2009年7月4日土曜日

生まれた年に生まれた映画

   夕立の可能性も感じつつ、久し振りの太陽に、シーツやら洗濯し干す。
   ここ数日映画館の埃臭い空気を吸っていなかったので、昨夜深夜にやっていた堤幸彦監督の「溺れる魚」朝まで見てしまう。うーん、贅沢なキャスティングだし、アイデアも満載だが、散漫な映画だ。映画館で見た時に、仲間由紀恵がトリックの山田奈緒子に見えなければよしと言う感じなのだろうか。ということで、昼飯用のお握りを腰に下げ、

    京橋のフィルムセンターで、特集・逝ける映画人を偲んで2007ー2008。

     58年松竹大船木下恵介監督『楢山節考(376)』
      黒子が拍子木を打ち口上を述べて始まる。楢山の麓にある村、ある農家の納屋で石臼に葉を打ち付け折ろうかとしている老婆がいる。隣村から飛脚(東野英治郎)が、その老婆、おりん(田中絹代)を訪ねてくる。りんの長男の辰平(高橋貞二)の後妻に妹のおたまをどうかと言うのだ。おたまは三日前に夫を亡くしたと言う。おたま年齢を尋ね、45だと聞いて辰平と同い年だと喜ぶおりん。
辰平は、亡き妻の墓前で三人の子供と手を合わせている。そこに、りんが来て、嫁が決まったと言う。そんな気持ちはないと答える辰平だが、幼い子供たちを考え承知する。しかし、りんが、来年の正月には70になるので、心置きなく楢山さまに行けると言うのを聞いて肯けない。この村では、口減らしのために、70才になると楢山に捨てられると言う姥捨ての掟があるのだ。
    りんが食事の支度をしていると次男の袈裟吉(市川団子→猿之助)が、腹が減ったので、何か食い物はないかと言う。干したカタバミ?があるだろと答えるりんに、あんな硬いものは食えないと言う。かか様みたいに33本歯があれば、別だろと言う。そんなことはないと怒るりんをはやし立てて、歌いながら外に出て行く袈裟吉。♪うちのかか様、食い意地はって、鬼と同じで歯が33本♪
    ある日農作業から辰平が帰ってくると、近くの家から、りんの鬼の歯の歌が流れてくる。怒って中に飛び込む辰平。悪気はなかったが、お前の弟の袈裟吉がいつも歌っているので、つい歌ってしまったと謝られる。袈裟吉が、村のお社で、子供たちと歌っているのを見つけて、殴り掛かる辰平。袈裟吉は身軽に逃げる。親不孝もののお前などに飯なんか食わさないと辰平。
    辰平と子供たちとりんが、キノコ粥?の夕食を食べていると、袈裟吉が帰ってくる。袈裟吉に碗を手渡し、辰平に嫁が来ることが決まった、夫の四十九日が済んだらと言っていたが、それより早く祭りの時に来るんじゃないかと嬉しそうに報告する。辰平ではなく自分が嫁を取ると言う袈裟吉。夏の祭りの白ハギさまが来た。社では、皆が輪になって踊っている。この日は年に一度だけ、白ハギ(米の飯)が食えるのだ。白米が炊けた香りに、隣の老人、又やん(宮口精二)が、餓鬼のようにやって来て、釜の中に手を突っ込んで食べようとする。熱くて悲鳴を上げる又やんに、丼にご飯をよそってあげ、あんたは、ホントは、今年の正月に70才になったのに、楢山さまに行きたくないと駄々をこねて、息子夫婦にろくに食べ物がもらえないのだろう、だから、ベニやんはけちん坊だとはやされるのだと言う。隣のベニやん(伊藤雄之助)が、こんなところにいたのか恥さらしが!!と父親の又やんを引きずって行く。
   りんは、ふと、家の前に一人の女が佇んでいるのに気がつく。嫁のたま(望月優子)だ。りんは、朝から何も食べていないと言うたまを家に引き入れ、山盛りのご飯と自分が採った山女魚の干物などを出し、腹一杯食えと言う。直ぐに辰平を呼んでくると家を出たが、自分が70才目前でも痛んだ歯がないことで、物笑いにされていることを恥じて、前歯を石で叩き折った。血だらけになりながら、これで楢山さまに行けるのだと語るりんに驚きながらも、気持ちを汲むたま。
    社に血だらけで現れたりんに村人は悲鳴を上げた。辰平は、嫁が来たと嬉しそうに言うりんを背負い走って帰宅する。年に一度の白ハギさまかと、腹が立って、腹一杯食おうと、たまの丼に山盛りにし、自分も食べ始める辰平。
    刈り入れの季節だ。袈裟吉は、働きもせず、はらませたマツと遊んでいる。腹が減って腹が減ってしょうがない、もう家から出ていけと言われているので、あんたんちに行っていいかと言うマツ。ババアが早く山に行けばいいんだとうそぶく袈裟吉。鼠っ子になるのはいやだろうと言う。鼠っ子とは、曾祖父母の孫は忌み嫌われ、殺されるのだ。辰平と、タマ、りんが稲刈りをしている。収穫が終わり、冬が来て、年が明ければ、母親を捨てに楢山に行かねばならないと思うと、辰平のたまらない。そんな気持ちを逆なでするように、袈裟吉とマツは、りんに早く山に行けと言う。マツは、大飯喰らいで、家を追い出されたようだ。雪が降り始めては、山を登れないし、あまり早いと中々死ねないのだ。楢山に登ってから雪が降ることが幸せなことだとりんは言う。りんの話を聞いて、辰平は顔に手ぬぐいを当てて仰向けに横になり、タマは、何度も表に出て顔を洗った。

