ラピュタ阿佐ヶ谷で、昭和の銀幕に輝くヒロイン【第51弾】若尾文子。
65年東京映画豊田四郎監督『波影(58)』
雨が降る中、泊(とまり)の船着場に渡し舟が着く。レインコート姿の須賀世津子(大空真弓)が船を降り、近くの海岸に立つ墓に手を合わせる。私にはいつまでも忘れられない人がここに眠っているのです…その人は私がどこに行っても波を越えて呼び掛けてくるような気がします。美しく、しかし自分のものを全て他人に惜しみなく渡してしまうような人でした。昭和9年のことでした…。
法事で田舎の泊に行っていた、福井県小浜の赤線街三丁町、柾木楼の主人吉太郎(山茶花究)が、隣り村の倉本かね子(若尾文子)を連れて帰って来た。遣り手婆のおうた(浪花千栄子)や店の娼妓たちがおかえりなさいと出迎える。吉太郎は、妻で女将のまさ(乙羽信子)を呼び「この子の父親は、三丁町に入れあげて、山、畑全部売っぱらったあげく死によってな、法事で会うなり、三丁町で働かせてくれと頭下げてきよったんだ。びっくりしたで。うちの子はみんな売られてきたけど、自分で志願してきたんや」
かね子は、職人の兄に仕事を続けさせるため、三丁町で働かせてくれと頼んで来たのだと言う。まさは、雛千代と夫とのあいだを勘ぐって、直ぐには柾木楼に置くことに同意しなかったが、一度嫁ぎながら、働かず暴力を振るう夫から実家に逃げ帰ったと言う行き場のないかね子を雇うことにする。とりあえず、客を取る部屋だかと行って部屋に案内をするまさ。かね子が窓の障子を開けると、模型飛行機が飛び込んでくる。向かいの母屋で暮らす主人夫婦の息子の忠志と娘の世津子だった。海が見たいと世津子に母屋の反対側の障子を開けて貰うかね子。
かね子が柾木楼に来て、雛千代となって一年半が過ぎた。8歳の世津子を連れ、渡し舟に乗り、泊に父親の墓参りに出掛ける雛千代。「ねえさんがウチに来て、どの位になるん?」「もう一年半やねえ」「母さんは、店の女の人と仲良くするのを嫌がるけど、雛千代ねえさんだけは別や…」「あてなあ、節子ちゃんくらいの時に、お父ちゃんが三丁町に行ったきり、帰ってこんようになって、お母ちゃんと迎えに行ったことがあるんよ…。お母ちゃんは、お父ちゃんに何て言えばいいかわからんさかい、お父ちゃんに会ったら泣きよしと言うんよ…。だからお父ちゃんに会うなり泣き出したら、なんやらお父ちゃんが憎くて憎くて、しょうがなくなったんよ…」泊の家並みは、日陰で暗い。「日が当たる所は、畑にしてるさかい、家はみんな日陰になるんよ。お父ちゃんはそんな泊が嫌で、三丁町から帰って来なかったのかもしれんなあ・・。そんなお父ちゃんも、"まいまいこんこ"してもらって、泊に帰って来はったんや」「"まいまいこんこ"って何?」「お墓に埋めて貰う時に、村中の人に、周りを「南無阿弥陀佛」と言いながら回ってもらうんや」
雛千代の生家には、職人をしている兄と、末期の子宮癌で寝たきりの姉がいる。「何の病気なん?」「世津子ちゃんには、まだ分らんかもしれんけど、お姉ちゃんを入院させようと、あてが三丁町に行ったんやけど、ずーっと我慢してはったさかい、もうあかんのや」雛千代の父の墓に詣でる二人。「あんなあ、泊の村に生まれた人はどこで死なはっても、魂になって生まれた在所の泊へ帰ってきなはるんや。ホンマどっせ。」
必死に駆け帰宅する世津子。中風で2年寝込んでいた吉太郎が亡くなり、学校に報せがあったのだ。「世津子ちゃん、お父さんの顔を見てやり」「怖いから、うち嫌や」枕元には、まさと忠志(中村嘉津雄)が座っている。そこに、柾木楼をぷいと出て5日になっていた照子(木村俊恵)が帰って来る。京都に遊びに行っていたという。お線香をあげながら毒づく照子。多感な中学生になっていた忠志は、二階に駆け上がり泣く。雛千代は追いかけて行き「忠志さんがこれからは大黒柱や、しっかりせんとあかんよ」と声を掛けるが、女郎屋に産まれた屈折を泣きながら訴える忠志。女郎屋を継がず、海軍士官学校に進み、立派な兵隊になるんやと叫ぶ忠志にしがみつかれた雛千代は、耳元に出血したのか、鏡を見ながら、忠志の純粋さに打たれる。
