シネマヴェーラ渋谷で、妄執、異形の人々Ⅳ。
57年東宝青柳信雄監督『生きている小平次(534)』
奥州の郡山の芝居小屋、外題は四谷怪談。囃し方の太久郎(芥川比呂志)が太鼓を叩いている。舞台の上では、小平次(中村扇雀)がお岩を演じている。袖で見ていた一座の女おたね(一の宮あつ子)が、首を竦める。雨漏りのようだ。
楽屋で、小平次が太久郎に話があると言う。どうしたい?と太久郎が尋ねると、ここでは何だから改めて話すと言う。ドサ廻りも長くなった。江戸を離れて七十余日、小平次はもう江戸に帰りたいと言う。小屋の男が、太久郎さんに女のお客さんがと声を掛けに来る。出ていく太久郎に、あいつは囃子方のくせに、女にもてて、役者の俺たちはかたなしだと愚痴を言う。おたねが、あんまり酷いので、江戸に帰ったら、おかみさんのおちかに告げ口してやろうと思うと言う。太久郎は、地元の女(中田康子)と相々傘で、しっぽり。
近くの安積沼に小舟を出し、釣りをする太久郎と小平次。で、話ってなんだいとせかす太久郎に、意を決したように、お前のかみさんのおちかのことだが、きっぱり諦めて俺にくれと言う。もともと、小平次とおちかが想い合って4年、そろそろと思っていたところに、太久郎が、強引に口説いて嫁にしてしまったのだ。しかし、女房を役者に取られたとなると俺の面子は潰れる。お前にも言い分はあるだろうが、俺にとっても、おちかは恋女房だ。そんな相談には乗れねえなと言うと、思いつめた小平次と小舟の上で揉み合いに。舟は大きく揺れ、小平次は沼に落ちる。必死に船にしがみ付く小平次に、思わず、板で、舟をつかむ手を、頭を、叩く太久郎。大変なことをしたと、舟を漕ぎ逃げる太久郎。しかし、恨めし気に睨む小平次の姿が沼から浮かび上がる。必死に逃れようと櫓を漕ぐが、なかなか前に進まない。
空では、稲光と雨が降り始める。芝居小屋で、おたねが、「二人は遅いねえ。それにしても、おちかさんは可哀そうだ。二人の男の間で、気を使って胸を痛めているんだから同情しちまうよ」と言うと、役者たちは、「あの女は、そんなタマじゃない。小平次が着ている羽織は、おちかが縫ったんだ。普通だったら、夫の太久郎に縫うもんだろう。」と鼻で笑う。
江戸では、夫の太久郎の帰りを待つおちか(八千草薫) 。お祭りで喧嘩をする子供たちに声を掛けている。ふと、自分の名を呼ぶ者がある。見ると小平次だ。小平次の頭に傷があり、流血している。小平次さん帰って来たのかい?うちの人も一緒かいと尋ねるおちか。
56年東宝千葉泰樹監督『鬼火(535)』
土手をアイスキャンデー売り(佐田豊)の自転車が走る。腰を下ろして汗を拭っていた男が、呼び止める。彼岸を過ぎても、こんなに暑いと参ったと言う男に、私たちの商売は涼しくなったら、弱っちまいますがねと答える。
ガス会社の集金人、力丸忠七(加東大介)は、担当が山の手から下町に変わった。こちらは貧しい家庭も多く、なかなか回収できない家も多い。山岸家と表札の出ている家の勝手口から入り声を掛けるが、飼い猫が顔を出すだけだ。ふと台所を見ると、がま口が置いたままだ。手を伸ばすと、飼い猫は忠七を凝視する。元に戻し、鍋を被せる忠七。勝手口から出ると、農薬の散布器を背負った人相の悪い男(広瀬正一)が入って行こうとするので、この家は留守で、鍵が掛かっていると告げる。そこに、その家の主婦(中北千枝子)が帰って来る。魚屋で、がま口を忘れたことに気付いて戻って来たと言う。ガス会社の人間だと名乗り、近頃は物騒で、気になったので、鍋を被せておいたと言うと、主婦は、460円のガス代を払った上、ラッキーストライクを一箱くれた。下駄の鼻緒職人をしている叔父の家に訪ねる。今度、こっちの担当に変わったんだと言うと、何かしくじって、飛ばされたのかと叔父は言う。いや、なかなか集金に手こずる家も多いので、優秀な人間が担当させられるんだと忠七。
店の前を通った豆腐屋を呼んだ近所の女がシミーズ姿なのを見て、生唾を飲む忠七。いい稼ぎなんだろ、早くかみさんを貰えと言われて、安月給で下宿代を払ったら何も残らないので、結婚できないうちに、頭が薄くなってきちまったと忠七。ラッキーストライクを5本ばかり、お裾分けして、仕事に戻る。
次の家に向かう途中、集金人仲間の吉川(堺左千夫)と出会う。昼飯を食おうと言う吉川に、そこの家を片付けてしまうと答える忠七。