   「うばすて」と言う駅を蒸気機関車が通っていく。

   日本の山村の人間たちをこれでもかと描く今村版しか見ていなかった。木下恵介の映画を改めて見直そうと思った。浄瑠璃芝居のような口上から始まり、スタジオセットで繰り広げられる姥捨て物語。大船調どうも苦手だったが、松竹大船撮影所の力を見せつけられる映画だ。

   58年大映東京増村保造監督『巨人と玩具(377)』
   通勤するサラリーマンの群れ、その中に西洋介(川口浩)の姿がある。西はワールド製菓の宣伝部の新入社員だ。始業のサイレンがなる。ワールド製菓の専務の東隆蔵(山茶花究)に、宣伝部長の矢代光平(信欽三)が報告している。矢代は胃を押さえ元気がない。宣伝課長の合田竜次(高松英郎)が薬の時間ですと言うと、胃薬を飲む矢代。
   宣伝部の部員たちが雑談をしている。うちの会社のような係属会社は、役員の娘と結婚でもしないと出世出来ない。最近あまり成果を上げていない矢代部長も社長の娘と、課長の合田も八代の娘と結婚しているからなと言う。そこに合田が戻ってくる。一週間前に入社したばかりの新入社員の西に、君は学生時代ラグビーやっていたんだってな、自分もそうなんだ。ちょっと下の喫茶店に行こうと誘う合田。部員たちは、俺もラグビーやっていれば良かったなと愚痴る。
    喫茶店で、今度のキャンペーンは、ワールド製菓とアポロキャンディ、ジャイアント製菓のキャラメルの大手3社の三つ巴の戦いになるが、早くキャンペーンの景品を決めなければいけないのだが、いいアイデアがないかと尋ねるのだった。なんで拳銃の玩具をつけなければいけないんですかと聞く西に、喫茶店のショーケースを覗き込む若い娘(野添ひとみ)の姿がある。急に合田があの娘は面白いのでここに連れて来いと西に言う。垢抜けない娘のどこがいいのか分からないまま、声を掛けるが断られる。肩を落として、合田の元に戻ると、いない。そこに、娘を連れた合田がやってくる。有名女優の整形話をしながら、映画の試写会の切符を送ってあげるので、住所を書けと手帳を渡す。家に送ると弟たちに取られてしまうので、勤め先のタクシー会社に送ってくれという娘。娘の名前は、島京子といった。
   仕事が終わった西は、中学以来のラグビー仲間の横山忠夫(藤山浩一)と待ち合わせる。横山は、ライバル会社のジャイアント製菓の宣伝部に入っていた。学生時代の溜まり場に行こうと言って、歌声喫茶に行く。社会人1週間だが、二人は物足りなさを感じる。横山は、会社のつけが利く、バーに連れて行ってくれた。そこで、西は横山に、アポロキャンディの宣伝部の倉橋雅美(小野道子)を紹介される。横山は、ジャイアント製菓の懸賞商品がポケットモンキーなどの動物だと教えてくれた。倉橋は、宇宙服がいいわよとアイディアを売ってくれた。