再び日が流れ、雛千代が泊からの渡し船に乗って小浜に着くと、女学生に成長した世津子(大空真弓)が自転車に乗り待っている。雛千代の兄が出征するのだ。「お姉ちゃんが死んで、お兄ちゃんが出征しはって、家は隣の部屋に預けてきたわ」「お姉ちゃん、帰ってこんかったらどうしようかと思ったわ」「あては、三丁町で働かせて貰うしかないんや」世津子にラムネを奢った雛千代は、京都の女子大に合格した報告を受け、我が事のように喜ぶ。
引き続き、百万人の作家 石坂洋次郎の映画アルバム。
58年東宝岡本喜八監督『若い娘たち(59)』
砂浜を水着姿で駆ける三人の娘石沢カナ子(雪村いずみ)野村友子(水野久美)と柴田澄子(野口ふみえ)山と海に囲まれた街。
石沢家に五女のタマ子(笹るみ子)が帰って来る。郵便配達から大きな封筒を受け取り玄関の中に入る。表札の横には、和裁お受けいたしますと貼り紙がある。母の美保子(三宅邦子)に「ただいま!!郵便が届いているわ!!きっとシズ子姉さんからよ。写真に違いないわ」封筒を開ける美保子。四女カナ子を呼ぶ美保子。
角川シネマ新宿で、大雷蔵祭。
64年大映京都森一生監督『博徒ざむらい(60)』
甲州身延山、久遠寺の祭だ。津向一家の賭場が開かれている。そこに武居の安五郎の乾分黒駒勝蔵(玉置一恵)がやって来て、甲斐の祐天こと仙之助(市川雷蔵)を出せと言う。津向一家貸元の文吉(香川良介)は、「知らねえ!!たとえ知っていたとしても出せないな」と突っぱねる。一触即発の事態に、祐天が「あっしのために無用の斬り合いは止めておくんなせえ」と言って現れた。
その時賭場は、武居の安五郎(通称,吃安)(富田仲次郎)の一家が賭場を取り囲んでいた。出入りだ。争いの中で、祐天は、吃安(どもヤス)の剣術指南役の桑原来助(杉山昌三九)を斬った。そこに代官たちが駆け付け、津向の文吉と武居の吃安は捕らえられ、島流しと決まった。唐丸駕籠で運ばれる途中の津向の文吉を、津向の代貸、獅子山の佐太郎(本郷功次郎)と祐天が待ち構えていた。祐天は、文吉に、帰ってくるまで、津向一家を盛り立てて待つと言い、唐丸駕籠越しに杯を受けた。
勝沼の絹市に、石和代官宇津美大次郎の絹の貫目改めを行うという触れ書きが立てられた。絹の取引に冥加金を課すというものだ。現れた役人に、恐れながら、市の最中に、このようなことをされたのでは、絹を売りに来た百姓も、買いに来た商人も大変困ると甲州屋助蔵(清水将夫)が言うと「町人風情が何を言う」と、甲州屋を捕らえようとする。そこに、祐天や佐太郎たち津向一家が取りなした。
祐天が、代官所に出頭すると宇津美(植村謙二郎)は、笛吹山(?)に立て篭もる武居の安五郎を捕えれば、冥加金のこともなかったことにしてやると言う。初めは、博徒と十手持ちの二股は、博徒の名折れだと断った祐天だったが、町の人々のためだと考え直し、吃安を召し捕った。しかし、それは宇津美の嘘であり、吃安だけではなく、津向一家を捕縛しようとする代官所の捕り方たち。
何とか逃げ延びた祐天は、横浜に逃れ、甲州屋で手代仙之助として働いていた。助蔵の一人娘のおせい(坪内ミキ子)も、博徒の足を洗い商いに精を出す仙之助を心憎く思っているようだ。ある日、旅疲れで息も絶え絶えになった佐太郎を見つける。佐太郎は、祐天を探し、甲州から上州、房州と渡り歩いたが、見つけられず横浜に辿り着いた。二人で津向一家の再建をしようと説く佐太郎に、首を縦に振らない仙之助。やけになった佐太郎は、遊女お辰(紺野ユカ)の部屋に居続けだ。しかし、ある日運試しだと出掛けた近くの賭場で40両を摩った上に、イチャモンをつけ、簀巻きにされて危うく海に投げ込まれそうに。そこに、仙之助が駆け付け、商いの元手の40両を出し、佐太郎を救う。しかし、素直に喜べない佐太郎。
