2009年3月3日火曜日

卵売りの少女

  
   神保町シアターで東宝文芸映画の世界
   52年東宝成瀬巳喜男監督『お国と五平(119)』
   峠道を、武家の嫁と若党の二人連れが歩いている。擦れ違う男たちが皆(坊さんさえ)振り返るほど女は美しい。しかし女は足を傷めている。宿屋に着き、寛ぎ、床に入っても寝付かれない。雨が降り出し、どこからか虚無僧の吹く尺八の音が聴こえてくる。尺八には思い出があった。
   女の名はお国(木暮実千代)。お国は、夫婦となる約束をしていた池田友之丞(山村聡)が、武士として武芸にあまりに不熱心だったので婿として門田の家名を継がすには物足りないと思い、父親の勧めもあり、藩内で武名も高い伊織(田崎潤)と見合いをし、婿に迎えた。かって友之丞は尺八を吹いて自分が来ていることの合図にしていたのだ。伊織が婿として家に入り、父は直ぐに他界し半年が過ぎた。伊織は、非番の日でも、藩内の友人の家に碁を打ちに出掛け、お国は寂しさを感じている。ある日、伊織は、友之丞に寄って闇討ちに遭う。
    お国は、若党の五平(大谷友右衛門)を伴って仇討ちの旅に出る。友之丞の叔父や乳母など、立ち回りそうな場所を訪ね歩くが徒労に終わる。ある時、お国は高熱を出し倒れた。宿屋で誠に頼りない医師を呼んで貰うが、数日回復せず、五平は不眠不休で看病をし続ける。ようやく熱が下がり意識の戻ったお国の前に忠義ものの五平の姿がある。その瞬間、主従の一線を越えてしまう二人。
   しかし、このまま友之丞に会わずに、二人で暮らす穏やかな生活を思い浮かべるお国に対して、忠義者の五平は主人の仇を討ち、郷里に帰り、殿様に武士にしてもらい晴れて慕うお国の夫に相応しい身分になることを夢見るのだ。実は二人の隣室に虚無僧となった友之丞が逗留し、二人のやり取りを全て聞いていた。再び友之丞を討つ旅に出ようと準備をしに五平が外出した際に、友之丞はお国の前に現れる。驚き、小太刀を取るお国に、友之丞は、ずっと二人の後をつけ、自分のことに気づいて貰おうと尺八を吹いていたのだと言う。また、自分は死にたくない、仇討ちを諦めて二人で平和に暮らせばいいではないかと言う。その言葉はお国の頭を捉え、友之丞を討つことも、友之丞と会ったことを五平に告げることも出来ない。
    再び仇討ちの旅に出る二人。しきりと友之丞の尺八の音が聞こえる。悩み続けるお国だったが、五平に手柄を立てさせようと決意し、尺八を吹く虚無僧を捕まえてくれと命ずるお国。お国が自分を見逃す決意をしたかと思った友之丞に対し、お国は五平に斬れと命じた。命が惜しい友之丞は、お国と五平が不義を犯した事で強請ろうとするが討たれる。しかし、今和の際に、お国と自分は婚約中に契りを交わしたことがあったと告白する。お国は否定するが、五平の頭の中をお国への疑惑が渦を巻く。
   見事仇を討ち故郷に凱旋する筈の二人だが、五平の耳には、死んだ筈の友之丞の尺八の音が消えることはなかった。

   40年東宝成瀬巳喜男監督『旅役者(120)』
   田舎町に芝居がやって来る。六代目中村菊五郎一座。尾上菊五郎とは似ても似つかないドサ廻りの旅芸人の一座だ。そこで馬の役をやるのは、前脚が市川俵六(藤原鶏太(釜足))、後ろ脚は中村仙太(柳谷寛)。俵六は、後ろ脚5年前脚10年のベテランで、実物の馬を観察して研究している。
   次の公演地は塩原だ。一座を呼ぶに当たって、勧進元の若狭屋(御橋公)と小屋主の北辰館(深見泰三)は、床甚、床屋の甚さん(中村是好)に一口乗らないかと声をかける。たった300円で菊五郎一座を呼べると聞いて張り切って金を出し宣伝した。
    しかし、駅に降り立った一座は、菊五郎一座でも、中村菊五郎一座、騙されて面子を潰されたと思った床甚は、歓迎の宴会で酔っ払って、若狭屋に文句を言うと芝居小屋に出向く。しかし、酔っ払っていた床甚は、置いてあった馬の頭を壊してしまう。親方や北辰館の小屋主に言われて、提灯屋に修繕を頼みに行く床甚。そんなこととはつゆ知らず、俵六は仙太と宿屋の女(清川虹子、伊勢杉子)を相手に酒を飲み、芝居の馬についてご機嫌で講釈を垂れている。
