2008年12月30日火曜日

十八歳、海へ

  午前中掃除と惰眠。渋谷シネマヴェーラで、官能の帝国ロマンポルノ再入門2
  73年日活曽根中生監督『不良少女 野良猫の性春(392)』。どうも、気になって、再見。
  79年日活藤田敏八監督『十八歳、海へ(393)』。予備校お茶の水ゼミナール夏期講習。模擬テストの成績が張り出されている。国立理数系Sクラス、1位は、釧路香蘭の有島佳(森下愛子)、最下位は、今治の桑田敦天(永島敏行)だ。掲示板を見る予備校生の中を桂を探す姉 悠(島村佳江)。佳と桑田は鎌倉の海に来ている。しかし金の無い2人は、浜辺を歩いているだけだ。夜になる。暴走族が争う声が聞こえる。1人のバイクに乗った男を取り囲み、追い越しを責めている暴走族。巻き添えを恐れ桑田は及び腰だ。ヘルメットを脱いだ男を見て、佳は予備校の同じクラスで、いつも一番前で眠っている男だと言う。男は暴走族のリーダー(深水三章)に、フィジカルな喧嘩は嫌いだから死にっこしようと持ちかける。服に石を詰め、海に入りどちらがギブアップするかの競争だ。佳は、太宰治だと言い、目を輝かす。結局、族のリーダーは溺れ、男は、濡れた服のままバイクで去る。佳は声を掛けようとするが、できなかった。
   そのまま2人は朝を迎える。昨夜の場所に行き、同じことをやってみようと言う。海に入っていく2人。肩まで海に浸かると、佳はいつも続いている偏頭痛が無くなったという。海岸を散歩していた老人大八木(小沢栄太郎)が、心中と勘違いし、海に飛び込み、自分の屋敷に連れて帰る。暖かい風呂に案内され、服を乾かしてもらい、二度と自分の前で死ぬなと言って小切手を貰う。翌日予備校の教室の一番前にバイクの男がいる。佳が男の視線を辿ると、予備校のビルの屋上に思い詰めた表情の男がいて、投身自殺をする。バイクの男を追って学食に行き、カレーを食べている男に話かける佳。男の名は、森本英介(小林薫)。ホテルでボーイをしながら、5年も浪人しているらしい。
   森本が働くホテルに、佳と桑田がチェックインしている。ボーイの制服姿の森本に会った。佳は、睡眠薬心中をほのめかす。気が気でない森本は部屋を訪ねてみる。結局翌朝、心中未遂で病院に運ばれる。二人の部屋を覗き、警備員の目を盗んで、大八木の連絡先が書かれた書置きを盗む森本。病室に、大八木と悠がいる。森本が大八木に連絡したのだ。悠にこの二人は心中未遂詐欺の常習だと伝え、世の中はそんなに甘くないと怒りながら病院を出る大八木。病院の入口まで大八木を見送った悠に、森本は自分がおおごとにしないため、大八木宛の書置きを盗んだと伝える。
   数日後、悠が予備校にやってきた。退院以降、佳は悠の家を出たままだと言う。森本にロタ島行きのチケットを預け、佳に渡してほしいと頼む。佳は、桑田と、桑田の友人で帰省中の大学生榊原(下條アトム)の下宿を借りて同棲している。結局、佳には拒絶されたチケットを返しに、悠が給食の管理衛生士をしている小学校を訪ねる森本。小学校の避難階段で、悠を抱きしめキスをする森本。結局、悠は、森本とロタ島に出かける。悠の妻子ある男との恋愛に反対する佳によって、その恋愛は終止符を打ったと告白する悠。ロタ島の三日間によって、癒される二人だが、旅行前の約束通り、日本に戻り次第別れる。
   ホテルで働いているときに、森本は意外な人物に出会う。それは、医師会の理事でもあり医大の教授をしている父(鈴木瑞穂)だった。実は、医大への裏口入学が露見しそうになり、しばらく身を隠せと言われて以来、父への連絡を絶っていた森本だった。父は、こんな制服を着た息子を見たくない。今すぐ辞めろという。学会が箱根であるので、箱根のホテルに来いと言い、連絡先を渡す父親。父親からのクレームでホテルの仕事を首になってしまう森本。実は、その日、夏期講習4日を残していたが、佳と桑田の部屋に、持ち主の桑田の友人が戻ってきてしまった。悪いやつじゃないし居候として文句は言えないと桑田は言うが、あと4日しかない東京での夏を大事にしたいのだと佳は言って、森本のもとに泊めてほしいと言ってきていたのだ。森本は、自分の部屋を二人に貸す。そして、心中未遂で金が欲しいなら、箱根のホテルでやればいいという。家を出た森本は、二度と会わない約束だった悠の部屋を訪ねる。驚く悠を乱暴に求めるのだ。
