2009年3月5日木曜日

タンドリーチキンでビール。

     シネマート新宿で新東宝大全集。52年新東宝成瀬巳喜男監督『おかあさん(129)』
     18歳の年子(香川京子)は、父ちゃん、母ちゃん、兄の宏、妹の久子、母ちゃんの知り合いの紀子おばさん(中北千枝子)の息子鉄男を預かっているので、6人暮らし。父ちゃん(三島雅夫)は、元は、腕のいい洗濯屋の職人だったが、今は工場の門番をしている。アイロンを持って鍛えた腕っぷしでポパイ父ちゃんと子供たちは呼んでいる。兄の進(片山明彦)は、羅紗屋に奉公に上がっていたが、羅紗の埃に胸を患い家で伏せっている。妹の久子(榎並啓子)は、見かけの割にお洒落で少し生意気だ。鉄男(伊東隆)は、今日もおねしょをして、一緒に寝ている年子は、布団を乾かさなければならないし、臭くて堪らない。母ちゃん(田中絹代)は朝から晩までよく働き、子供たちから慕われている。
父ちゃんが自転車で出勤すると、母ちゃんは、手押し車で街に出かけ、菓子を売っている。年子は、今川焼きの露天を出している。友達が洋裁学校に行っているのを羨ましいと思っている年子。平井ベーカリーの息子、信二郎(岡田英次)は、配達をサボって、いつも敏子の今川焼きの屋台に来る。
    今川焼きの屋台は夏にはアイスキャンデー売りに変わる。信二郎は、フランスの恋愛小説を読んでくれた。転地療養に行っている筈の進兄ちゃんがいなくなったと、療養所から電報が来た。せっかく高い金出したのにと怒る父ちゃん。しかし、母ちゃんは帰ってきた進兄ちゃんに優しくしてやり、好物の夏蜜柑を食べさせてやるのだった。しかし、進兄ちゃんは亡くなった。
    父ちゃんは一念発起し借金までして、クリーニング屋を開店する。夜遅くまで、準備をしている父ちゃん。父ちゃんは、醤油をかけた炒り豆さえあればご機嫌だ。父ちゃんの弟弟子の木村庄吉(加藤大介)が手伝いに来ることになった。木村はハバロフスクで捕虜として抑留されていたので捕虜のおじさんと呼ぶことになった。しかし父ちゃんは開店直前に眩暈がして倒れる。医者からは無理のし過ぎで、いつになれば完治するか判らないと言われてしまう。しかし、母ちゃんがどんなに言っても、入院するのは嫌だと言う父ちゃん。捕虜のおじちゃんは、義理堅く安い給料で働いてくれたが、10月のある日、父ちゃんは突然発作を起こして亡くなった。
    紀子おばちゃんは美容院に住み込みで働いている。美容師試験のために、久子は練習台になって、自慢の髪を切られておかっぱ頭にされてしまった。ある日しんちゃんがピクニックに行こうと敏子を誘う。迎えに行くと久子と鉄男の瘤付きだ。しかし、ジャムやクリーム、カレーなど色々な具の入った風変りなピカソパンを作って持ってきてくれた。しかし、近所の人たちが、捕虜のおじちゃんと母ちゃんが再婚すると話していると聞いて、子供たちの母ちゃんであって欲しいと、思い悩む。洗濯屋の借金を心配するばあちゃん(三好栄子)は、自分の着物を持って来た。また叔父さん夫婦(鳥羽陽之助、一の宮あつ子)はかって父ちゃんに話して内諾をもらっていた、息子が戦死したので久子を養女にと言う話を再び、母ちゃんにする。年子は猛反対する。
   敏子は、今まで以上に洗濯屋を手伝う決意をするが、その意欲は空回りして、中折れ帽子を染め直してくれと言う注文と、マフラーの洗濯で大失敗してしまう。帽子は捕虜のおじちゃんがうまいこと取り繕えたが、マフラーの客には弁償しなければならなくなった。母ちゃんは自分の着物を質入れしようとするのを、自分の着物のほうが派手だから少しはいいお金になるので、持って行ってくれと言う年子。その話を黙って聞いている久子。