数日後、仙之助は、外人居留地のバーネット商会に掛取りに出掛ける、外人居留地は、鑑札がないと出入りが出来ない。一帯の警護は、別手組(ベッテン組)が行っていたが、きしくも隊長は、かって石和代官の宇津美だった。英国人バーネット(ピーター・ウィリアムス)は、甲州屋の絹の反物にイチャモンをつけ、半額しか払わないと言う。更に、荷は既に出航した船だと言う。余りに馬鹿にした対応に、仙之助は「騙りじゃねえか」というが、居留地の裁判権は英国領事にあり、更に別手組は、あからさまにバーネットの味方をする。やってきた宇津美は、甲州屋の鑑札を取り上げる。鑑札がなければ、甲州屋の商いは出来なくなってしまう。
甲州屋に戻った仙之助は、刀を持ち鑑札を取り返しに行くと甲州屋に言うが、助蔵は「商人には商人の闘い方がある」と、おせい共々思いとどまるように言った。佐太郎は飲み屋で甲州屋が別手組の宇津美に鑑札を取り上げられ、店が潰れるんじゃないかという噂を聞く。
果たして、深夜別手組屯所の近くで、佐太郎が待っていると、仙之助が現れる。手伝うぜと言って、忍び込む二人。その時、別手組屯所では、バーネットが宇津美に金を渡しているところだった。二人はグルだったのだ。仙之助と佐太郎は二人を脅し、鑑札を取り返すことに成功するが、佐太郎はバーネットの拳銃で腕を撃たれる。
別手組に追われ逃げ続ける二人だったが、出血が続く佐太郎に次第に追い詰められていく。瓢々堂という骨董屋に、別手組が、この辺りに盗賊が逃げ込んだと思うがと乗りこんでくる。一人の侍(芦田伸介)は、さっき屋根の上で物音がしていたが、猫かと思っていたと答える。別手組が追って行った後、女房おきく(荒木美重子)は、「そんな音しませんでしたよ」というと「そりゃそうだ。台所にいるぞ」という。そこには仙之助と佐太郎が隠れていた。おきくに手当をさせる男。
別手組は、甲州屋を囲み、仙之助を出せと言う。助蔵が断ると、捕縛されそうになる。そこに仙之助が現れ、鑑札を助蔵に渡し、素直に連れて行かれる仙之助。仙之助は伝馬町の牢に入れられた。牢名主の男は、イカサマ賭博で同じ牢の囚人たちからなけなしの銭を巻き上げていた。仙之助は牢名主の銭を取り上げる。生きて出られない伝馬町の牢でイカサマ働くんじゃねえと言い、牢名主が袋叩きになりそうになるが、牢屋同心(岩田正)が現れ、放免の者を読み読み上げる。殆どが侍ばかりだったが、何故か仙之助の名前がある。狐につままれた気分で伝馬町の門を出た仙之助に、駕籠が待っていた。
駕籠は仙之助を、瓢々堂に連れて行く。佐太郎とともに助けられた男だった。出羽の浪人、清河八郎と名乗り、「甲斐の祐天こと、仙之助。甲州ではいい顔だったらしいな」「なんであっしのことを?」「名前が分らんと、放免の手続きをとれんでな」清河は、自分に命をくれと頼み、京に将軍が上るが、自分たちはその警護のために浪士隊を結成して同行するので、その隊に参加してくれないかという。清河の人物に感服した仙之助は、どうせなら世の中の為に捨てたかった自分の命、ぜひお預けしますと頭を下げる。
伝通院の境内で、浪士隊の志願者の腕試しをしていた。水戸天狗党の芹沢鴨(北城寿太郎)らがいた。そこに、仙之助が連れた、殿様の伝蔵(伊達三郎)身延の半五郎(志賀明)たち津向一家の面々が慣れぬ二本差しで現れる。勿論、佐太郎の姿も。大村達尾(伊藤孝雄)は、仙之助が、自分の父桑原来助を斬ったのは、山本仙之助を名乗る甲斐の祐天であることに気がつき、仇を討とうとするが、私怨は許さぬと清河に止められる。
浪士隊は、新徴組として京に向けて出発する。仙之助たちは、五番組となったが、所詮博徒上がり、侍と言っても泊る宿では博打を打たずにはいられない。ある夜、芹沢鴨の横車に腹が立った仙之助たちは衝突する。何故か、清河は仙之助たちを除名し横浜に帰れと言う。しかし、一人仙之助を呼んだ清河は、将軍守護のための上京は、実は偽りで、天子より攘夷の勅諭を貰い、尊王攘夷運動を行うのだと真相を告げる。そのために、実は、仙之助たちは横浜に戻り、軍資金稼ぎをやってほしいのだと言う。清河を信頼していた仙之助は、その申し出を承知する。