水原欣伍相談所と看板が出ている。勝手口から入り声を掛けるが返事はない。しかしガス台に掛かったヤカンがふきこぼれそうだったので、上に上がってガスを止める。ふと女中部屋に、女の艶めかしい脚が見え、いざって覗こうとすると、水原(中村伸郎)が浴衣を着ながら出て来て、覗くとはけしからん、名前を名乗れと叱責する。ヤカンがふきこぼれそうだったと弁明しても、ガス会社に電話してやると言うので、頭を下げ続ける忠七。電話が鳴り、女中(中田康子)が出て「奥様は、明日まで里に行っていらして留守です」と言うのを聞いて、思わずニヤリと笑ってしまう忠七。ガス代は、明日取りに来いと言う主人。
飯屋で、 吉川に愚痴っている忠七。そうか女中を頂いてたって訳か…。俺も2、3軒頂いたことがあると言う吉川。「女中か?」「女中もあれば、未亡人も…」と言われて生唾を飲む忠七。
次の家は、廃屋のようだ。あそこは、主人がずっと伏せっていて、全くとれねえぜと?。もともとは結構なウチらしかったらしく、かみさんは、なかなか磨けば光るタマだが…。ガタガタ鳴る勝手口の戸を開けると、薬湯を煎じている。声を掛け続けると女(津島恵子)が現れる。赤貧洗うがごとくの生活をしているが、なかなかの美人だ。夫は脊髄カリエスで7年も寝込んでいるらしい。ガス代は払えないが、薬を煎じないといけないのでガスは止めないでくれと懇願する。しかし、これだけ溜めていると無理だと答えてから、ふと女に欲情した忠七は、もし自分の相手をしてくれたら考えてやると言う。女は、頷くが、ここでは困りますと小さな声で言う。分かった吾妻町の水菓子屋の近くの、産婆の二階が俺の下宿だと言って、自分の名刺と電車代だと金を渡す忠七。女は、思い詰めた顔で、本当にガスは止めないで下さるんですねと言う。奥から夫らしい弱々しい声で、広子…と呼ぶ。
忠七はご機嫌で銭湯にいる。丹念に髭を当たっている。その頃、女の家では、鶏肉だろうか、煮込んでいる。女は、寝たきりの夫(宮口精二)に食べさせてやっている。美味しいなあ、今日のお前は優しいなと言う夫。「そうだ、お前は出掛けると言っていたじゃないか」「止めました。帯がありません。細ひも一つでは外出出来ない女の気持ちは、あなたにはお分かりにならないと思いますが…。」夫は、自分の兵児帯を外し、夜なら分からないのじゃないかと差し出す。
忠七は、まだ髭を当たっている。化粧をし、少し華やいだ表情の女が、忠七の下宿にやってくる。ちゃんと着物も持っているじゃねえかと言うと、一つしかない帯の柄が時代遅れで恥ずかしいと女。ここいらにしてはまあまあの味だと、寿司を勧める忠七。俺はこれをやるからと焼酎を手酌しようとすると、酌をしてくれる女。忠七に勧められ、寿司を食べる女。ほう、やっぱりこういう仕草に、ちゃんとした育ちだってことが知れるね。昔は大した家だったて言うじゃねえか、旦那は何をやっていたんだい?と言うと、昔のことは止めてくださいと女。そうだな、今日は泊っていけるんだろと言う忠七に、恥ずかしそうに頷く女・・・。顔を切りそうになって、我に帰る忠七。すべて妄想だった。鮨屋の親父(如月寛多)に、随分やに下がっているじゃねえかと冷やかされ、そうそう、上鮨二人前出前してくれ、上鮨だぜと念を押す忠七。
久しぶりの長風呂で、絶好調の忠七は、部屋で落ち着かない。鮨屋の出前が届き、一階に住む大家で産婆の松田しげ(清川玉枝)が、家賃を溜めているいるのにどうしたんだと怒ってくる。女の客が来る!!今日だけは訳ありなんだと、ひたすら頭を下げるしかない忠七。随分待ったが、女は現れない。上鮨は空振りだったかと思った時に、一階から声が掛かる。身を縮めた女だ。恥ずかしいので電気を消してくださいという女に、唇を舐める忠七。電気を消して、女を自分の部屋に上げる。窓を一度は閉めたが、暑いので窓を開け、簾を下ろす。
本当にガスは止めないで頂けるんですねと念を押す女に、内金を自分で払って、止められないようにしてやったんだ、信じられないなら伝票もあるぞと、スタンドを点けてしまう。女は昼間と同じ着物だ。気を取り直した忠七が、今日は泊れるんだろと聞くと、帰らないといけませんと言う。忠七は、時間がないなと、慌てて押入れから布団を出し始める。その姿を見て、女は急に我に返り、やっぱり出来ませんと言って、脱兎のように走り、帰って行った。玄関で擦れ違った大家のしげが、笑いながら上がってくる。堅気さんだろ、堅気さんは焦っちゃいけない、その気で来ても、考えちゃうもんだ、次には出来るんだから・・あんたはまだまだ駄目だねえ、自棄酒かい?上鮨いただこうかね?勝手にしやがれ!!さすがに、中々おいしいねというしげの尻に目が行き、手を伸ばす忠七。おしげは、手をぴしりと叩き、「酔わす奴の下心~♪」と唸って笑う。
女が帰宅する。夫は、目を瞑っているが眠ってはいない。帯を返す女。静かに目を閉じる夫が、考えていたことに気付いた女は、私はガスを止められないように、男の元を訪ねてしまいました。しかし、我に返って、帰ってきました。何もなかったんです。昼間、ガス会社の集金人が来た時に、ガスを止められない一心で、承諾してしまいました。魔が差したんです。でも大丈夫だったんですと女。そんなことなら、もっと早く身を売っていればよかったのに・・・。しかし夫は、何も言わずに目を閉じる。あなたは、信じていらっしゃらないんですねと、夫に泣き崩れる女。夫が、女の肩を抱き「俺たちって、不幸だな・・。」と声を掛ける。
翌日、忠七は水原の家を訪ねる。女中は旦那さまが今日はいないので払えないと小声で言う。すると奥から、妻(三條利喜江)が現れ、昨日主人が言ったんですか?昨日主人は家にいたんですか?と目を吊り上げる。
昨日、恥をかかせたあの廃屋に入って行く忠七。吉川が、その家は回収できないだろと言うと、元手が随分掛かっているんだと入る忠七。勝手口の戸は開かない。中を覗くとガス台に火が灯っている。止めないと思ってひどいことしやがると呟いて、玄関に廻る。無理矢理戸を開けて入ると、布団に寝る病人らしき姿がある。電球を点けようとするが、電気を止められいるのか、灯りはつかない。ふと台所の方を覗いた忠七が、腰を抜かす。ガス台の火に照らされて、女が首を括っている。腰を抜かしたまま、後ずさりをすると、寝ている病人にぶつかる。暗さに慣れた忠七の目に、死んでいる夫の姿が映った。
腰を抜かしたまま、済まなかった!済まなかった!!と言いながら、転げながら廃屋から逃げようと必死な忠七。
鬼火といえば、ルイ・マルな感じだが、46分の掌編。小心者の加東大介、類型的な描写だが、やっぱりうまい。しかし、本当に救いのない映画だ。岡林の「チューリップのアップリケ」のように、「みんな貧乏が、みんなビンボが悪いんや」。今村昌平映画のように、底辺の人間の生きるど根性が一切ない、宮口精二と津島恵子の夫婦は、よくここまで生き延びたなという感想だ。夫の最後の台詞「俺たちって、不幸だな・・。」夫婦涙、涙。もう少し早く気がつけよと突っ込みたくなってしまう。貧乏で死人が出た時代の最後だったかもしれない。既に、新たにその時代は始まってはいるが・・・。
ガス同様、電気も水道も払っていないだろうに、通じている。電話→電気→ガス→水道の順番だったろうか。セイフティ・ネットという言葉もなく、民主党もなかった時代の話である(笑)
池袋新文芸坐で、魅惑のシネマクラシックスVol.10 輝ける名画の世界へ。
63年フェデリコ・フェリーニ監督『81/2(536)』
30年以上前に、フェリーニのオールナイト上映を何度見ても爆睡していたのは、ここ池袋文芸坐だっただろうか。
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空では、稲光と雨が降り始める。芝居小屋で、おたねが、「二人は遅いねえ。それにしても、おちかさんは可哀そうだ。二人の男の間で、気を使って胸を痛めているんだから同情しちまうよ」と言うと、役者たちは、「あの女は、そんなタマじゃない。小平次が着ている羽織は、おちかが縫ったんだ。普通だったら、夫の太久郎に縫うもんだろう。」と鼻で笑う。
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店の前を通った豆腐屋を呼んだ近所の女がシミーズ姿なのを見て、
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水原欣伍相談所と看板が出ている。
飯屋で、 吉川に愚痴っている忠七。そうか女中を頂いてたって訳か…
次の家は、廃屋のようだ。あそこは、主人がずっと伏せっていて、
忠七はご機嫌で銭湯にいる。丹念に髭を当たっている。その頃、