  その夜、久子は、年子におじさんの家に行こうと思っていると言いだす。久子に怒りながら、どうしていいのか分からない年子。久子が叔父さんの家に養女に行くことが決まり、母ちゃんは、年子、久子、鉄男でどこかに行こうと言いだした。向ヶ丘遊園地に行き、色々な乗り物に乗る。乗物に弱い母ちゃんは途中具合が悪くなる。しかし、沢山の思い出を作ることができた。翌日、叔父さんが久子を迎えにきた。鉄男は、大事にしていた空き箱を餞別に渡す。
   その少し後に、典子おばちゃんがやってくる。いよいよ美容師のコンテストがあるので、年子にモデルになって欲しいと言う。テーマは、和装の花嫁姿。高島田に結い、花嫁衣装を着せてもらう年子。とても初々しくて、美しい年子の姿に母ちゃんの目は潤んでいる。その時、信二郎が現れ、敏子の花嫁姿を見て、ショックを受ける。慌てて店に帰り、父親(中村是好)と母親(本間文子)に、としちゃんが嫁に行ってしまうと伝えて落ち込んでいる。とりあえず、母親がお祝いを言いに出向くと、コンテストのモデルになっただけだと分かりひと安心する。嫁に行くなら、ウチに来てもらわなければと言って帰る信二郎の母。その言葉に、年子は赤面した。
   おせい(沢村貞子)の世話で、山本邦彦という16歳の小僧さんがやってきた。母ちゃんと小僧で店をやっていくことになり、木村は出ていく。今回のことで、少しだけ年子は成長する。
18歳にしては、年子は少し幼いが、その分、香川京子の可愛さは爆発だ。特に花嫁衣装を着て岡田英次に、いたずらっぽく、舌をペロッと出したり、ウィングしたりするところは、当時の青少年を大いに、萌えさせただろうな。里子を預かったり、養女に出したり、大変な時代だったんだろうな。名もなく貧しく美しく(?)な世界。酔って暴れたり、殴ったりする父ちゃんや、ヒステリー起こす鬼ババのような母ちゃんや、狡くてかっこ悪い兄ちゃんや姉ちゃんを持った多くの子供はこの映画で癒されたんだろうか。
    神保町シアターで、東宝文芸映画の世界
    55年東宝筧正典、鈴木英夫、成瀬巳喜男監督『くちづけ(130)』満席だ。
   第1話「くちづけ」筧正典監督。大学の教室。長谷川教授(笠智衆)の国文学の試験中、夏目くみ子(青山京子)は、後ろの席の河原健二(太刀川洋一)から2問目の答えを教えてくれと頼まれる。くみ子の答えを見て6問目も直して提出する。試験が終わってキャンパスを歩く二人。2問目も6問目も間違えていたことが分かる。腹が空いたのでラーメンでも奢れと健二は言う。健二はいつも腹を空かせている。しかし、今日は伯父に会わなければならないので駄目だと言う。
    ビフテキをがつがつ食べているくみ子。伯父は、頼みがあると言う。未亡人の恋愛と結婚についてどう思うかと尋ねられる。亡くなった夫に貞節を守る必要はないので、大いに結構だと答えると、くみ子の義姉の倫子(杉葉子)の縁談のことだと言う伯父。くみ子の兄の雄一が亡くなって3年、若く美しい倫子に、このまま夏目家にいてもらうことがいいことなのかと伯父と母は心配しているのだと言う。自分たちから言うと、追い出そうとしていると思われるかもしれないので、くみ子からそれとなく倫子の意志を聞いてほしいのだと言う。
