2009年4月21日火曜日

昭和の名匠たちにも、出来不出来はある。

    神保町シアターで、昭和の原風景
    39年東宝東京成瀬巳喜男監督『はたらく一家(262)』
    印刷所の職工の石村(徳川夢声)の一家は正に貧乏人の子沢山の大家族。妻のツエ(本間敦子)に父母、長男の希一(生方明)を筆頭に、源ニ(伊東薫)昇(南青吉)栄作(平田武)幸吉(坂東精一郎)長女ヒデ(若葉喜世子)にまだ赤子がいて、7人兄弟。11人家族だ。朝食も、働きに出る夫と三男までが最初に取り、次に祖父母と下の子供たち、最後に、ツエが食べながら片付けてようやく終わる。家計のやりくりで、ツエから愚痴が出るのもしょうがない。
    栄作は、中学に進学したく、小僧にはなりたくないが、そんなお金の余裕はない。同じ長屋の松ちゃんの家にお嫁さんが来るのだが、そのお祝いの工面が出来ず、栄作が少ない小遣いをコツコツ貯めた2円を、ツエは当てにしている。去年の秋に貸した70銭さえ返して貰っていないのに。近くの喫茶店の娘みっちゃん(椿澄枝)は、源ニと同級だったが、長男の希一と相思相愛らしい。希一は、今勤めている工場の仕事は賃金も上がらず、このままでは結婚どころではない。昼間でも夜間でも電気学校に通い、電気技師になりたいという夢があり、親切な工場の組長に相談しているが、問題は、希一が家を出ることは、石村家の家計は破綻してしまうのだ。栄作も小学校の鷲尾先生(大日方伝)から、進路をお父さんと相談したかと聞かれたが、父親には言い出せずにいる。

    37年松竹大船五所平之助監督『花籠の歌(263)』
    銀座のトンカツ料理の港屋は、欧州航路のスチュワートをしていた森敬造(河村黎吉)が始めた店。コックの李さん(徳大寺伸)の腕と長女で看板娘の洋子(田中絹代)の人気で大繁盛していた。大学生の小野進(佐野周二)と堀田念海(笠智衆)は常連だ。李さんは、洋子のことが好きだったが、洋子は小野のことが好きだった。東北弁の強い下女のおてる(出雲八重子)は、李さんのことが好きで、何とか慰めようとするが、想いは届かない。
   ある日、叔母のお菊(岡村文子)から電話があり、明日の11回忌の法要の準備は出来ているか尋ねてきた。すっかり忘れていた敬造と洋子は、坊主の息子の堀田に読経を頼む。洋子と妹の浜子(高峰秀子)の母親は、シンガポールで亡くなり、骨も持ち帰れなかった。法事が済むと、叔母のお菊と夫の富太郎(谷麗光)が、洋子に縁談話を持ちかけた。大病院を経営する医者の岡本(近衛)。岡本は何度か店に来ていた客だ。
   恥じらいながらも、縁談に後ろ向きな洋子を見て、敬造は娘に好きな男がいるのだと思った。李さんに、洋子が好きな男を知っているかと尋ね、お互いが想い合っているなら叶えてやろうと思っていると言った。李さんは、自分の想いが叶ったのだと夢を見るような気持ちで、知っている、自分からは言えないので、堀田から聞いてくれと答えた。翌日、小野の下宿を敬造がいきなり尋ねて来る。君はトンカツ屋に婿入りする気はあるか、今晩中に結論を聞かせてくれと言って帰っていく。

   徳大寺伸、「按摩と女」の按摩役といい、この朝鮮から来た純情な青年といい、なかなか素晴らしい。

     41年南旺映画成瀬巳喜男監督『秀子の車掌さん(264)』
    山梨県の田舎町、オンボロで汚いバスが走っている。車掌のおこまさん(高峰秀子)が、急に次の停留所は井上です、と言うので驚く運転手の園田(藤原鶏太/釜足)。客は一人も乗っていない。余りに退屈だからと言うおこまさんに、いつ客が乗ったのかと思ってびっくりしたよと言う園田。二人は一台しかない甲北バスの運転手と車掌、こんな調子じゃ今月も給料は出ないなと話している。後ろから、ライバルの開発バスが追い抜いていく。向こうは新型のバスで客も満員だ。
   停留所じゃない場所で男が手を挙げる。停めると大荷物だ。おこまさんも園田も荷物を積むのを手伝う。トラックと間違えてやがると園田。次の停留所は子供をおぶった女だ。停めたら、ぞろぞろと子沢山だ。こんなに満員なのに、売上は20銭だ。客たちも、開発のバスの方が速いし乗り心地はいいが、あっちは混んでいるから、こういうときは甲北だと話している。
   おこまさんは、実家の傍で少し待っていてもらい、穴の開いたズック靴を下駄に履き替え、母親に単衣の反物を贈る。バスを出すと、弟が遊んでいたので、菓子を投げてやった。勤務が終わって下宿の金物屋に戻る。下宿のおばさん(清川玉枝)が、子供をあやしながら、あんたの会社はずいぶんあくどいこをやっているらしいと言う。確かにバスが一台しかなくてバス会社は赤字なのであり得るわとおこまさん。おこまさんは、店の手伝いや、買い物を手伝ったりしている。
   夜、おばさんが、ラジオでバスの車掌さんが名所案内をしている番組をやっていると聞かせてくれた。自分もこれをやれば、少しはお客さんが増えるんじゃないかとおこまさんは、翌日、園田に相談する。園田は、社長に話してやると言ってくれ、社長も金がかからないならと認めてくれた。しかし、何と喋ればいいか分からない。園田は、小説家の井川(夏川大二郎)が東京から湯治にきているので、頼んでみようと言う。退屈していた井川は快く引き受けてくれる。
 