   社会派的な題材は、増村保造に合わないのか、どうもバランス悪い映画だなあ。登場人物やエピソードが多すぎて、未消化な印象だ。

  フィルムセンターは、65才以上300円か。あと15年後も変わっていないといいなあ(笑)善男善女ですごい人だ。

    シネマヴェーラ渋谷で、神代辰巳レトロスペクティブ

    84年にっかつ神代辰巳監督『美加マドカ 指を濡らす女(378)』
    君代(美加マドカ)は未来マユミという名前で人気絶頂のストリッパーだ。大学生たちの間に親衛隊があり、レコードデビューの話もある。しかし昔の 男との赤ん坊がいる。更に半年前から舞台俳優の神西俊一郎(広田行生)と同棲していた。俊一郎の高校時代の同級生の勇人(内藤剛志)は、文具卸のしがない アルバイト。俊一郎の劇団の地方公演の間、ベ ビーシッターのように、君代と赤ん坊の世話をする勇人。君代は、俊一郎のいない寂しさで勇人に抱かれる。それ以来仕事をサボって君代の部屋にいつくように なるが、全てに気が利いて優しい俊との違いにかえって苛立つ。翻弄されながらも、実は憧れていた君代に尽くすことに喜びを覚える勇人。
   マユ ミのオナニーショウはますます大人気だ。ダンスのレッスンに赤ん坊を抱いて付いて行く勇人。低迷するストリップ界の救世主としてプロダクションの社長(白山英雄) は、アイドルストリッパーに子供がいることが分かるとまずいので、外で時間をつぶしてくれと言う。君代のアパートの大家(三戸部スエ)は、数えきれないネ コを飼う怪しい人間だが、君代の代わりに家賃を払いに行って以来、おしめを中庭に干す勇人に、何かと話しかけてくる。君代は、あの大家は気味が悪いと言う 割には、俊と勇人とどっちがいいのかと聞くと50:50、体は俊だったが、気持ちは勇人と言っていたと言うのだ。

