2011年2月28日月曜日

「悪魔を見た」を見た。神と悪魔の戦いを見た。

  朝、通勤時間帯に地元西荻駅で人身事故あり。ホームに現場検証のチョーク跡が…。こんな時間に出掛け、通勤に迷惑がかからぬ中年フリーターの自分だからの感想だろうが、どんな人だったんだろうと考えると切ない。
     元会社に顔を出し、独身美人OLに惣菜差し入れつつ、人から頼まれていたSHANTIの音資料預かる。
   六本木シネマートで、
   キム・ジウン監督『悪魔を見た(5)』
   夜、雪が降っている。フロントガラスを間欠ワイパーが動いている。一度警告灯が点滅するパトカーとすれ違った後は、ライトに映るのは、ガードレールと枯れ草と山肌だけだ。一台の白いステーションワゴンが停止している。
    中で若い娘チャン・ジュヨン(オ・サナ)が電話をしている。「今日神父さまと会ったの。とても素敵な教会だったわ。ああいうところで結婚式を挙げたいわ…」車に近づく男の影、ガラスを叩き「パンクですか?」「ええ、でもレッカー車を呼びましたから…」「雪道たがら時間が掛かるだろう。タイヤを見てこよう」返事も聞かずに後輪を見に行く男。娘の電話の相手、国家情報院捜査官のスヒョン(イ・ビョンホン)、ホテルの一室で同僚たちとスタンバイ中だ。「断ったのに、タイヤを見るって!?しつこく言ってるのはおかしいんじゃないか。あっ、ちょっと待って…、これから仕事なんだ」ドアを開け「このままで!~♪愛は~甘くて~母のように~♪えっ!?タイヤを交換するって?毎年誕生日が仕事でゴメン!?」電話を切るスヒョン。雪の中、「これ、完全に潰れているよ」ジュヨンきっぱり「ありがとうございます。でもレッカー車を待ちます」男は車に戻って行く。黄色いバンには、「塾生」「送迎車」
と描いてある。何故か動かないバンに、不安げな表情のジュヨン。
    突然大きなスパナでフロントガラスを叩き割る男。逃げようとするジュヨンに襲いかかる男。激しく抵抗するジュヨンの顔を殴り続ける男。
   フロントガラスが割れたステーションワゴンから、気絶したジュヨンを引きずっている男。雪の上には、大量の血痕がある。男の車が動き出し、残されるステーションワゴン。
   ビニールの袋を開ける男。中には全裸で血だらけのジュヨンが入っている。腕に鎖を捲き、包丁を選ぶ男。ジュヨンが衰弱しきった小さな声で「ちょっと・・・、ちょっと・・・、待って・・・・・・・・・どうしても殺す・・ん・・・・・です・・・・・か・・・・・」「なぜ」「わたし・・・・お腹に子供がいるんです・・・・助けてください・・・・・お願い・・・・・・・・」包丁を振り下ろす男。
   物体を解体するように作業する男。もちろん、少し前までスヒョンの肉体だった肉塊。婚約指輪が転がり落ち、排水溝に落ちる。床に水を掛け、床をモップでこする男。一仕事終えたように、平然とゴムカッパを、ゴム手袋を脱ぐ男・・・・。
   枯れ草を叩きながら河原を歩く子供。黒いビニールを見つけ、棒で拾い上げる。中を覗き、「ドンス兄ちゃん!!!」「何だ?」「早く!こっちに来て!!!」焚火をしていた二人の男の子が駆け寄る。
   同じ場所で夜になっている。河原を、川の中を捜索する警官たち。100人を超える警官が動員されていた。元上司のチャン(チョン・グックァン)が近寄って来るのを見て、凶悪犯罪課のオ課長(チョン・ホジン)「どうしてここに!?家で報告を待っていて下さいと言ったじゃないですか」「わが娘はどうした!?」そこに、スヒョンも駆け付けてきた。取材陣や警官で大騒ぎになっている。