新徴組から分かれ、いよいよ津向一家の再興だと意気込む佐太郎に、仙之助は清河の語った話をし、みんなの命を俺に預けてくれと頭を下げる。津向一家を再興するまで仙之助を待って来た自分は、いつまでも一緒だという佐太郎を含め皆横浜居留地で金持ちたちの財産を盗ことを始めた。
まずは、バーネット商会に忍び込む仙之助。ベッドに眠っていたバーネットを起こし、刀を突き付け、絵画の下に隠されていた金庫を開けさせる。中には拳銃が入っており、形勢逆転かに思えたが、絨毯を引き、バーネットを転ばせ、拳銃を奪い、溜め込んでいた財産を懐に入れ逃げた。佐太郎と、やっとうを下げて侍の真似をするよりも簡単だなと笑い合う。それから立て続けに成功し、金銀、宝飾品を隠れ家に溜め込んだある日、好事魔多し、別手組に追われることになる。取り囲まれ間一髪、飛び込んで来た大村に助けられる。大村は、清河の命により、仙之助たちを見張っていたと言う。攘夷の勅命を手に入れた、清河は江戸に戻って来ると言う。いよいよ蜂起するのだ。
新徴組のメンバーと共に横浜に戻った清河は、仙之助と佐太郎が持って行った多額の軍資金と居留地の地図を「こんなことは君たちにしか出来ない」と言って大層喜んだ。しかし、侍たちは、既に不要になった津向一家を秘密保持の為に斬ると言う者が多かった。しかし、清河は、彼らを宥めるためか、「まだ、使えるうちは利用すればいいのだ」と言う。横浜外人居留地への攻撃は明後日に決まった。決行後船で、甲州に逃げることになっていた。甲州の足場作りのために、佐太郎は一足先に、身延山に行き、津向一家を再興してくれと頼まれ、喜び勇んで出掛けることになった。
しかし、仙之助は、武装蜂起し、外国人を斬った上、居留地に火を放つと言う、清河の計画に納得出来ない。居留地には日本人も大勢住んでおり、焼け出された町人は困ることになると、侠客として仙之助は、世の中のためになると言えないのではないかと思うが、清河は大事の中の小事だと取り合わない。
甲州に向かう最後の晩、お辰に気が向いたら甲州に来いと別れを告げて旅立とうとした佐太郎の目に、別手組隊長宇津美の姿が飛び込んで来た。思わず、刀を抜き宇津美を斬る佐太郎。宇津美は絶命したが、街中でもあり、佐太郎は拳銃で撃たれ追い詰められる。
傷付き逃げて来た佐太郎は、以前と同じく、瓢々堂の戸を叩く。仙之助は助けようと戸に近付くが、清河は、今捕り方たちに踏み込まれたら明日の決起が露見すると言って、戸を開くことを許さなかった。「開けてくれ!!佐太郎だ!!」と必死に戸を叩く佐太郎の叫び声は途絶えた。涙を流し、「人助けだと言いながら、自分かわいさに仲間を見殺しにするあんたたちには、愛想が尽きたぜ」と潜り戸を抜ける。店の前の路地には、佐太郎の姿はなく、大量の血だけが流れていた。そのまま、よろよろと去って行く仙之助。清河は、大村を呼び、「斬れ。親の敵討ちと秘密保持だ」と命じた。数人の浪士と駆けて行く大村。一人残った清河は痛恨の表情で、天を仰ぐ。
遊郭が立ち並ぶ通りの人混みを、茫然と歩く仙之助の姿がある。そこに、大村たち追っ手が抜刀して、取り囲む。悲鳴を上げて、逃げていく人並み。「用済みなった私を斬るってわけですかい」仙之助は、喧嘩剣法で、必死に身を守る。多勢に無勢、生きるためには、侍たちを捕まえ、転んで刃を逃れなければならない。必死の戦いが続く。懸命な仙之助の前に一人一人倒れていく浪士たち。最後に大村一人が残ったところで、既に傷ついていた仙之助は、かって吃安の出入りの際に斬った侍が大村の父だったことを知る。
新地の七兵衛(水原浩一)石坂周造(中村豊)壷ふり勘蔵(越川一)井出の久四郎(堀北幸夫)樋渡八兵衛(南条新太郎)佐伯紋三郎(尾上栄五郎)農民(東良之助、天野一郎)絹買商人(石原須磨男、愛原光一)丑松(木村玄)別手組侍(浜田雄史、舟木洋一)近藤勇(原聖四郎)源八(大林一夫)池田徳太郎(竹谷俊彦)万沢の久次(薮内武司)相撲の半次(千石泰三)留(黒木英男)斎藤熊三郎(有村淳)絹宿商人(芝田総二)長吉(北野拓也)
その後、麹町で一件打合せ。帰宅。
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