午前中は、大門の睡眠クリニックから、赤坂のメンタルクリニック。
京橋フィルムセンターで、生誕百年 田中絹代 映画女優。
56年日活阿部豊監督『色ざんげ(662)』
西条信光と表札が掛かった邸宅を見渡せる借間の窓から眺めている洋画家の湯浅譲二(森雅之)。そこに刑事(大森義夫)がやってくる。「失礼します。」「何だね、君は。」「警察の者ですが…。お仕事は?つまり、ここで何をしているんですか。」「君には関係がない。帰ってくれ。」「あなたは関係なくても、警察は不審なものがいると通報があれば、対応しなくてはいけないんだ。」「誰が通報したと言うんです。」「それは言えませんよ。」「西条さんちが丸見えですね。」「君には関係ない」「そういう態度を取るんであれば、署まで同行して貰いましょう。」
警察署長(松下達夫)、「高名な洋画家の湯浅譲二さんともあろう人が、少し非常識ではありませんか。」「好きな女のことを眺めて何がいけないんだ。」「奥さんもちゃんといる人が、そんなことをして、それが非常識だと言うんです。」
湯浅が帰宅をすると、妻のまつ代(山岡比佐乃→山岡久乃)が服をトランクに詰めている。湯浅の顔を見るなり、「お帰りなさい。警察の気分はどう?刑事が来て、露子さんのこと、根掘り葉掘り聞いて言ったわ。私はほとほと愛想が尽きたので出て行きます。慰謝料と言うか手切れ金を頂きたいのですけれど…。」「楠本に任せてあるので、彼と話してくれ。」「楠本さんと話せばいいんですね。お春も一緒に行きたいと言うので、連れて行きますね。」「ああ、勝手にすればいい。」
西条信光(菅井一郎)弟二郎(武藤章生)お八重(田中絹代)津村(二本柳寛)楠本(芦田伸介)小牧高尾(高田敏江)お八重の亭主(三島耕)井上とも子(天路圭子)父真平(冬木京三))母靖子(坪内美詠子)白井国彦(宍戸錠)
北原三枝は、八頭身で昭和の人間とは思えないかっこよさ。森雅之の渋い中年紳士。最高の年の差カップルで、森雅之に自分を投影しようと言うかなりの意気込みで、個人的に相当期待したのだが、二人の恋愛がどうも薄っぺらくて残念だった。脇役がなかなか揃っていた分、何だか散漫になってしまったのだろうか。
神保町シアターで、日本文芸散歩。
54年近代映画協会吉村公三郎監督『足摺岬(663)』
昭和9年冬、世の中が暗く生きにくい時代になって行く時代のことである。
警察署の未決房。学生が看守が番号を呼ぶ。学生(木村功)が立ち上がり、鉄格子から出る。中に残った弁当を食い続ける労務者に、包帯を頭に巻いた男が「何だ?」「ありゃ、アナだろう。」(多分アナキスト)と答える。
警察署の外に母親に付き添われた学生が出て来る。「驚いたろう。貧乏な学生はみんなアカだと決め付けているんだ。」「政夫がアカだなんて…。」「でも、母さんが来てくれたから、すぐ出られたよ。」
坂道を二人で歩いていると、向こうから新聞配達の少年がやって来て、「浅井さん、今出られたんだね。早く出られて良かったね。」と言い、夕刊を渡す。夕刊を開くと、ワシントン海軍条約破棄と見出しが出ていて顔を曇らす浅井。「彼は下宿の隣りに住んでいる福井くん。新聞配達をして夜学に通っているんだ。」「偉いんだねえ。」本郷の下宿。浅井は、自分の部屋に母親のトヨ(原ひさ子)を案内し、お茶を沸かす。文机にガリ版があるのを見た母に、「内職みたいなものさ。」と説明する。隣りの福井の姉八重()が弟の部屋に来ていて、ついでに洗濯をしてくれていた。八重は近くの学生食堂の住み込みだった。浅井はトヨの連れ子で、夫から行くなと言われたが上京したのだ。大学への進学も反対した夫は、学費を一切出さないので、夜なべしての針仕事で、小さなお金を稼いでは送ってくれるのが浅井は心苦しいと言う。しかし、トヨは、政夫が東大を無事卒業することだけが、自分の希望だと言い、栗と揚げ餅を置いて慌ただしく田舎に帰って行った。
浅井政夫(木村功)八重(津島恵子)福井義治(砂川啓介)松木(信欣三)坪内(内藤武敏)緒方(斎藤雄一)香椎(庄司永建)さよ子(日高澄子)広瀬隆剛(森川信)ユキ(赤木蘭子)文春(河原崎建三)印刷所支配人(嵯峨善兵)印刷職工(下元勉)病院の助手(芦田伸介)西野(金子信雄)商店主人(菅井一郎)特高刑事(神田隆)おちせ(野辺かほる)のぶ(田中筆子)遍路婆さん(小峰千代子)遍路爺さん(御橋公)売薬売り(殿山泰司)
60年大映東京増村保造監督『偽大学生(664)』
昭和39年東都大学の入学試験の合格発表。大須彦一(ジェリー藤尾)は打ちひしがれていた。山口県萩の田舎から出て来て、日本一の最高学府東都大学に入れと死んだ父と一人小さな商店を営み仕送りをする母の期待を背に、4度目の受験に失敗したのだ。郷里の母に「マタオチタヒコイチ」と電報を打とうとしたが、落胆する母の顔が浮かんで出せなかった。下宿の靴屋に戻ると、主人が「どうだったかい?」と聞いてくる。思わず頷いてしまう大須。「そうかい!!受かったかい。ウチに天下の帝大生を住まわせていると思うと鼻が高いよ。祝杯を上げよう!!」と言って、かみさんから、酒は駄目だと言われる。女房は「大須さんも、4度目だから、これで駄目なら、頭が悪いと言うことだね。」と噂をする。