    翌日小屋に行くと親方が2人を呼び、馬の頭を壊してしまったが、悪気はないので、勘弁してやってくれと言う。修繕した馬を見ると狐の顔のようだ。頭を下げずに憮然としている床甚と売り言葉に買い言葉、こんな馬と狐の区別のつかない田舎ものが直した馬を被れるかいと言ってしまう。結局、馬無しでは幕も開かず、その日は座長急病につきと休演に。しかし、勧進元は親方にねじ込み、近くに太平洋曲馬団にいた竜巻号がいるので、それで舞台をやれと言う。俵六と仙太は座長に呼ばれ、意地をはるからお前たちを舞台から外さなければならなくなった。金も持っていないお前たちの為に何とか小屋の楽屋に泊まらせて貰うよう頼んでやったと言われる。
     昨日派手に飲みすぎたせいで金も無い。本物の馬に舞台なんか務められるかと毒づいていた俵六だが、思いのほか竜巻号は立派に務め、舞台上で小便をして笑いを取るなど、大評判になる。親方は、このまま竜巻号を使って芝居を続けたいので、俵六には、今後は馬の世話をしてくれ、仙太にも何か役を考えると言う。落ち込み、仙太に濁酒を買いに行かせる俵六。飲んでくだを巻いていると、宿屋の酌婦が現れる。せっかく昨日芝居を見に来たのに、本物の馬が出ていたじゃないかと言われ、俺たちの芸を見せてやると言う俵六。止める仙太を押し切って、狐顔をした馬を被る二人。歩いているうちに、竜巻号の馬小屋に行き、本物の馬を威嚇し、馬小屋を壊し、馬を逃がす。逃げる馬をどこまでも追いかけて行く俵六。
   70分ほどの長さだが、メリハリが効いて、素晴らしい。珍しく老若男女揃った場内は大爆笑だった。

   49年藤本プロダクション/東宝今井正監督『青い山脈(121)』
   49年藤本プロダクション/東宝今井正監督『続青い山脈(122)』
   海辺の街。船を降りた女学生の寺沢新子(杉葉子)が、目の前にある金物屋に入る。店番の若者(池部良)に産みたての卵20個を買って貰えないかと尋ねる。若者はその卵で何か料理を作ってくれないかと頼む。両親は外出し、米は炊いたが、何も無いと言う。新子は、オムレツと味噌汁を作ってやった。若者は金谷六助、旧制高校の学生で大学に落ちて留年しているという。新子は、父と性格が合わずに離婚した実母に会いに来たのだ。新子は、隣の占い師に姓名判断をしてもらうと、家庭に恵まれないと当てるものの、“ん”がある女の名前は、“ワンワン”“ニャンニャン”などと同じで、動物的な勢いが強く悪妻になるので、改名した方がいいと言われた。フランクに話す二人は、お互いに好感を持つ。
   数日後、女学校でバスケットボールをしている女学生と女教師がいる。生徒とぶつかって倒れる教師の島崎雪子(原節子)。医務室で、島崎の手当をしているのは、校医の沼田玉雄(龍崎一郎)。職員室に戻った島崎のもとに、新子が相談に来た。男名でラブレターが届いたが、休日に新子が六助と一緒にいたとの話を聞いた同級生の女子からで、男子高校生を名乗り、逢い引きを誘うものであった。話を聞いた島崎は沼田に相談する。沼田は島崎に自転車の後ろに乗らないかと誘うが断られた上、自分の将来について余りに俗物的なことを自嘲気味に話し、頬を平手打ちされてしまう。
   懇意にしている芸者の梅太郎(木暮実千代)に会い、妹の駒子(立花満枝)の往診に行かなければならないことを思い出す。自転車の後ろに梅太郎を乗せて走る沼田。やはり芸者の駒子は、町の有力者で女学校の理事長を務める赤ベコこと井口甚蔵(三島雅夫)に妊娠させられ、それがわかった途端知らんぷりをされて自殺未遂を計ったのだ。幸い母子ともに無事だった。梅太郎の三女の和子(若山セツコ)は女学校の4年生で、島崎の大ファンだ。
    島崎は翌日の英語の授業を早く終わらせ、恋愛について話し始める。男女の恋愛は決して猥褻とか不純なものではなく、そうしたことで級友を貶めようとすることは卑劣だと言う。偽ラブレターを書いたのは松山浅子(山本和子)たちのグループで、自分たちは、下級生から話を聞いて、学校の伝統を汚す行為を糺そうとしたのだと言うが、島崎に、封建的で正さなければいけない悪習だと切り捨てられ、泣き出す。女生徒たちは、集団ヒステリーのように感染し、次々に泣き出した。島崎は、新子を丘の上に連れて行き、あなたは正しいと伝え、勇気づけた。しかし、和子がいきり立った生徒達が、校長に抗議しに行ったと報告しに来る。