   
   もう仕事をしていた頃の公開なので未見だった。意外に美加マドカが女優していて驚く。こうしたキャリアのない女優の使い方は神代辰巳本当に上手い。当たりだった。

   75年東宝/渡辺企画神代辰巳監督『アフリカの光(379)』
   北海道羅臼の港に、順(萩原健一)と勝弘(田中邦衛)が流れてきた。アフリカ行きの船はありませんかと、手当たり次第に声を掛ける二人は、町の漁師たちといざこざを起こして、彼らだけブタ箱にぶち込まれる。警察署長(河原崎長一郎)は、お前らみたいな余所者はどうせどこからか逃げてきたんだろう。直ぐにここから出ていけと言われる。
    二人は翌日に金も尽きたので、何の船にでも乗せてくれと声を掛け続ける。食堂にいた老人千代松(吉田義夫)が、ウチの船に乗れと言う。老人について行くと、孫娘がトンカチで直しているが、かなりのボロ船で一人二千円だと言う。その晩も夜の街で寂しく飲んでいると、女ふじ子(桃井かおり)が抱かれながら声を掛けてきた。金がないならさっさと帰れと言う。ふじ子の客峯一(峰岸徹)とさっそく揉めて逃げ出す。宿に戻り逃げる準備をしながら殴り合う二人。
   翌朝、刺し網でニシンを引き揚げる二人と千代松老人と孫娘のサヨ子(高橋洋子)の姿がある。数日働いた二人は、女の働く店に行き、迷惑を掛けたと稼いだ金を出した。ふじ子は喜び、奢りだと言う。勝弘とふじ子がベッドの中にいる。隣で横になっている順。次はお前がやれと勝弘が言うが遠慮する順。ふじ子は、もらい湯なので、風呂に行ってくると言う。しばらく待っていると、ふじ子が、ヤクザの組長穴吹(藤竜也)を連れて来る。組長は、自分たちは顔が割れているので、賭場の見張りをしてくれれば、五千円くれると言う。順はその気になったが、勝弘は、ヤバいことになるから止めようと言う。穴吹は、笑いながら明日その気になったら頼むと言う。サヨ子の継母の久美(絵沢萌子)が、夫の徳政の留守に峯一を連れ込んでいる。下の久美の喘ぎ声に、悶々とするサヨ子。
   翌朝順が目を覚ますと、勝弘はいなかった。朝飯かと、自転車に乗り、勝弘がいると思った定食屋に突っ込ませる。しかし、中にいたのは、街の連中だ。サエ子がやってくる。一人だと危ない、みんな別々になったときを狙っているのだと言う。順は、行き倒れの女を見つける。酔って寝てしまい、雪の中で凍死したのだ。悲痛な表情で抱き締めてやる順、しかし、乳房を弄り、荷物を改め財布から金を盗む。千円だけ女の懐に戻してやる。サエ子が見ているので、何枚かの札をやり、春まで黙っていようなと言う。漁具倉庫に入る二人。寒さに震えながら、ズボンと下着を脱ぎ始めるサエ子。しかし、順は何もしないで倉庫を出る。男たちが待ち伏せしている。殴られる順。
     その頃、勝弘は千代松老人と早朝に投げた刺し網の引き揚げをしている。その夜、順は穴吹の賭場の見張りをする。気の荒い漁師たちで賑わっている。客を連れて来るふじ子は、穴吹は余所からやってきたので、ここまで三年掛かったと言う。客の中に峯一がいる。有り金を擦った峯一が大声を出して、組員たちに廊下に出された。組員たちを賭場に戻し、峯一を抱き締めるように何事が耳打ちする穴吹。暴れ熊のような峯一が大人しくなり、小さな声で呟いて帰って行った。漁師たちに痛めつけられている順は、穴吹をかっこいいと思った。翌朝部屋に帰ると、クシャクシャになった千円札を枕元に放ったまま、勝弘は顔中魚の鱗だらけにして爆睡している。順が話をしようと色々ためしてみるが、疲れ果てているのか全く目を覚まさない勝弘。
    マグロ船に乗っていた徳政(小池朝雄)が帰って来た。女房の久美を殴って、俺の留守中何をやっていたか全部知っているぞと責める。逆に燃え上がる久美にのしかかる徳政。そこに大胆にも、締めたばかりの鶏と一升瓶を下げて峯一がやってくる。お前が変な癖つけるからやりにくいと言ってニヤリとする徳政。海岸にサエ子がいるのを見つけて、後ろから抱き付き、股間を弄る峯一。
   翌日も賭場の見張りに出掛ける順。


  役者としてのショーケンの最高傑作だなあ。田中邦衛、藤竜也それぞれとの同性愛的にベタベタした男の友情、真夜中のカウボーイを凌ぐ。数パターンが延々と繰り返される音楽の好き嫌いは別れるかもしれない。、ショーケンが中年になって、こうした輝きは無くなってしまった。ひょっとすると、ショーケンは、自分の演技を受けてくれる相手がいて輝きを増す役者なのかもしれない。

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