  川の中を探していた一人の警官が、水中に漂う黒髪を見つけた「チョ刑事!!!」黒髪がついた丸い球状の物体。思わず、腰が引ける二人、鑑識を呼ぶ。オ課長が部下に叫ぶ「チャン班長を頼む!!」しかし、チャンは「ジュヨン!!」と叫んで駆け寄った。フラッシュが焚かれる中、取材陣とそれを遠ざけようとする警官たちでもみくちゃだ。段ボールを抱えた鑑識官が突き飛ばされ、段ボールの中の頭部が転がりだす。凍りつくスヒョン。周りの騒ぎが遠くなっていく・・・。
  山の中の斎場、崖の上にあるベンチの上に、死んだジュヨンの父、チャンが座り込んでいる。そこに礼服姿のスヒョンがやって来て、隣に座る。チャン「天が助けてくれたんだ。でなければ遺体は見付からなかったろう」「お義父さん・・・」「許してくれ・・・わたしは、30年間重犯罪(凶悪犯罪)の刑事だったのに、娘を守ってやれなかった・・・」煙草を吸おうとするチャン「お義父さん、煙草はやめて・・・」「すまない・・・ほんとうに・・・すまない・・・君にも・・・ジュヨンにも・・・」泣き崩れるチャン。二人の後ろにコーヒーを両手に持った、ジュヨンの妹セヨン(キム・ユンソ)が立ち尽くしている。
   火葬されるジュヨン。彼女の友人たちが号泣している。スヒョン「ごめんよ。約束していたのに・・・。約束する。君の苦しみを犯人に倍にして返してやる。泣きながら遺影に誓う。
国家情報院で上司を前にしているスヒョン「で、どれくらい?2か月くらい休むか?」「半月もすれば戻ります」「わかった、手続きをしておくから休んで来い!!」部屋を出て行くスヒョン。上司の二人が話している「婚約してから1ヶ月足らずで、こんなことになるのか・・・」「ひどい世の中だ」
  情報院の地下駐車場。車の中にいるスヒョン。後輩が回りを気にしながらやって来る。封筒から小さなものを出す。「これが、GPSとマイクが内蔵されたカプセルです」「ありがとう」「これは別の部署から、こっそり持ち出したんですから、何かあったら、僕だけでなく先輩も大変なことになりますよ」「大丈夫だ」
チャン家、チャンが手配書をスヒョンに見せている「警察は、その4人を有力容疑者と見ている」その時、妹のセヨンが帰宅する。慌てて手配書を隠すスヒョン。セヨン「お義兄さん!夕飯を、今から作ります。食べて行って下さい」「いや、もう出かけなければならないんだ」見送るチャン。
  帰宅したスヒョン、壁に4人の手配書を貼り、スマートフォンで撮影をする。
  4人の容疑者の一人の家の前、覆面パトカーが止まり二人の警官が張っている。「あいつ、じっとしてやがる・・・」警察無線を盗聴していたスヒョンが車から降り、裏から男の部屋の前に行き、中の様子を窺う。日本のAVを見ながら自慰をしている男。射精した途端、PCの電源が落ちる。トランクスを腰まで落としながら男が床の電源コードを探す。ふと後ろを見ると、スヒョンが電源コードを持って立っている。男の首にコードを回し、首を絞めるスヒョン。雪の中に乗り捨てられた白いステーションワゴンの写真を見せ「見覚えは?!」泣きながら必死に首を横に振る男。「そうかい・・・」スヒョンは近くの金属バッドを掴み、男の股間を強打する。失神する男。
  病院に駆けつけるオ課長。部下たちから報告を受けている「えっ?自首してきたのか?2か月前の女子中学生殺害を・・、それだけではなく、数年前の女子高生失踪事件もか?!・・・」ベッドで瀕死の状態の男。凶悪班の刑事たち笑いをこらえている。恐怖にかられたままの男「た・・・助けて・・・くだ・・さい・・・」「誰の仕業なんだ!!!ハンマーであそこを潰されたなんてックックッ・・・」