    帰宅すると甥の宏が遊んでいる。倫子は外出しているという。夕方になって帰宅した倫子は銀座の美容院で長い髪を切ってきたのだ。マニュキアまで塗ってきたと言う。翌日ある宏のPTAに出席するためだったのだが、華やかで美しい倫子の姿を見て、急に女を感じて、縁談の話を不潔なものに感じてしまうくみ子。結局、縁談の話を切り出せなかった。翌日、健二に、未亡人の再婚は、賛成だと思っていたが、現実に倫子のこととなると納得できない自分がいると話す。兄とは恋愛結婚で、永遠の誓いをした訳だから、一方が亡くなったからといって割り切れるものだろうかと言うのだった。男の再婚が許されるなら、女にも当然だろうと言う健二。二人は、議論をし続け、気が付くと銀座まで出てきていたことに気が付き笑い合う二人。
    帰宅すると、伯父の車が停まっている。縁談の話だと聞いて、宏を連れて散歩に出かけるくみ子。宏が凧が欲しいというので、買ってやる。既に伯父は帰っていた。くみ子の部屋に倫子がやってくる。再婚にまだ割り切れないものがあるので、縁談話は断ったという倫子。宏のために再婚をしない訳ではなく、まだ雄一のことが好きなのだと聞いて、くみ子はなにかほっとするものを感じる。倫子は、不道徳に思うかもしれないが、結婚前に凧が沢山上がっている土手で、雄一と接吻したと話す。
    翌日、キャンパスで健二に、倫子の話をするくみ子。すると、旧友が、長谷川教授から出頭するようにという二人宛の手紙を渡す。カンニングがばれたと思い、健二のアイディアで、手を上げて教授室に入る二人。その手は何のおまじないだ。胸糞が悪いので手を下せという教授。かなり不機嫌そうだ。先日のテストでカンニングしたのは、自分がくみ子に無理に頼んだので自分の責任だと言う健二。健二を庇うくみ子。しかし、テストの採点は済ませたが、気が付かなかった、改めて確認するという教授。私も経験はあるが、ばれたことはなかった、まあ自首したことは考慮に入れてやろうと言う教授。実は、二人が、京橋にある温泉旅館から出てくるところを見たという匿名の投書があったので、それを聞こうと思ったのだと話す教授。温泉旅館は事実だが、先日議論をしていたら夢中になって、銀座まで行ってしまった。健二が空腹を訴えたので、お金がなく、以前自分の家の女中が嫁いだ先がその旅館で、タダで食事を御馳走してもらったのだと言うくみ子。教授は、その話を信じ、もし自分が若い女性と交際することになったら、その温泉旅館を紹介してくれという教授。教授室を出て、カンニングの件も、正直に話してよかったと話し合う二人。振り向くと、窓から笑顔の教授が手を振っている。振り返すくみ子。
   その後、二人はくみ子の家の近くの河原を歩いている。草の上で、横になり、空を見ている二人。目をつぶっているくみ子の姿を愛おしいものに感じて、接吻する健二。くみ子は、急に立ち上がり、プロポーズもしていないのに、接吻をする健二を汚らわしいと言い泣き出す。君と話したり、ラーメンを食べたりしていた今までの行動全てが、プロポーズだったと言う健二。しかし、気持ちの高ぶったくみ子は、自分の混乱する気持ちに走り出す。土手を歩くくみ子。倫子と宏が凧を上げている。笑顔になり二人に駆け寄るくみ子。
  青山京子、ポスト吉永小百合だったのだろうか。印象が少し重なる。笠智衆の長谷川教授がなかなかの好演。
第2話「霧の中の少女」鈴木英夫監督。
  会津の農村にある雑貨屋で店番をしている少女妙子(中原ひとみ)。郵便屋が速達の葉書を持ってくる。姉の由子宛だ。中身を一読して大変 だと店の外に走り出す妙子。置いて行かれた郵便屋は、無人の店で困っている。
    農作業をしている妙子の父半造(藤原釜足)、母テツ子(清川虹子)、祖母八十子(飯田蝶子)のもとに行き、手紙を読む妙子。由子の大学の同級生の上村英吉(小泉博)が夏休みを利用して友人のもとを貧乏旅行していて、旭川の友人の所から由子の家にもやって来て、2,3日泊めて貰えないか、29日の午後4時半に駅に迎えに来てくれ、ご家族が反対であれば、そのまま帰ると書いてあった。
