢崎には内緒で一度、出来れば美枝子も伴ってもらって、会いたいと言う手紙を貰っていると告白する。信子が二人の仲を邪推するような女性でないことは、二人とも分かっているが真意は不明だ。女同士の会話で信子の気も晴れるだろうから、会ってやってくれないかと言う。
    教会で、普段着のまま、牧師の前に並ぶ浅沼と栄子の姿がある。栄子は臨月を迎え苦しそうである。しかし、牧師は何故か登里子(ミヤコ蝶々)で、牧師の弟の代理である。誓いが終わり、エンゲージリングを栄子の指に嵌めたところで、栄子は倒れる。救急車で野坂の実家の医院に運ばれる。野坂の父親(清水将夫)も長い産婦人科医生活でこんな大きな声をだす妊婦は初めてだというくらいの悲鳴が、院内に響き渡っている。居間に集まっている野坂や、母(高野由美)、弟の次郎(太田博之)、浅沼、和子、久美子、美枝子たち。疲れた顔で父親が現れ、あまりの悲鳴の大きさで入院患者も何事かと大騒ぎになったが、無事に男の子が生まれたと浅沼に伝える。浅沼が病室に駆けつけると新生児を抱いた看護婦(奈良岡朋子)が、小声で、自分の看護婦生活であんな大きな悲鳴を上げた妊婦は初めてだと言い、さぞや閨での声も大きいのでしょうねと囁く。赤面する浅沼。
   美枝子、和子、野坂たちは、浅沼抜きで出産祝いを兼ねて、やはり同級生だった木下雅弘(倉橋守)が、ステージで歌う銀座のクラブに出かけた。
数日後、雪子は、美枝子を伴い軽井沢の矢崎の別荘に信子を訪ねる。美枝子が馬に乗って出かけている間に、雪子は、自分が胃癌であり、みんなが自分のために悲嘆しながらその日まで迎えることを嫌い、夫や子供たちには内緒にするよう医師に口止めしていることを告白する。その上で、自分が心残りなのは、夫の矢崎のことだけであり、世間に大々的な披露をしないことと、遺産の相続を受けないことを条件に、自分の死後のことを雪子に託したいと言う。
   気持ちは判るが、雪子も矢崎も独立した人格なので、、一緒になれと言われても困ると言う雪子に、極めて冷静に信子は、この願いを雪子に伝えることで自分は救われるのだと言う。カレンダーを指す信子。8月のカレンダーには1日毎に赤鉛筆で×が付けられている。これが自分の生きている証なのだ。来月の風景の写真を自分は大変気に入っており、何日その写真を見ることが出来るだろうかと言い、今日は大事な用事も済んだので、印を付けてほしいと雪子に頼む。泣きながら赤鉛筆を取る雪子。
    馬に乗った美枝子がやってくる。明るい美枝子に会い喜ぶ信子。疲れている信子を気遣いハラハラしている雪子だが、元気な若い佐知子と話すことが何よりも嬉しいと言う信子の夕食の誘いを受ける。美枝子宛ての電話が掛かってくる。美枝子の書いたものが評判なので、コンクールの選考に残ることになったという知らせだ。ラジオをつけてツイストを踊り出す美枝子。戸惑う雪子と嬉しそうに手拍子を打つ信子。
    9月中旬になり、東京の矢崎の家に、和子と美枝子が呼ばれる。美枝子の母と矢崎が親しかったと聞いて驚いたと言う和子。今に信子に呼び出された息子と娘2人もいる。信子が、自分が胃癌で後数週間の命であること、家族には知らせないよう医師に口止めしていたことを告白する。驚き疑う家族たちに、自分は皆に悲嘆に暮れながらその日を迎えたくなかったのだという。美枝子は、ある哲学者の言葉を思い出した。自分がうまく伝えられない気持ちを代弁してくれた美枝子に感謝する信子。しかし、自分の死後、遺産相続を受けずに夫の矢崎と生活を共にしてくれる女性を求めているのだと言い出したことに矢崎も子供たちもそれはあんまりだと言うのだ。そのとき美枝子は、私が呼ばれた訳は、信子が思い抱いているのが自分の母の雪子だからではないのかと言う。信子にどう思うかと尋ねられて、多分母親を取られて悲しい思いをすると思うが、反対はしないと言った。数週間後、信子は静かにこの世を去った。
   和子の家で両親が相談ごとをしている。久美子が現れて、二人は話を止める。久美子は、日本の家庭では、親は子供に内緒ごとをできないので、教えてほしいと言う。戸惑う両親に、クラスで、いつ両親の秘め事を知ったかとアンケートをとるとほとんど幼いときから両親が閨を共にしていることを知っていたと言う。久美子も、本当に小さかった時、夜中に目が覚めると母親が布団におらず、父親の布団に入っていることに気がついて、母親はお化けが出て怖いので、父親と一緒に寝ているのだと思ったという話を披露する両親の困惑は一層高まり、和子の縁談のことだと打ち明ける。久美子は、姉の和子は野坂に好意を持っており、野坂もそうであるが、それ以上は進展していないと言う。野坂であれば、人柄も家柄も文句なしだが、猫に鈴を誰がつけようかという話になり、久美子は、野坂の弟の次郎と二人で実行すると言う。
  翌日、学校帰りに次郎と会って、その話を持ちかける。美しい和子が義姉になることは次郎も賛成だ。翌日、野坂を勤め先の放送局に訪ね、姉が最近恋わずらいして、寝言で野坂の名を呼んでいると嘘をつく。次郎も、和子を会社に訪ね、兄のことを話す。
  羽田空港に、矢崎家の人々と和子、雪子、美枝子が集まっている。結局、矢崎と雪子は、信子の希望通り、入籍はしないが、同居することになり、神社で内輪だけの式を挙げ、今日から5日ほど北海道への新婚旅行にでかけることになったのだ。美枝子は雪子に、自分は小説家の卵として、矢崎と愛し合った日には○をそうでない日は×を書いた絵葉書を出してほしいと頼む。雪子は呆れながらも仕方なしに、承諾する。
   見送りのあと、和子はボーリング場で、野坂と待ち合わせている。お互いがやつれていないことで、弟と妹に騙されたことに気がつく。しかし、和子は、野坂に二人に乗せられたことにしましょうと言い、結婚しようということになった。野坂は、美枝子に電話をする。感のいい美枝子は、野坂が和子と結婚の約束をし、報告の電話でないかと言って、野坂を驚かす。しかし、祝福の言葉を言って電話を切ってから、美枝子は泣いた。彼女も、野坂に対して憎からず思っていたからだ。さらに、新婚旅行先の雪子から電話がある。とてもいいホテルで。寝室にはとても大きなダブルベッドと、赤い薔薇の花で埋め尽くされていると言う言葉に、電話を切り、激しく泣き出す美枝子。急に孤独を強く感じたのだ。婆やが、美枝子を慰め、涙を拭いてあげる。
    ホテルの一室で、美枝子の新人女流文学賞の受賞パーティが行われている。恩師の渡部を始め、赤ん坊を抱いた浅沼と栄子も含め、大学時代の友人たちもみんな顔を合わせている。スピーチを終えた美枝子は、突然、婚約を決めた友人を祝福したいと思うと言って、野坂と和子を呼ぶ。驚く二人。美枝子は結婚行進曲を原語で歌い始める。友人たちも歌い始め、会場中が歌声にあふれていく・・・。
   石坂洋次郎原作。やはり、新しい日本で男女平等になり、対等に、また理路整然と話をする女性が眩しかった時代なんだろう。もっと前の日本では、女のくせに理屈をこねるな!! と一喝されていたことが、敗戦による女性解放が、新しいヒロインを求めたのだろう。まあ、正直、21世紀の感覚では、弁はたつが、屁理屈を引き回しているようで、愚かしく見えてしまうことも否めない。しかし、ちょっと、女性が張り切って力が入りすぎていた時代かもしれないが、いいなあみんな楽しそうで、楽しいのだからつべこべ言うのは野暮というものだろう。こんな明るい青春時代を送ってみたかったなあ(苦笑)。
      

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