    教師たちは、若い女教師の世間知らずの理想主義が原因だと決めつけ、理事会や父兄に問題が広がることを気にするばかりだ。校長(田中栄三)も教頭(島田敬一)も保身ばかりで、理想と現実は違うと島崎に頭を下げさせようとばかりだ。校長室に生徒が来て島崎に教室に来て欲しいと告げる。黒板には、生徒たちの3項目の抗議文が書かれている。自分たちを正当化し、島崎に謝罪を要求するものだった。島崎は沢山ある誤字を指摘し、毅然とした態度で、賛同できないと言った。そこに俗物な体育教師の田中(生方功)が現れ、そんな我を張ると、結婚が遅れるぞと宥め始める。あまりの低レベルな発言に教室を後にする島崎。
   職員会議の席では、余計な面倒を起こさないでくれという本音と、現実と理想というものは違うものだという建前の話ばかりだ。島崎を弁護した沼田は、田中たちから、美人の島崎が好きだから味方するのだろうと揶揄されるばかりだ。教師たちが出て行ったあと、島崎に声を掛ける沼田。自分もこの街の因習と闘うことにしたので、うちに来て対策会議をしようと言う。こういう時期だから慎んだほうがいいのではと島崎は言うが、それこそ、因習に囚われていると言う沼田、年配で、物静かな女性教師が、私は島崎を支持するので、思い切ってやりなさいと伝えに来た。表情が明るくなった島崎。
   新子は、高等学校に六助を訪ね、先日の話が原因で困ったことになったと伝える。この学校のOBでもある沼田は、六助に新子を学友たちとの軟式テニスに誘えと勧めた。運動神経の良い新子に、男たちは、叶わない。六助の親友ガンちゃん(伊豆肇)を初め、バンカラで汚いが、気のいい青年たちばかりだ。六助とガンちゃんが新子を送ると、浅子たち女学生が現れ、学校の美しい伝統を汚した新子は、責任を取って退学しろと言う。思わず、朝子の頬を打つ新子。ガンちゃんが雄たけびを上げて女学生たちを追い払った。
   料理屋弥生の帳場で、女将(浜地良子)、仲居(出雲八重子)が、梅太郎に頭を下げている。赤ベコたちが座敷で飲んでいて、梅太郎を呼べと言うのをうっかり受けてしまったのだ。妹の駒子を酷い目にあわせた赤ベコたちの酌なぞしたくないと言う。しかし、同席しているのが、教頭や田中たち、女学校の教員だと聞いて、沼田を陥れる作戦会議だと聞いてお座敷に上がる。
   一方沼田医院に、島崎、新子、六助、ガンちゃんが集まっている。そこに和子が明日の新聞の早刷りを持ってくる。女学生の民主的な自主的な活動に対して、ある女教師が横やりを入れ、問題になっているという記事だ。新聞社は赤ベコの息がかかっており、田中が揺さぶりを掛けて来たのだ。理事会と父兄会を有利に進めようと知略を巡らす沼田。そこに、東村の百姓(花沢徳衛)が、急患なので往診しに来てくれと言いに来る。居留守を使って断れと住み込みの看護婦(上野洋子)に言う沼田だったが、島崎は、すぐに沼田先生が往診に行きますよと答えてしまう。沼田がもっと近い所に医者はいるだろうと尋ねると、百姓は、巫女を呼んできて占ってもらったら、この方角に名医がいると出たのでと答える。
   沼田は、渋々自転車で東村に向かう。途中、トンネルの中で待ち伏せしていたゴロツキたちが、沼田に殴りかかる。そんなことは露知らず、吠えまくる沼田家の番犬を見ながら帰宅する島崎と和子とガンちゃん。途中、ガンちゃんは和子をおんぶさせられる。すると、酔客に絡まれている女がいる。女は、梅太郎で、男は田中だ。弥生からの帰り、ずっと田中に巻きつかれて、難儀していたのだ。和子に挨拶をされ、夜道は危険だから注意して帰りなさいと言って、帰っていく田中。
   いよいよ、理事会が開かれた。理事長の赤ベコが開会を宣言し、校長に議事進行を依頼する。冒頭の挨拶で、こうした事件でお騒がせしたことは、自分の不徳とするところで、汗顔の極みだと言う。沼田は、誰も校長が、サボっているとは思わないので、フランクに話し合いましょうと言う。まず、問題のきっかけになったラブレターを岡本先生(藤原釜足)が朗読する。「変しい、変しい、新子さま。・・・」という冒頭に参加者一同狐につままれたような表情だ。岡本が真面目な顔で、変、恋と板書し、英語でも何でもなく、学力の低下のための誤字だと説明する。更に、悩ましいを、脳ましいとの間違えもあり、校長は本校の学力の低下は、お恥ずかしいと小さくなる。父兄に化けたガンちゃんは、サクラで発言するが、緊張のあまり、格言を言うだけだ。