   29日であれば今日のことだ。嫁入り前の娘のもとに若い男が泊めてくれと言うのだから、半造とテツ子は言い争いになるが、八十子の言葉もあり泊めることになる。川にいる由子の元に走る妙子。由子(司葉子)は、弟の信次(伊東隆)と魚とりをしている。妙子は、手紙を読み、歓迎してくれると伝える。
   駅で上村を待つ、由子、妙子、信次。やってきた上村に親の了解が出たと話すと、金は無いし、腹が減って東京まで持たないので、助かったと言う。着たきり雀の上村に妙子は汗臭い!!と叫ぶ。私は16歳の思春期だから、時々奇妙なことを言い出すかもしれないわと妙子が言うと、信治は思春期って何?と聞いて怒られる。バスに乗り由子の村に行く。シャツを脱いで、ランニング姿の上村。風呂に入っている上村のリュックサックを片付けている由子と妙子。「どれもこれも男臭い。でもお風呂長いわね」と言う妙子に、「そんなに臭くは無いわよ。妙ちゃんが、あんまり臭い臭い言うから気にしてるんじゃない」と答える由子。荷物の中に洋書を見つけ、上村さんアカなの?コミュニストって書いてあると尋ねる妙子。フランスの小説よと由子。リル…リルケ?と妙子、あんたよく読めたわね、上村くんは、ドイツ語読めるし、詩も書くのよと由子。妙子は詩集の中に、上村と男女が写った写真を見つける。これは旭川の?くん、女性は妹さんじゃないの?と由子が答える。
    夕食になり、何もないですがどうぞと言う半造に、悪気なく、こういう田舎では何を食べても美味しいですと答える上村。微妙な表情の半造とてつ子。微笑む由子。北海道はどうですかと半造。雄大でとてもいいところですと上村。地元を自慢したくて半造は、ここも冬はいいです。雪が偉大に降って山までずっと真っ白ですと言う。妙子が、ご飯お代わり、偉大に大盛でと笑いながら言う。ニコニコみていた婆ちゃんが、私もビール貰うもんかねと言い出す。お飲みになりますかとコップを渡す上村に、これでも若い頃は村の男と飲み比べで、1升呑んだもんだ。半造ビール持ってこいと言う婆ちゃん。土間に立った半造にやっぱり泊めるんじゃなかったとてつ子。再び言い争いになる。会津磐梯山を歌って盛り上がる婆ちゃん、上村、子供たちの声を聞いて、口喧嘩疲れで、座り込む半造とてつ子。
    翌日、信次と川で魚を捕る上村。西瓜を持って来る由子と妙子。美味しそうに食べる上村。妙子に作文を読ませる由子。出来がよく、先生に誉められたのだ。両親をテーマに、高等小学校しか出ていない二人が、喧嘩をしながらも夫婦仲がよく、暖かい家庭を築いてきたことが分かる作文だ。作文だけでなく、両親を褒められ笑顔の妙子。店で片付けながら、自分たちは出会ってすぐくっついてしまったので、やはり由子の純潔を心配する半造とてつ子。やはり口喧嘩になり、売り言葉に買い言葉で、子供たちで近くの温泉に行かせればいいでないかとてつ子。それを耳にした婆ちゃんは、子供たちの所に行き、母ちゃんが明日温泉に行けと言っているからお礼を行ってこいと言う。喜ぶ子供たち。
   バスで山あいの温泉に出掛ける上村たち。上村と由子が過ちを犯さないように見張らなければならない妙子は責任重大だ。一方半造とてつ子は気が気でない。まだ若いと思っても、自分たちが結ばれたのは、もっと早い。いくら高等教育を受けているとはいえ、所詮若い男だ。言い争いというより、二人で話せば話すほど不安は増す。婆ちゃんが今から最終バスに間に合うなと言って立ち上がる。助かったという顔で、婆ちゃんも心配だべと言うてつ子に、こういう時でもないと温泉に入れないからなと言う婆ちゃん。
    夜ふと妙子が目を覚ますと隣に寝ている筈の由子がいない。隣の部屋の上村の寝床も空だ。不安になり、夜霧の深い外を姉を呼びながら走り回る妙子。泣きべそを書き始めた妙子は、下から登ってきた婆ちゃんを見つける。姉ちゃんたちがいなくなったと言う妙子。しかし、「菩提樹」の歌を歌いながら近付いてくる若い男女の声がある。やってきた由子に、何で私を残して外出したの?心配したんだから、と怒る妙子。あんたが寝ていたからよと笑いながら答える由子。みんなで笑った。実は由子は、上村から東京に帰ったら自分の両親に君の事を話そうと思っているが、いいかいとプロポーズを受けていた。
婆ちゃん、由子、妙子が女湯に、上村は男湯に入っている。仕切りは薄い一枚板なので、4人で入っているようなものだ。一緒に民謡を歌う。
   翌日いよいよ上村が帰る。送り出した後で、冬も来て下さいとお前は言ったが、冬はまずい。コタツの中でいくら手を握りあっても、回りからは分からないからとてつ子に文句を言う半造。お前たちは随分ワシの知らない所で色々やってたんだなあとニコニコして言う婆ちゃん。駅では、由子が夏休みが終わって東京に戻るまでの暫しの別れの挨拶をしている。冬に必ず来てねと言う妙子。北海道土産の小さな木彫りの熊を友達になった記念にと、妙子に手渡す上村。汽車が出る。妙子は由子に婆ちゃんから聞いたけど、大学を出たら上村さんと結婚するの?と尋ねる妙子。頷く由子を見て、去っていく汽車に向けて大きな声で「上村さん、おめでとう~」と手を降る妙子。
   目がくりくり動いて中原ひとみが本当にかわいい。
   第3話「女同士」成瀬巳喜男監督
   金田医院金田有三(上原謙)の妻秋子(高峰秀子)が電話を受けている。田辺さんのところのおじいちゃんが具合悪くなったので往診してほしいと伝える。看護婦のキヨ子(中村メイ子)はてきぱきと、往診の支度をしている。姑(長岡輝子)が、天気がいいので布団を干している。キヨちゃんの布団も干そうかなと言って、押入れを開け布団を引っ張り出すと、郵便貯金の通帳と日記帳が転がり落ちる。日記帳を読みだす秋子。キヨ子が夫のことが好きだと書いてある。最初は笑いながら読んでいたが、終いには腹を立てて、結局布団も干すのを止める。
   外出する秋子。兄(伊豆肇)と喫茶店で会う。キヨ子の恋愛を相談する秋子。農家の生まれで、看護婦養成所を出てすぐ、金田医院にやってきて22歳になること。月給3000円のうち2300円ずつ、きっちり貯金していることなどを話していると、お前んちは喧嘩しているんだろ、喧嘩しているうちは夫婦は大丈夫、若い女の子にとって恋愛なんて風邪みたいなものだと言われる。考え込む秋子。
   秋子は、よくキヨ子と口げんかをしている八百屋の息子の清吉(小林桂樹)に目をつける。翌日さっそく八百屋に行き、じゃが芋を1貫注文し、キヨ子をどう思うか聞き、キヨ子が清吉のことを想っていると吹き込む。まんざらでもない清吉。一方、キヨ子にも、八百屋に行くと清吉がキヨ子のことばかり、話していると告げる。どう思う?と聞くと、実は好きな人がいるんですというキヨ子。嫉妬心を感じて、意地になる秋子。秋子の工作は成功し、清吉とキヨ子は互いを意識し始める。
   お祭りの夜、病院を抜け出したキヨ子は、清吉とどういう家庭を築きたいか話している。ふと気が付くと病院の前に、救急車が停まっている。妊婦が倒れ、応急処置をした末、大病院の産科に搬送するところだった。外出するなとは言わないが、行き先ぐらい告げて行けと怒る金田。泣きながら謝罪するキヨ子。清吉の父親の許しも出て、結婚することになる。秋子は、全てを金田に告白する。苦笑する金田。出雲から電話があり、後任の看護婦の手配がついたとのことで、キヨ子の結婚式も決まった。部屋を片付けているキヨ子に、日記帳を記念に貰えないかという秋子。実は、ある時偶然読んでしまったのと言い、これを婚家に持っていくと清吉たちにあらぬ疑惑を受けることになると思うのでと秋子。最近読み返して恥ずかしくなったと言うキヨ子。
   兄に一件の報告をして帰宅すると、金田の元に、新しい看護婦の松田(八千草薫)が来ている。キヨ子と同じ22歳。とても美しい娘だ。秋子に松田を紹介し、お茶を入れてくれないか、そうだ紅茶がいいと言う金田。また、新たな悩みの種が生まれて複雑な表情の秋子。
  
    63年東宝筧正典監督『妻という名の女たち(131)』。
    披露宴に列席している魚住浩三(小泉博)と雪子(司葉子)。新婚夫婦を見ながら、冷めた目で、自分たち夫婦にも、そういう日があった。愛情と親しみに溢れて祝福された日々が、2日前のあの日まではと心の中で呟く雪子。
   代々木上原の一戸建て、寝ている浩三を起こす雪子。雪子の頭は寝起きのままだ。時間がないと今日も、牛乳を飲んだだけで出勤していく。息子の一郎の食事の面倒をみながら、毎晩深夜の帰宅について一言言うと、仕事だからしょうがないじゃないかと答える夫の言葉を思い出しながら、夫が倒した花瓶とお色気記事が満載の夕刊紙を片付ける雪子。洗濯ものを干していると、義妹の千花(八代美紀)が、やってくる。雪子の女学生時代の友人柿崎靖子(団令子)の洋品店で働いている。雪子が頼まれている刺繍を取りに来たのだ。千花を待たせて最後の仕上げをしていると、玄関のチャイムが鳴る。雪子が出てみると、見たことのない女(左幸子)が立っている。八杉夏代と名乗り、いつも店の帰りに浩三を送っていると言う。北海道漁業の株式を200株譲ると浩三から聞いていると思うがという夏代。全く聞いていない雪子は、隣家で電話を借り、会社の浩三に尋ねる。会社に電話するなと言っているだろうと叱りつけ、夏代は知っているが、株券のことは知らないと言う。浩三は、証券会社のセールスマンだ。
   夜、夏代のBAR BLACKに行く浩三。近くの店で食事をしながら、今日俺の家に来たんだって?と尋ねる浩三。まずかった?と答える夏代に、女房とは別れるつもりだから、感づかれてもかまわないが・・・と浩三。今、借りが溜っていていて、現金じゃないと酒も売ってくれないのよと言う夏代。浩三と夏代は、交際して1年半、女房を別れて結婚すると、そのうち、そのうちという浩三の返事に文句を言う夏代。
   靖子のマンションの前で一郎が遊んでいる。靖子の夫洋介(児玉清)が出張から帰って来て、ママと来ているのかいと尋ねる。夏代が来たことで、雪子は一郎を連れて仙台に帰ると書置きを残して靖子の家に泊ったのだ。靖子は、洋一の手取りは自分の5分の1だし、浮気も出来ないくらい尻に敷いていると思っている。洋一に紅茶を入れさせる靖子。洋一を引き取って働くという雪子に、止める靖子。
   靖子に説得されて帰宅する雪子。自宅の灯りが付いている。今日は早く帰って来たのだと、ドアを開けると、玄関に女物の草履がある。仙台に帰ったんじゃなかったのか、株券のことでちょっと夏代が寄ったんだと慌てる浩三。憮然とする雪子。とりあえず今は帰ってくれと夏代を帰す浩三。私は別れないと言う雪子に、一郎のこともあるし、別れるなんて言ってやしないと答える浩三。あの女と手を切って下さる?と言われて約束する浩三。別れてくると言って出かけるが戻ってこなかった。
   靖子が経営する銀座の洋装店マドレーヌ。靖子の弟の邦彦(当銀長太郎)がやってくる。邦彦は、千花と結婚しようとしていたが、ジャズミュージシャンという職業のせいで、千花の父文吾(藤原釜足)、長兄の健一(北村和夫)に反対されていた。今日も再び、結婚を許して欲しいと頼む千花と邦彦。世間体を気にして、魚住家の娘の夫には相応しくないと頭ごなしに反対する健一に、靖子から口止めされていたにも関わらず、浩三兄さんなんてバーのマダムと同棲して家に帰らないのよと言ってしまう。
   1週間ぶりに浩三が帰宅する。嬉しくて涙ぐむ雪子。帰りに一郎をうさぎ屋に連れて行ってショートケーキでも食べさせてやるよとと言う。帰りに?と尋ねると、あの女と手を切れるかどうか自信が無くなった。このままだとお互い苦しいから、仙台の義父さんを呼んでくれ、今後のことを相談するからと言い、身の回りのものを取りに来ただけだと言う浩三。雪子のスーツケースを貸してくれと頼む浩三。雪子は、牛乳をコップに注いであげると、ありがとうと言う浩三。そのスーツケースは、新婚旅行の時に持って行ったものだわ、その時あなたは私に荷物を持たせようとせずに、ずっと持って行ってくれたと涙ぐみ、私の知らないネクタイねと言う雪子に、少ないけど2万円、離婚が決まるまで毎月送ると言う浩三。その時ブザーが鳴り、長兄の健一がやってくる。浩三は帰っていないのかというので、今はいますがと答える雪子。魚住家のいい恥さらしだという健一に、夫婦のことは放っておいてくれと言って家を後にする浩三。雪子は、隣家の息子の勇(坂下文夫)に遊んでもらっていた一郎を連れて戻ると、既に浩三はいなかった。パパは?と尋ねる一郎に、駅に行ったわと答えると、一生懸命追いかける一郎。電車に乗った浩三は、駅の外から、自分を呼ぶ一郎の姿を見つける。窓を開け、身を乗り出して手を振り続ける浩三。
   夜になり、夏代が帰ってくる。家から持ってきたパジャマを着ている浩三が、家に戻って身の回りの物を持って来たんだと言う。自分が買ってきたパジャマに着替えさせ、こんなものまで持って来たの?と電気スタンドを手に取る夏代。まだ使えるんだからと言う浩三に、奥さんの家庭の匂いのするものは、持ちこんで欲しくないと涙ぐむ夏代。
   一郎を幼稚園に送りだす雪子。浩三が家を出てから既に一か月が過ぎた。隣家の田代ふみ(中村美代子)が野菜を持って勝手口に現れ、息子の勇が、別れた夫のもとに行ってしまったという。後妻に子供が出来ない夫は、度々勇を呼び出して小遣いをやり、甘やかして自分の家に引き込んでしまったのだと言う。家裁に相談に行っても、息子の意志だからしょうがないと言われた。女で一つで苦労して育てたのに、報われないと泣くふみを見て他人ごとではない雪子。
   浩三は、会社で霜川部長(小栗一也)に声を掛けられる。君の書類柿崎専務が褒めていたよ。目を掛けているんで更に頑張ってくれ、しかし奥さんと別居しているという噂を聞いたがと言われ、そんなことはありませんと否定する浩三。こういう会社は身上にうるさいので気を付けてくれと釘をさされる。
   靖子、洋一、千花たちとフグ鍋を囲む雪子。帰り送っていく洋一は、靖子は自分を尻に敷いていると思っているが、敷かれているふりをすれば、勝手なことをしていられる生活は、もう嫌になったと告白する。もし、雪子さんとだったら誠実な結婚生活ができるだろうと真顔になる洋一を、振り切って帰る雪子。帰宅すると、浩三がいる。うれし泣きをする。霜川部長の娘の披露宴の招待状を出しておいた、勿論一緒に出席してくれるよねと言うので肯くと、じゃあ、当日いつもの喫茶店で待ち合わせしよう、モーニングは今日持って行くからと家を出ていく浩三。悲しく泣く雪子。