    49年新東宝清水宏監督『小原庄助さん(265)』
   杉本左平太(大河内伝次郎)は、かってはこの辺り一番の大地主の旧家の当主だったが、土地が無くなった今も、朝湯朝酒、更に村の青年団には野球道具やユニフォームを、娘たちにはミシンを寄付し、小原庄助を自でいく生活を送っていた。村人たちにも、小原庄助さんとしての方が通りが良かった。青年団がユニフォームを左平太の分まで持ってきて記念撮影をしようとおだてられれば、ピッチャーをやって打球を急所に当てたり、娘たちのミシンには、洋裁の先生としてやってきたマーガレット中田(清川虹子)という派手で煩いおばさんかやって来て、5台のミシンは朝から騒がしく、おちおち朝寝をしてもいられない、なかなか愛すべき人物で、村人たちから愛されていた。
   借金取りの紺野青造(田中春男)がやってくると、妻のおのぶ(風見章子)にいつものようにしておけと言い残し、左平太は寺に逃げ出し和尚の月岡海空(清川荘司)と碁を打って時間を潰す。借金取りはお茶変わりと言って出される酒で、酔い潰れてしまうのだ。大旦那の時代からこの家で働いているおせき婆さん(飯田蝶子)だけが、没落していく杉本家を嘆き、生まれた時分から面倒を見ていた左平太には小言を言う。
   ある日、村長が無くなった。隣の部落の吉田次郎正(日守新一)が、左平太を料亭に呼び、村長選に出るのだが、応援演説をしてもらえないかと言う。次郎正は、村の文化振興をというが、社交ダンスやのど自慢などしか、公約がない。酒を飲みながら、託児所の解説などを公約に加えてしまう左平太。
   翌朝、部落のみんながやってくる。家柄の格として、村長選に立つのは、左平太しかいないと、説得に来たのだ。とりあえず、皆にまず一杯と言うが、酒が切れている。おせきは左平太が村長になるのだと大喜びで酒を買いに行く。途中、和尚に会い、左平太が村長になる前祝の宴会なので、屋敷に来て、どんどんおだててくれと言う。和尚が屋敷に行くと、左平太は、みなに、昨日既に、次郎正の応援演説をする約束をしてしまったので、立候補は出来ない。この部落の代表は人格者の和尚がいいと言う。目を白黒させる和尚。
   辻に立ち、とにかく公僕として、村民のために働くと演説している和尚。そこに、トラックを仕立てた次郎正陣営が演説会の案内をして通りかかる。公民館で、応援演説に立つ左平太は、次郎正の公約を皮肉る演説をする。結局、投票の結果、次郎正が勝った。左平太の屋敷には、和尚の宴会の支度がされている。そこに、次郎正陣営のものが祝勝会に誘いに来たが、和尚の残念会をやるのだと断る。和尚が現れないので、とりあえず、飲み始める。和尚は、ポスターを貼った灯篭の掃除をしている。そこに、ロバに乗った左平太が現れる。おめでとうという左平太に、いくらあんたでも冗談を言うのは許せないと怒る和尚。次郎正が選挙違反で失格したので、和尚が村長になることが決まったのだと左平太。
   左平太と和尚が話していると、金貸しの紺野の姿が見える。慌てて逃げ出す二人。寺に行くと、紺野は先廻りしていた。

    48年蜂の巣映画部清水宏監督『蜂の巣の子供たち(266)』
    敗戦後すぐの下関駅。引揚げ兵たちでいっぱいの列車が止まっている。東京行きのその列車で皆帰郷していくのだ。戦災孤児たちが、何か飯のタネがないかと駅をうろついている。一人の若い兵士島村修作(岩波大介)、一人が列車から降りてくる。

0 件のコメント: