シネマート新宿で、スコット・クーパー監督『クレージー・ハート(107)』
古びたステーションワゴン(78年製のシボレー、サバーバン)が、コロラドの片田舎のボーリング場の駐車場に停まる。ニュー・メキシコからの長旅で疲れた初老の男が降りてきて、「ジャックの野郎!ボーリング場じゃねえか。騙しやがって!」と吐き捨て、ペットボトルに入った小便を捨てる。かってヒットを連発した伝説のC&W歌手のバッド・ブレイク(ジェフ・ブリッジズ)、57歳だ。
バッドは、中年太りの腹をジーンズのチャックとボタンとベルトで締めて、ボーリング場に入る。オーナーの?は「あなたの大ファンです」と感激しているが、煙草を咥えたバッドに、ここは禁煙なので、その1本にしてくださいと言うは、カウンターでウィスキーを頼むと、アゴ枕は持つことになっているが、酒代は自分で払って下さいと言う。カウンター内の小娘に4$80¢と言われて払うが、ポケットの中には10$しか残っていない。
モーテルの部屋で、マネージャーのジャック(ポール・ハーマン)に電話で文句を言っているバッド。新しいアルバムのレコーディングをと言っても、新曲を作らない限りレコード会社はOKしない。かって自分のバンドにいて、現在は大スターになっているトミー・スウィートにデュエットアルバムでも了解してもらわない限り、ありえない話しだと言われ、10$しかないので金を送ってくれと言っても、ツアーの初めに送っただろうと言って、電話を切られてしまう。
ドラッグストアで酒を買おうかどうしようか迷っているバッドに、店主は声を掛け、夫婦揃って大ファンだ、あなたの好みは“マクルーア”ですよねと言って、プレゼントしてくれる。モーテルに戻り、酔いつぶれていると、夜のライブでバックバンドを務める地元の若者トニー(ライアン・ヒンガム)が、リハーサルをしたいとやって来るが、譜面と自分のCDを渡し、食事を済ませたら行くよと答える。
トミーの演奏で曲は知っているというトニーに、こいつもトニーかと不機嫌になったバッドは、結局酔いつぶれてライブの直前にやっと、ボーリング場に現れる。「来ないかと思いましたよ」と言うトニーに「病気、二日酔い、離婚、警察に追われても、ショーを休んだことはない」と答えるバッド。トニー達のバンドは、なかなかいい演奏をしている。トニーが「本日の特別ゲスト、伝説のシンガー、バッド・ブレイク」と紹介をすると、高齢の客ばかりだが、歓声が上がる。ドラッグストアの店主も、妻を連れて来ている。しかし、店で夫婦に贈るといったヒット曲さえ、1コーラスで、ステージから降り、楽屋裏で、ゴミ箱にゲロを吐いている始末だ。
翌朝、ベッドで鼾を掻く地元のおばちゃんを残して、サンタフェに向かうバッド。サンタフェのバーに着くと、誰もいない店内で、ピアニストのウェズリー(リック・ダイアル)が弾いていた。プローを目指したが、今では趣味で弾くだけだと言うウェズリーに、うまいピアニストはなかなかいない、今日は楽しくなりそうだと答えるバッド。ウェズリーは、姪が地元の新聞記者をしているのだが、取材を受けてやってもらえないかと頼む。随分久し振りの取材だがいいだろうと答えるバッド。
バッドがモーテルで、シャワーを浴び、バスタオル1枚で、食事をしていると、地元記者のジーン・クラドック(マギー・ギレンホール)がやってくる。呼び込んで、彼女が若い女性だと知ったバッドは、慌てて、少し待ってくれと言い、シャツとパンツを着て、部屋に呼び入れる。若くて美しいジーンを気に行ったバッドは、音楽を始めたきっかけや、子供の頃野球選手になりたかったが、カーブが打てなくて諦め、C&W歌手を目指したことなど話すが、4度の離婚やトミーのことに話しが及ぶと、不愉快になり、続きは今日のライブの後にしてくれと、ジーンを帰してしまう。
初老の男の恋、身につまされるなあ。ベルトを緩め、ボタンを開けジッパーも半分下して運転する姿、酒浸りでだらしない肉体・・・。かっての栄光と現在の境遇のギャップを酒で騙しても、自分で運転するドサ回りか、かっての教え子の前座でしか大きなステージで歌えない現実・・・。個人的に、若い娘との恋は成就を熱望したが、哀しい結末。乗り越えていくしかないのか・・・。
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