  バイクに乗った男を追跡する車。バイクが一時停止をすると、そのまま追突する。吹っ飛んだ男の下に駆け寄ってスヒョンは、殴る蹴るの暴行を加える。男「誰だ!?・・・」
   その夜、壁に貼った手配書のうち2枚を破り捨てるスヒョン。3人目の男の写真を手にする。ギョンチョル(チェ・ミンシク)だ。スヒョンの部屋は、高層ビルの中のスタイリッシュな高級マンション。夜景にカメラがパンする。
   ひと気のない停留所に、若い娘が立っている。車が近付く。あの黄色い進学塾の送迎用バンだ。女の前に車が停まる。ギョンチョル「おやおや。バスはもうないだろう。どこまで帰るんだい?ソンミンマンション?回り道ではないので、送って行こう」「いや、大丈夫です」「でも、車も通らないよ」辺りを見渡し、女は助手席に乗り込む。「塾の車なんですか?」走りだす車。ギョンチョルがしきりと、後部座席のあたりを探している。突然車を止める。不安そうな女。右手に鉄パイプを持っているギョンチョル。「これが何かわかるか?」いきなり頭を強打する。女の頭は陥没し、血が流れている。
   ギョンチョルの家、殴られ暴行を受けた女の首を大きな鉄板で切り落とすギョンチョル。入浴をすませたのか、寝室で、頭を櫛で梳かし、顔にローションを塗り、ギターを弾くギョンチョル。
   田舎のとある家の様子をうかがっているスヒョン。不審そうに老婆が声を掛ける「どなた?」家の中、老婆「保険金の支払いにこんなものがいるのかい?」「ご契約者と同一人物かどうか確認をしなくてはならないんです。チャン・ギョンチョルさんは、どちらにお住まいですか」「わたしは知らないけれど、孫は知っているよ。サンウォン!!サンウォン!!さっきまでいたんだけれど・・ヤンピョンだか、チョンピョンだか言った筈だけど・・・」横になっていた老人が毒づく「あんな出来そこないが保険なんてありえないね。親も息子も捨てて行ったような奴だ」老婆「そんな言い方をするもんじゃないよ」スヒョン、手配写真を老婆に見せる「これは、チャン・ギョンチョルさんですよね」「そうだけど・・・ああ、こんな恐ろしい顔になってしまったのかい」家を出ると、外でギョンチョルの息子サンウォンがサッカーボールを蹴っている。サンウォンに尋ねるスヒョン。
   ギョンチョルの家、忍び込むスヒョン。ベッドマットの下などを探る。南京錠が厳重に掛けられている引き出しを抉じ開ける。中には、ギョンチョルが殺害した女たちの靴やバッグ、装飾品が入っていた。ドアの音がする。ギョンチョルが戻って来た訳ではなかった。ドアの中の倉庫のコンクリートの床は血のあとがある。スヒョンは排水溝に、血みどろの婚約指輪を見つける。これこそ、チョンジョルがここでジュヨンを殺害した証拠だ。涙するスヒョン。
  入試専門塾の前、ギョンチョルが運転する黄色いバンに女子中学生たちが乗り込む。女教師「回り道しないで、必ず帰らせて下さい」バンが出発すると、警官たちが入って来る。「ギョンチョルはどうした?!」「たった今、生徒たちを送って行きましたよ」「しまった!!」オ課長が携帯で部下たちを罵っている「ギョンチョルを見失ったと?お前たち、何を見張っていたんだ!?」凶悪犯罪班の刑事たち「ギョンチョルの携帯に電話をしてください」
  ギョンチョルの車には、眠った女生徒が一人だけ残っていた。塾からの呼び出しがかかっているのを見て、警察が嗅ぎつけたことにギョンチョルは気がつく。「くそ!!」
  ビニールハウスが並ぶ畑の畔道に、ギョンチョルの車が停まっている。
   