   本屋でパートをしている雪子。千花がやってきて、結婚パーティをやることになったのでどうしても参加してほしい。霜川部長の娘の披露宴と同じ日だ。靖子から、霜川家の披露宴に行けば、旦那の心を取り戻せるのと言われ、千花のパーティに向かう雪子。待ち合わせの喫茶店で待っていても雪子が現れないので、一人披露宴に行き、雪子が風邪でと言い訳をする浩三。部長は、浩三を呼び課長に推薦はしたが、素行の問題は重大なので、別居しているという噂は本当なのかと尋ねられる。しかし、雪子が現れ、霜川に風邪じゃなかったのかと聞かれて、熱も下がりましたしと話を合わせてくれて、ピンチを脱したかと思った浩三に、家に戻らなければこのまま帰ると脅す雪子。仕方なしに了解する浩三。
   しかし、結局夏代を説得できず、家裁に離婚調停を頼むと夏代に言う浩三。家を雪子に渡そうと思うがと言うと、雪子は、浩三と結婚したら店をやめようと思うので、30万ほど必要なので、家を売ってその中から30万引いた金を慰謝料としてもらえないかと言う。家裁の調停室で、離婚原因を言う浩三。夏代との交際は2年ほど前からだが、実は子供が生まれた後、雪子が潔癖症で夫婦生活がうまくいかなくなったためだという浩三。しかし、入れ替わりで雪子が調停室に入り、実は、雪子の妊娠中に浩三は浮気をして性病に罹ったというのだ。浩三も呼ばれて、離婚の慰謝料に家を売って、30万引いた金を渡すと言うのはあんまりではないか、家をそのまま雪子に渡しなさいという調停委員。雪子は、家なんかいりません。主人が欲しいんですと言って泣いた。
   浩三の父文吾が亡くなった。通夜を手伝う雪子。霜川部長も弔問に訪れたことで、浩三の別居はばれてしまう。雪子の元に帰れば、不問に付すが、バーのマダムとの再婚は会社での浩三の立場は悪くなると強く言う霜川。ようやく、夏代と別れて家に戻ると約束する浩三。しばらくの間、定時に帰宅し、一郎を含めた3人の生活が続く。雪子も、ちゃんと家でも化粧をするようになった。
   しかし、ある雨の晩、夏代の店に行く浩三。朝起きると夏代の部屋にいる。酔っ払って、家に帰ると言いながら泊った説明される。ほとぼりが冷めるまでこのままでいようと言い、無神経に晴れた空を見て、一郎を連れて動物園にでも行こうかと言って、客との接待マージャンで徹夜したと雪子に説明すると、帰っていく浩三。浩三が家のドアを開けると、夏代の草履がある。居間に、雪子と夏代がいる。全て雪子に話しました、自分がみじめになった、仕事が大事なことはわかるが、二人の女を泣かせている浩三はひどい、私はあなたとは2度と会いませんと言って、泣きながら帰っていく夏代。夏代を追おうとする浩三に、あなたから逃げていく人を追いかけるのはみっともないと言いながら結婚指輪をはずす雪子。靖子の話を聞いていて、私の心は冷え切った。愛のない夫婦が暮していくことはできない。一郎を連れて仙台に帰りますと言う雪子。いつものように、ぼくが悪かった、やり直そうと言う浩三を相手にせず荷物をまとめる雪子。一郎を幼稚園に迎えに行き、駅に行く。追ってホームに浩三がやってきた。一郎の名を呼び、近づいてくるが、電車は出発する。サヨナラと呟き、開いた窓から入ってくる風が気持ちよく、笑顔をみせる雪子。

  地元の友人と、美少女インド料理屋で、貯まったポイントで夕食。

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