二階の自分の部屋で、大須は参考書の山を押しのける。「ゴウカクシタ」と電文を書き換える。
東都大学の入学式。総長(三津田健)が祝辞を述べている。
下宿で、詰め襟に東都大学のバッジを付けている大須。鏡に自分の姿を映し満足そうに下宿を出ようとすると、靴屋の主人が新聞を読みながら、東都大学の学生でも、この記事に出ている全学同の空谷委員長(伊丹十三)みたいになっちゃいけないよと言う。「いや、大学生はみんな全学同の一員なんだ」と言う大須。
大須は、ジャズ喫茶に入り、コーヒーを頼む。ウェイトレスが、襟章を見て「あなた東都大学生ね。やっぱり他の人とはどこか違うわ」と言う。少し鼻が高い大須に「あそこにも東都大生いるわよ」と言う。「いや、キャンパスでは見かけないな」そこでは正に、空谷がマスコミの取材を受けているところだった。マスコミが帰ると、二人の刑事がやって来て、逮捕状を見せ、連れて行こうとした。空谷は、東都大のバッジを付けた大須に気がついて、歴史研究会に伝言をしてほしいと言う。
学生寮にある歴史研究会の部室では、木田靖男(藤巻潤)や高木睦子(若尾文子)柳沢(三田村元)原田(大辻伺郎)辻(森矢雄二)らが全学同の支部委員会を開いていた。委員長の空谷が現れない。刑事に逮捕されたところに居合わせ、空谷から伝言を受けたという新入生の大津がやってくる。
大津は、学生集会で、空谷の不当逮捕を証言してくれと頼まれる。多数の寮生たちに囲まれた集会に大津の気持ちは高揚し、空知は、刑事たちの暴力に寄って不当逮捕されたと作り話をしてしまう。全学同東都大学支部は、城西署の前で、空知の不当逮捕に抗議をする座り込みに参加する。過激な発言をし、言われたままよく働く大津は、幹部の学生たちに気に入られ、住み込みのアルバイトをしていた中華料理屋で、夕食を奢る。大津は、自分の母親は、地元でデパートを経営し、中小小売店を潰している、吐唾すべき資本家だと言い、そんな母親からの仕送りは闘争のために使ってしまった方が好ましいのだと言う。結局、大津は明日、労働組合のストライキの支援闘争に参加することにする。
睦子は実家に帰る。睦子の父高木次郎(中村伸郎)は、戦時中自由主義的な研究者として東都大学の教授だった。しかし、自分の信念を曲げなかったため、特高の拷問により、視力を失っていた。姉の国縞子(岩崎加根子)が実家に戻ってきていた。夫で、東都大学助教授の国恭介(船越英二)と結婚していた。国は高木の教え子で、戦後進歩的な学者として発言していたが、縞子と離婚をして財閥の令嬢の教え子と再婚すると言う。国は、歴史研究会の部室で、社会思想史の自主ゼミを開いていた。
闘争は、右翼のスト破りや警察も入り混じって、暴力的な弾圧となった。全学同の学生たちは傷つき、検挙される。一人づつ取り調べを受けるが、皆黙秘を貫いた。ただ、大津だけは、刑事たちに、「お前は、東都大に在籍していないのに、なぜ偽装潜入しているのだ」と問い詰められる。刑事たちは、過激左翼組織か、海外組織から潜入し、学生たちを煽動しているのだと思っていた。大津は、母親に照会すると言われただけで、実は浪人が続き、母親に言いだせなくて、偽学生になったと自供する。あまりの顛末に刑事たちは、愕然とし、簡単に釈放する。他の逮捕者と違って、半日で釈放になったことで、会わせる顔がない大津は、頭への怪我で頭痛がすると言って、警察署前の学生たちから逃げるように去った。
数日後、木田達逮捕学生と空谷が釈放され、祝賀会をやると告げに、高木睦子が中華料理屋を訪ねてくる。当初は頭が痛いと隠れるようにしていた大津だったが、皆が疑っていないことを知り、また睦子が来てくれたことで、喜び勇んで祝賀会に出かける。皆大きな怪我をしても果敢に戦った大津を褒めた。一人、空谷は大津のことを知らず、皆逮捕された時に伝言を頼んだ新入生ではないかと答える。空谷は、逮捕拘留中、かなり内部の情報が漏れていたので、スパイがいるのではないかと言う。
木田と原田は、辻(?)から大津を学内で見ないと言う話を聞いて、学務課に行き、学籍簿を調べ、大津の名前が掲載されていないことを突き止める。その頃、大津は、睦子の付添いで、全学同の本部に出かけていた。辻はバイト先の初台ベーカリーの車を借り、大津を捕まえ、部室に連れてくる。みな、警察からスパイを強要されたのだろうと追及する。
彦一の母(村瀬幸子)野口里子(三浦友子)
党派でもなく、思想でも、集団でもなく、人間みな未熟で、卑怯で、矮小な生き物だなあ。悲しい寓話。かなりやられる。さすが増村保造!凄い作品は、とてつもなく凄い。
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