  目をそむけたくなるシーンの連続だ。ただのシリアルキラーものかと思っていたが、
そんなものではない。「悪人」の百倍濃い映画だ。「悪人」は、誰が悪人なのか、性善説、性悪説、両方から解釈できる余白を残していたが、悪魔を見てしまうこの映画は、人間の善悪、神と悪魔、神学論の世界に入って行ってしまう。神による完全なる復讐は可能か?死刑は誰の救済なのか?凡人は、ただただ神と悪魔の戦いを見続けるしかないのか・・・。


    矢崎仁司監督『不倫純愛(6)』
    鉛筆を削る女(嘉門洋子)。変わって、瀟洒な一戸建て住宅(本当はただの建売住宅だけど・・・)、夜から朝に変わる。表札は辰波となっている。玄関を開け主婦真知子(中村優子が出てくる。朝刊を取り、皿を手に持ち「ノラ~、ノラ~、ノラちゃーん!!」と野良猫を呼ぶ。書類封筒が地面に置いてあるのに気がつく、手に取りながらも首をかしげる真知子。
   台所、真知子がたどたどしく(苦笑)胡瓜を切っている。二階から夫の辰波京介(津田寛治)が下りてくる。ダイニングテーブルに座る。テーブルの上には、ベーコンエッグ。「はい」書類封筒を差し出す真知子。「なんだい?」京介。「家の前にあったの」「開けなかったのか?」「だって気持ち悪いもん。あなたの浮気現場の写真が入っていたらやだし・・・」「ばかだな」京介が開けてみると、黄色いバラが一輪入っている。受け取った真知子「うーん、いい香り」花瓶に生けようとして「痛いっ」棘を指に刺したようだ。バラ以外には、原稿が入っている。「白と黄色の薔薇の花」岡セイジと書いてある。「岡セイジって、あのベストセラー作家の?」「創刊10周年のパーティで紹介しただろ」「あの時は随分人がいたから・・・。どういう人」「写真嫌いで有名だけど、まあもったいないほどの美男子だ。覚えていないのか」「あの時は、副編集長の西井さんしか覚えていないわ。あの人、ニヤニヤしていて、気持ち悪いんだもの・・・」
  新世紀文学編集部、岡セイジの原稿を手に、正にニヤニヤしている西井。「大手出版の編集者にざまあみろと言いたいですね。さすが、編集長!あの岡セイジの連載を取ったんですから・・・」「その原稿がまだ岡セイジのものだと確認が取れたわけじゃない」「でも、編集長の家の前に置いてあったということは、ウチで連載してくれということでしょ」「ちょっと、行くか?」西井を誘い喫煙所に行く辰波。途中会った女性アシスタントに「松下くん!岡セイジ事務所に連絡してみてくれ」
   喫煙所、「本当に、岡セイジの原稿ですって・・・。川島麗子が主人公ですし・・・」松下がやってくる「編集長!岡セイジ事務所、ずっと留守電なんですが・・・」
   自ら岡セイジ事務所に向かう辰波。古い大理石のビルの前に、車が停まる。サングラスをかけた女が降りてくる。中に入って行く女。女のあとをついて階段を上る辰波。岡セイジ事務所という名札が架かっているドアの前に女は立ち止まる。辰波「あの・・・」「何?」「どこかでお会いしましたよね」サングラスを外す女「何か?」「岡先生にお会いしたいんですが」「もしかして、あいつ死んでんじゃないかと思って・・・」ドアの鍵を開け中に入り、机の上に気怠く、腰を下す女。「どうぞ入って」中には誰もいない「あいつ、どこ行ったんだろ」「心当たりないんですか?」「別荘に行ってみる?」
  女の車に乗り山梨にある岡の別荘に向かう辰波。トンネルの前で女が車を停める。編集部に電話をする。「不思議だな、やっぱり、あなたとは初めて会った気がしません」「どういうこと?」「あたし、川島麗華」

川島澪/ナツコ(嘉門洋子)香岡セイジ/神埼/ハルヲ(河合龍之介)トモミ


多分、2011年度のベストとワーストの2本立て。

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