   出席を遠慮しろと言われていた島崎も、どんな厳しい言葉も甘んじて受けるといって途中出席する。沼田が島崎のことを好いていて、外で接吻していたと噂になっていると言う宝屋のお内儀(岡村文子)。接吻ではなく、頬を打たれたのですと答える田村に、女のくせに男を殴ったり、こんな教師に自分の孫を教えてほしくないと、激高した老人(高堂国典)に、ガンちゃんは、格言を語る。何か納得して表情を和らげる老人。女が頬を打つ場合はよくありますよと梅太郎が発言する。梅太郎さんと呼ぶ沼田に、今日は和子の姉として笹井トラとして出席しているのだと答える梅太郎。
    強引に無記名投票で、民主的に、島崎か生徒のどちらが正しいか決着つけようと言う赤ベコ。投票の結果、島崎12票、生徒6票となった。しかし、予想外の結果に、赤ベコは、理事の出席者は全理事の3分の2に満たないので、今日はあくまでも参考にするが、改めて決することにすると言う。梅太郎は、私も次回は忙しいので、代わりに駒子を出させよう、もう母子ともに身体も良くなってきているからと言う。そこに、ガンちゃんが父兄を名乗った生徒はそんな叔父は知らないと証言したという情報が田中に伝わる。得意満面でガンちゃんを責める田中。若いのになかなか立派なことを言うと感心しとったが、恥を知れと再び激昂する老人。梅太郎は、田中がかって大陸で性病に罹って産婦人科に通っていたことを婉曲に指摘する。急に腰砕けになり、生徒のせいにしてガンちゃんを認める田中。
   島崎は勝利した。土曜日の晩の宿直は、岡本だ。岡本の妻(馬野都留子)が弁当を届けに来た。彼女は、かって小学校の教諭をしていたので、学校のオルガンで唱歌を弾くのが楽しみだ。校長室で物音がして、岡本は、そこに松山浅子を発見する。翌日、島崎に報告する岡本。あのラブレターを取り戻そうと思いつめるあまり、忍び込んだのだ。不問にし、浅子と新子の前でラブレターを燃やす島崎と岡本。謝る浅子に、仲直りするために一つ要求があるという新子。グランドに連れて行き、バスケットのポールを、目をつぶって、力いっぱい叩けと言う新子。言われた通りにすると、ポールの前に自分の顔を差し出す新子。殴った浅子も殴られた新子も痛かった。
   ある休日、サイクリングを楽しむ、沼田、島崎、六助、ガンちゃん、新子、和子。海岸に行く。急に沼田は、島崎にプロポーズする。肯く島崎。学生たちは、祝福した。海に向かって、新子に愛を告白する六助。
   教条的で、理屈っぽい台詞が多用され、鼻につくところもあるが、あれだけ一世風靡したということは、やはり新しい日本、新しい日本人ということを、みな考えずには居られなかった時代だったからだろうな。
  

   渋谷シアターTSUTAYAで、千葉誠治監督『戦国 伊賀の乱(123)』。
   天正9年のこと。伊賀者たちに一度痛い目にあわされた信長は、甲賀と手を組み、伊賀を殲滅しようと考え、四万の大軍を差し向けた。更に、伊賀の中に内通者を忍び込ませているらしい。上忍の甲斐(樋浦勉)から、凄腕の下忍、突破(合田雅吏)は選ばれ、信長からの伝言を聞くためにある洞窟に結集するという内通者たちを、火薬を使って爆死させるように命じられる。弟の物見(高野八誠)は、しきりと任務を変わってくれと迫り、妻の楓風(宝積有香)は、突破の子供を産みたいと言って、もし突破が死んだら物見の子供を産むか、甲斐の妾になって生き残ると告白される。
    突破の護衛に、二人の下忍、三者(柏原収史)と楡組(島津健太郎)が付いた。伊賀者か甲賀者か不明な忍びたちが次々に襲いかかる。果たして、突破は任務を完遂できるのか・・・。
    予告編上映中に劇場に入ると誰もいない。学生時代には、場末の映画館で経験はあるが、去年の4月以来、映画館で523本見ているが、流石に入場者自分だけは初めてだ。何故か中盤に差し掛かって関係者らしい男が入って来たのだが、1800円の入場料は高いが、自分が一人入った為に、上映しなければならないコストを考えると、申し訳ない気が・・・。
    伊賀対信長、伊賀の乱、随分と大きいテーマを掲げたなあと思っていた。ちゃんとみんな台詞喋っているし、アクションも、殺陣ではないが頑張っていると思う。でも、ちょっと短いなあ。これからというところで終わってしまった。起承で終わった今回、予算10倍くらい出資者を募って、転結作って欲しいなあ。

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