   翌日、森本は、箱根のホテルでチェックインし、佳と桑田の二人に泊まらせる。森本は、昨夜と、ロタ島への旅行は、悠と一緒だったことを告白する。ショックを受け、初めて人に裏切られたとつぶやく佳。森本は、父親の名を記した遺書を書き、封筒を持っていてくれと佳に渡す。最初、庭園の松の枝で、首を吊るが、予定通り縄は切れる。次に睡眠薬をビールで飲み始める二人。佳は、森本から預かった封筒を開ける。そこには、森本の父親の名と、あなたのせいでわたしたちは死にますと書いてある。森本は、父親への復讐のために自分たちの心中未遂を利用したのだと知った佳は、その手紙を千切り、森本の名と予備校の電話番号を書いて、意識を失う。
   翌日、予備校の授業を受けている森本を呼ぶ予備校の教師(小中陽太郎)。箱根の警察にバイクを飛ばす森本。二人の死体が並んでいる。自分の工作を見破られたことを知り、心中が未遂に終わらなかった理由は、自分にあるのではないかと思う森本。
   海岸に、森本と悠がいる。釧路で佳の葬儀を済ませたことを報告する悠。初めて人に裏切られたと言われたという森本の言葉に、あなたのせいで自殺したのではなく、二人は夏が終わることを耐えられなかったからでしょうという悠。呆然と立ち尽くす森本を残し、浜辺を歩いて行く悠。この二人の夏もまた終わったのだ。
   ロマンポルノというよりも、藤田敏八監督の青春映画の傑作のひとつだ。森下愛子の奇跡的な演技が素晴らしい。特に、森本から預かった父親への復讐の遺書を読み、森本の連絡先を書く彼女の表情は女優森下愛子の誕生を高らかに宣言した。しかし、森下愛子は、その後吉田拓郎の再婚相手として引退してしまったことが本当に悔やまれる。日本映画界の損失というよりも、自分の当時のアイドル、竹田かほりが甲斐よしひろに、森下愛子が吉田拓郎に、木ノ内みどりが後藤次利に、三連打で奪い取られ、自分の心に、当時のニューミューシックへの憎悪を決定づけたからだ(苦笑)。  
   ユーロスペースで、アレクサンドル・ソクーロフ監督『チェチェンへ アレクサンドラの旅(394)』。
チェチェンの前線にある基地に、一人の老婆がやってくる。彼女の名はアレクサンドラ(ガリーナ・ヴィシネフスカヤ)。80歳の彼女は、数年前夫を亡くしチェチェン国境近くの町で一人で暮らすロシア人。27歳の孫のデニスは職業軍人。大尉として前線に赴任されて長く。孤独な彼女は、孫が働く場所を見に来たのだ。
   彼女は荒涼として蒸し暑い駐屯地の中を歩き回る。ロシア兵はみな若く子供のようだ。アレクサンドラは外の市場に出かけ、体調をくずし、ロシア語が流暢なチェチェン人の女性マリカの家に案内される。彼女の家は、爆撃にあい崩れかかった廃墟のような建物の中だ。物もなく、希望もないこの街だが、「男同士は敵同士でも、私たちは最初から姉妹よ」とマリカは言う。アレクサンドラを駐屯地まで送り届けてくれたのは、マリカの隣室の若者だ。悲しみを湛えたまなざしをしている彼も、とても若い。もう解放してほしいという若者に、アレクサンドラは、日本のある婦人の言葉として、どんな辛いことも必ず終わる。人間に必要なのは理性だと言う。戻ったアレクサンドラをデニスは待っていた。アレクサンドラは、今一人でとても寂しいと告白する。デニスは、軍人としてここにいることの意味はわからないといい、アレクサンドラを抱きしめ、子供のころによくやったように、アレクサンドラの髪を編む。
  翌朝、デニスは、アレクサンドラを起こしにやってきて、前線に5日間ほど出かけるので、帰ったほうがいいという。装甲車やトラックで部隊が出発していく中をアレクサンドラは基地をあとにする。駅の近くの市場でマリカたちに別れを告げる。彼女たちは、駅まで見送りにきてくれた。軍事用の貨物車に乗り込み、汽車は走りだす。駅の方向をずっと見続けるアレクサンドラ。
   差し入れを持ち、神宮前の喜々の忘年会に参加。楽しい酒だなあ。

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