久しぶりの長風呂で、絶好調の忠七は、部屋で落ち着かない。鮨屋の出前が届き、一階に住む大家で産婆の松田しげ(清川玉枝)が、家賃を溜めているいるのにどうしたんだと怒ってくる。女の客が来る!!今日だけは訳ありなんだと、ひたすら頭を下げるしかない忠七。随分待ったが、女は現れない。上鮨は空振りだったかと思った時に、一階から声が掛かる。身を縮めた女だ。恥ずかしいので電気を消してくださいという女に、唇を舐める忠七。電気を消して、女を自分の部屋に上げる。窓を一度は閉めたが、暑いので窓を開け、簾を下ろす。
本当にガスは止めないで頂けるんですねと念を押す女に、内金を自分で払って、止められないようにしてやったんだ、信じられないなら伝票もあるぞと、スタンドを点けてしまう。女は昼間と同じ着物だ。気を取り直した忠七が、今日は泊れるんだろと聞くと、帰らないといけませんと言う。忠七は、時間がないなと、慌てて押入れから布団を出し始める。その姿を見て、女は急に我に返り、やっぱり出来ませんと言って、脱兎のように走り、帰って行った。玄関で擦れ違った大家のしげが、笑いながら上がってくる。堅気さんだろ、堅気さんは焦っちゃいけない、その気で来ても、考えちゃうもんだ、次には出来るんだから・・あんたはまだまだ駄目だねえ、自棄酒かい?上鮨いただこうかね?勝手にしやがれ!!さすがに、中々おいしいねというしげの尻に目が行き、手を伸ばす忠七。おしげは、手をぴしりと叩き、「酔わす奴の下心~♪」と唸って笑う。
女が帰宅する。夫は、目を瞑っているが眠ってはいない。帯を返す女。静かに目を閉じる夫が、考えていたことに気付いた女は、私はガスを止められないように、男の元を訪ねてしまいました。しかし、我に返って、帰ってきました。何もなかったんです。昼間、ガス会社の集金人が来た時に、ガスを止められない一心で、承諾してしまいました。魔が差したんです。でも大丈夫だったんですと女。そんなことなら、もっと早く身を売っていればよかったのに・・・。しかし夫は、何も言わずに目を閉じる。あなたは、信じていらっしゃらないんですねと、夫に泣き崩れる女。夫が、女の肩を抱き「俺たちって、不幸だな・・。」と声を掛ける。
翌日、忠七は水原の家を訪ねる。女中は旦那さまが今日はいないので払えないと小声で言う。すると奥から、妻(三條利喜江)が現れ、昨日主人が言ったんですか?昨日主人は家にいたんですか?と目を吊り上げる。
昨日、恥をかかせたあの廃屋に入って行く忠七。吉川が、その家は回収できないだろと言うと、元手が随分掛かっているんだと入る忠七。勝手口の戸は開かない。中を覗くとガス台に火が灯っている。止めないと思ってひどいことしやがると呟いて、玄関に廻る。無理矢理戸を開けて入ると、布団に寝る病人らしき姿がある。電球を点けようとするが、電気を止められいるのか、灯りはつかない。ふと台所の方を覗いた忠七が、腰を抜かす。ガス台の火に照らされて、女が首を括っている。腰を抜かしたまま、後ずさりをすると、寝ている病人にぶつかる。暗さに慣れた忠七の目に、死んでいる夫の姿が映った。
腰を抜かしたまま、済まなかった!済まなかった!!と言いながら、転げながら廃屋から逃げようと必死な忠七。
鬼火といえば、ルイ・マルな感じだが、46分の掌編。小心者の加東大介、類型的な描写だが、やっぱりうまい。しかし、本当に救いのない映画だ。岡林の「チューリップのアップリケ」のように、「みんな貧乏が、みんなビンボが悪いんや」。今村昌平映画のように、底辺の人間の生きるど根性が一切ない、宮口精二と津島恵子の夫婦は、よくここまで生き延びたなという感想だ。夫の最後の台詞「俺たちって、不幸だな・・。」夫婦涙、涙。もう少し早く気がつけよと突っ込みたくなってしまう。貧乏で死人が出た時代の最後だったかもしれない。既に、新たにその時代は始まってはいるが・・・。
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63年フェデリコ・フェリーニ監督『81/2(536)』
30年以上前に、フェリーニのオールナイト上映を何度見ても爆睡していたのは、ここ池袋文芸坐だっただろうか。
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